(3)もう一人の補佐

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 ガルドボーデン王国の王城には、貴族たちが舞踏会を開くための会場が併設されている。

 今回のように王国内にいるほぼすべての貴族が集まるだけではなく、国外からの招待客などを含めて大勢の人数が入れるだけのキャパシティがある大きな建物になる。

 初代の頃から王城に併設されている舞踏会場はあったのだが、時代の変化と共に変わる建築様式に合わせて今はまた別の建物に変わっていた。

 初代が遺した建物や遺物を多く残しているガルドボーデン王国だが、舞踏会場に関しては時代と共に変わる様式に合わせて変えていくべきだという考えの下で何度か建て替えが行われている。

 実際問題として城下にある町の建物も建築技術の向上と共に変わっているのだから当然の対応といえるかもしれない。

 もっとも古い建物もそれはそれで価値があるという考え方が残っているので、城下にある町の中にも古いまま今も使われている建物はある。

 古い建物と新しい建物が混在して残っているという町は、ルーカスが知っている前世の記憶の中でも主に観光地として特別な扱いがされていた。

 そういう意味ではガルドボーデン王国にとっては古い建物は重要な観光資源となりえるのだが、残念ながら観光という概念自体があまりないこちらの世界ではそれらが活かされる場面は限定的になっている。

 

 ルーカスが出席することになったパーティは、大きく分けて二部構成になっている。

 前半は立食パーティ形式の夕食会で、後半はいわゆる『大人の時間』であるダンスパーティが開かれる。

 後半のダンスパーティは主に未婚の男女がターゲットになり、ある意味では婚活の場ともいえる。

 勿論未婚の男女以外も出席はするしダンスも踊るが、基本的に盛り上がるのはどの組み合わせで踊るのかという話題だろう。

 

 当然ながら後半戦はルーカスには関係のない場となり、今回も出席するしないは好きに決めて良いと言われている。

 ガルドボーデン王国の貴族からパートナーを見つけるつもりならともかく、そうでないのならあまり出席する意味はない。

 そもそも今回のパーティは婚活の場としてよりは、政治的な意味合いが強い場となる。

 とはいえルーカスの隣の席を射止めようとする者もいるので、まったくの無関係とはいかない。

 

 まだ未成年でそれらしい噂も立っていないからこそ、自分の身内を押し込もうと考える貴族は当然存在している。

 それは別に甘い汁を擦りたいだけの貴族だけではなく、これまで色々な形でルーカスのことを助けてくれているリチャード国王も同じだ。

 だからこそリチャード国王は余計な言質を取られないようにするために、ルーカスのことをフォローするフェデーレ王子を付けているのだ。

 そしてそんなことを考えるのは国王だけではなく、国王派以外の派閥も同じであり。

 

「ジルッド学校長、あなたがいらっしゃいましたか。以外……というほどではありませんが、引き受けるとも思いませんでした」

 フェデーレが少しだけ意外という顔をしてそう言った相手は、ルーカスたちが通っている学校の校長だった。

「何。迷える若人を導くのも私の役目……と言うても王子は信じませぬな。単に他の者に任せるよりはいいと考えただけですよ。私は今更これ以上を望んではおりませんので」

「確かに、あなたならそう仰るでしょうね。だからこそ陛下もあなたにお任せしたのでしょうから」


 ガルドボーデン王国には現在大きく分けて、国王派、貴族派、それ以外の三つの派閥が存在している。

 ただしきっちりとした区別がされているわけではなく、時と場合よって主張を変えるなんてこともある割と緩い区分けになる。

 王子であるフェデーレが国王派であるのは当然として、今ルーカスたちの目の前にいる中央の学校の学校長は貴族派に所属している家の出になる。

 ジルッドは学校長であることを誇りに思っている人物で、生徒たちに派閥関係を強制するようなことをするような人物ではない。

 そのためリチャード国王は、学校長と同じ貴族派をけん制する意味でルーカスの社交デビューのお付きとして付くようにと命じたのである。

 

「本来学生の身分でこのような場に出ること自体異例なのですがな。ルーカス殿のお立場を考えれば致し方のないこと。ならば私が補佐くらいしても問題はないでしょう」

「皆がそう考えてくれるとありがたいのですが、そうもいかないのでしょうね。とにかく校長、ではなくジルッド殿が補佐してくれるのはありがたいです。私では手が回らない時もあるでしょうから」

「フェデーレ王子も人気者ですからな。直接的な申し込みは無いにせよ、間接的に『お伺い』を立ててくるものもいるでしょう」


 第二王子とはいえフェデーレもまた王家の一員であることには変わらず、第二夫人第三夫人の座を狙っているご令嬢は多い。

 正妻の座はすでに婚約者がいて内定しているので、今更それをひっくり返そうと動く者がいない分ましといえるだが。

 そういう意味では、フェデーレもルーカスと同じような悩みを抱えているといえる。

 そんなフェデーレに対して婚約話を持ち込む親が全くいないとは言い切れず、ジルッドの言う通り四六時中ルーカスのことを見ていられる立場ではない。

 

「それに、先日はジャド殿からもよろしく頼むと言われましたからな。私は指導者としての立場を全うするだけですよ」

「宮廷魔道士長殿か。全く、ルーカスは一体何をやらかしたのでしょうね。宮廷魔道士から揃って気に入られるなど滅多にないことなんですが」

「私も直接聞いているのは例の論文に関してだけですな。当然、それ以外にも何かあるのでしょう」

「思い当たることはあるにはありますが、今は私自身も口止めされている立場でしてここで言えるようなことは何もありませんよ」


 何やら矛先がこちらに向かってきたのを感じたルーカスは、あらかじめ用意していた答えを返した。

 ルーカスがジャド宮廷魔道士長たちに言った魔法の熟練度についての話は、今はまだ公にはしないようにと言われている。

 これは別にルーカスの手柄を奪おうとする動きではなく、むしろ今はまだ発表するのが早すぎるという意味で守ってくれているのだ。

 丁度いいタイミングで別の似たような論理がルーカス名義で発表されているので、それが浸透してからで十分だろうという考えもある。

 

「ふむ……ジャド殿からそう言われているというのであれば、そういうことなのでしょう。余計な詮索はここで止めておきますかな」

「なるほど。学校長でもそう判断しますか。それなら私が口を挟むようなことではありませんね」

「それがいいでしょう。餅は餅屋です。我が国のその分野トップが今はまだ公表しないほうがいいと判断したのです。それに口を挟む理由はありませんな」

「確かにそうでしょうね。となると少なくとも私たちは、この件を口にしないほうがいいということですね」


 お互いのけん制も含めて二人のやり取りをルーカスは、身の置き所がなさそうに少しだけ身じろぎをした。

 ルーカスは、ここで余計なことを言うとボロを出しかねないことを分かっている。

 目の前にいる二人の場合、余計な一言二言を出すだけで直接的な答えまでとはいわないまでもそれに近いところまで導き出しそうな怖さがある。

 突っ込まれたときにうまくかわすことができればいいのだが、今のルーカスは全く自信がない。

 中継島のことに関してならばそれこそ前もって王子と話をしたように逃げるという手段も取れるが、魔法のことについてはそれとはまったく関係がない。

 

 もしルーカスの口から余計なことが漏れたとしても、宮廷魔道士長が怒ったりすることはないだろう。

 そもそも今のところ公にはしないということはルーカスのことを考えての方策だからだ。

 それが分かっているからこそルーカスも幾分気楽にいられるのだが、それでもこの後のことを考えてため息が出るのは仕方のないことだった。




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