(4)始まりは
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どの社交パーティでも同じことだが、入場順は明確に決められている。
ルーカスが出席することになっている王家主催のパーティは、一般招待客、国内爵位順、国外招待客、王族の順になる。
ルーカスの場合は小さいとはいえガルドボーデン王国では国と認められているので、国外招待客の枠にあたる。
そしてパーティの規模によって違うのだが、入場の際に名前を読み上げられることもある。
今回の場合はパーティ自体の規模が大きく、参加人数が多いという理由で名前の読み上げは省略されている。
さらにルーカスの場合はフェデーレ王子が同行していることで、国外招待客の中でも最後の方に入場することになっていた。
ただし別に名前の読み上げがあるわけではないので、その他の国外招待客とほぼ同時に入場することになった。
それでも王子と一緒に入場ということで、他の出席からの注目を浴びる結果となっていた。
ルーカスが王子と一緒に入場するという話はすでに噂として出回っていたのか、ルーカスのことを初めて見る貴族も軽くひそひそ話をしながら様子をうかがっていた。
ただしすぐに直接話しかけてこようとする者はいない。
主催である国王がまだ入場していないので、それよりも前に出席者が好き勝手に会話を始めることはマナー違反とされているためだ。
この辺りのマナーはどの学校でもイの一番に習うことなので、流石にそのマナーを破ってまで突撃してくるものはいなかった。
「――数百名近くなると聞いていましたが、さすがに多いですね」
「ほぼ全ての国内貴族がいる上に、その配偶者もいますからね。一般招待客と国外招待客はそれぞれ十名ほどですが……あの辺りにいるのがそうでしょう」
ルーカスたちがいる一角は国外招待客に割り当てられたエリアで、一般招待客はまた別のエリアに固まっている。
この塊はパーティが始まると同時にばらけることが常だが、そもそも一般招待客の場合は貴族に知り合いなどいないことがほとんどなので、ばらけることなく固まったままでいるのが通例だそうだ。
ルーカスに割り当てられている国外招待客はそのほとんどが外交官にあたるので、パーティ開始と同時に積極的に動き始めることになる。
ただしルーカスの場合は特に自分から動いて何かを為す必要があるわけではないので、割り当てられた区域で大人しく食事にいそしむことに決めている。
そんなルーカス組が入場してさほども立たずして、主催であるリチャード国王が会場に入ってきた。
リチャード国王も場をわきまえているのか、単にそういう風習なのかはわからないが、手短に挨拶を終えて本格的にパーティ開始となる。
国王の挨拶が終わるのと同時に会場の端に設置されている楽団が演奏を始めたことで、それぞれが思い思いの場所へと向かい始める様子が見られた。
パーティが開始してからしばらくの間は、ルーカスのところに来る参加者はいなかった。
その代わりといってはなんだが、同行者であるフェデーレ王子やジルッド学校長の元には何人かの知り合いが来て軽いあいさつ程度の会話をしていた。
そんな者たちもルーカスのことは認識しているらしく、それでも小さく会釈を済ませる程度で終わっていた。
そのお陰で、ルーカスはパートナーとして付いてきていた藤花と一緒に食い気を発揮させることに成功している。
そんな状況に変化が訪れたのは、パーティが開始してから三十分ほどが経った頃。
小さな騒めきと共に現れたその人物が、グラスを片手に話しかけてきた。
「楽しんでおるか、ルーカス。藤花殿もいつも以上に花が咲いたような美しさであるな」
「陛下。わざわざこのような場所に来る必要はあったのですか?」
「何。他の者と話をする必要があったからな。そのついででもある。――おっと。ついでというのは少し言いすぎだったか」
「陛下。ルーカスも戸惑っております。お戯れもほどほどになさいませ」
ハハハと笑っているリチャード国王に、同行者のフェデーレ王子がたしなめるような言葉を口にした。
失礼だと言いつつもそ国王顔は明らかにわざとだと語っていて、ルーカスもそれが冗談だとわかっている。
ただこの二人のやり取りを見ていた周囲の者たちは、考えていた以上の親密さに動揺を隠せずにいた。
ルーカスのことを小さな島の領主気取りと見下していたわけではないが、それでもいくら褒章を送った相手とはいえここまでとは考えていなかったのだ。
「――それにしてもこの会は陛下自らがお動きになられるのですね。主催なのですから挨拶を受ける方だと考えていたのですが」
「ルーカスの考え方は間違っていない。ある程度の規模の社交会は、主催の元へと向かうのが主だ。ただこの会は少し特別でな。初代様が決められたルールで行われておる」
「初代様が、ですか。どんなルールなのか気になりますね」
「何。そこまで難しいことではない。『折角の社交なのに、偉そうな椅子にふんぞり返って挨拶を待つばかりではいい関係など築けないだろう』と仰ったらしい」
言いたいことはよく理解できるが、それでも随分と極端な意見だなともルーカスは考えていた。
確かに一段高いところにある椅子に座って威厳を振りまくだけでは、ただの独裁政権が恐怖政治にしか向かない可能性はある。
そういう意味では一里も二里もある考え方なのだが、パーティの主催が決められた場所で挨拶を待つのはそのほうが分かりやすいからという理由もある。
初代の頃の時代背景を考えると、内政も外交も積極的に『仲良くなる』必要があって敢えてこんな言い方をしたのではないかとルーカスはリチャード国王の話を聞いて考えていた。
ちなみにこのシステムは、どこぞの握手会のように流れ作業的な挨拶を交わすだけで終わらないという副次的な効果ももたらしている。
今となってはそちらの効果のほうが大きいので続いているまであるのだが、表向きにはあくまでも『初代の意向』を押していた。
要するに、大事な社交界で国王が順番を付けているのかという批判をかわすための建前になっているわけだ。
当然のようにこの制度を苦々しく思っている貴族は存在しているが、それでも今まで続いているのは結局のところこの制度で文句を言う貴族はそこまで力がない(なかった)からということになる。
「ルーカスはこのような場は初めてのはずだが、楽しんでおるか?」
「少なくとも普段このような豪華な食事を口にすることはありませんので、有り難く頂いております。今のところの目標は、目指せ全制覇です」
「ハハハ。それも若さだな。料理人が此度の会のために励んで作った物だ。そなたの口を楽しませることができたと知れば喜ぶであろう。このような会では、折角の料理に手を伸ばさない者も多いからな」
「それはもったいないです。少なくとも間違いなくこの国ではトップクラスの味でしょうに」
心の底から残念そうに言ったルーカスに対して、リチャード国王はもう一度「ハハハ」と笑い声を上げてからこの場から立ち去って行った。
ガルドボーデン王国にとって中継島は重要な存在であることに違いはないが、この場には他国の代表も何人か来ている。
国王としてそちらを放置するわけにもいかず、ルーカスにばかり構っているわけにはいかな。
それにルーカスであればこの場ではできないような突っ込んだ話もいつでもすることができるので、ここで長話をする必要性もない。
ただ国王と会話をしたことで、周囲の視線がこれまでのどうするべきかといった探るようなものから別種のものへと変化していた。
その種類は人によって様々だったが、いずれにしても今までのようには行かなそうだとルーカスは内心でため息を吐いていた。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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