(2)対処法

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 ルーカスがとにかく出来るだけ着慣れるようにと言われて正装を身に着け始めたのは、パーティに向かう三時間ほど前のことだった。

 大事なのはパーティが始まる前、ではなくパーティに向かう三時間前ということだ。

 ルーカスはパーティ会場である城には一時間には用意された控室に着いているようにと言われていたので、四時間前から着込んでいたことになる。

 

「――というわけで、思った以上に大変でした」

「ハハハ。それはご愁傷様でしたね。とはいえ必要なことでもあるから、今回は逃げ回っていたルーカスの方が悪いかな」

「そう思ったので、大人しくされるがままにしていました」


 ルーカスが今いる控室には、フェデーレ王子が一緒にいた。

 というよりも今回のパーティでルーカスは、フェデーレ王子と一緒に行動することになっている。

 だからこそ一時間前には城に来るようにと言われていたわけだが、フェデーレ王子が一緒にいるのには幾つか理由がある。

 その理由として一番大きいのはルーカス、すなわち中継島と王家の繋がりが強いというアピールすることが上げられる。

 それ以外にも社交に不慣れなルーカスをサポートするためなど、様々な理由があってこのような形になっていた。

 

「それにしてもフェデーレ王子にも付き合いがあるでしょうに、本当によろしいのでしょうか?」

「構わないですよ。むしろ今回はルーカスのことを利用させてもらうことにもなっていますから」

「利用? 私が、ではなくですか?」

「そうそう。私もそろそろ成人を迎えますから。その前に兄を押しのけてまで王位継承する意思はないと示す必要があるわけです」

「あ~、なるほど。私を利用して、ご自身が目指しているのはエルアルド殿下をサポートする立場だと見せるわけですか」

「そういうことになるかな。申し訳ないけれど、ルーカスはその目的のために利用されているということになりますね」

「利用しているのはお互い様ですから気になさらないでください。むしろそちらにも目的があると知って良かったくらいです」

「ハハハ。ルーカスならそう言ってもらえると思いましたよ。というわけですから、とにかく今回私は完全に君のサポートに回ります。友人たちも既に知っていることですので、そこも気にしないように」

「はい。そのつもりでこちらも対応します。……できる限り、ですが」


 中継島の管理者として初めて表舞台に立つルーカスは、色々な意味で注目されている。

 中には隙をつくような形で利権を狙ってくる貴族もいるはずだ。

 どうあがいても社交の経験が少なすぎるルーカスとしては、一つの失敗もなしに終わらせることは難しいと考えていた。

 ルーカスを含めた浮遊球全体で見ればいざとなれば強権を発動して逃げることもできるのだが、できればそういった手は使わないにこしたことはない。

 

「ルーカスはそれでいいでしょう。いざとなれば逃げるという方法も……そうか。いっそのことその手札を切ってしまうという手もありましたね」

「必要なら別に構いませんが、それだと弱腰だと見られかねないと一旦は見送った手ですよ?」

「いえ、そうではありません。いざとなればいくらでも逃げられる手札があるという――いわばブラフですね」

「……なるほど。冗談だと分かるように話ながらも、こちらにはその手がいつでも出せると見せかけるわけですか」


 フェデーレ王子の言いたいことを理解したルーカスは、すぐに視線を傍に控えていた藤花へと向けた。

 中継島を作る時点で公から逃げ回るということはしないと決めていたのだが、確かに手札の一つとして晒しておくのは有りだろう。

 そんなルーカスの思いをくみ取った藤花も、特に悩む様子を見せることなく頷いていた。

 浮遊球単独で逃げる場合は中継島を見捨てることになるのだが、それはガルドボーデン王国に管理を任せるという方法も取れるので問題はない。

 

「ですがこの場でそんなことをしても大丈夫なのでしょうか? リチャード国王には言っていませんが?」

「この程度でしたら問題ないでしょう。あくまでも冗談交じりのおふざけで通る程度にしか話しませんから。それに陛下もこちらの目的は理解してくれるはずです」

「なるほど。それなら問題はないでしょう。もし予想しないところで言質を取られそうになったら、そのカードを切って逃げます」

「それがいいでしょう。いざとなったら逃げられる。それを理解した時点で引いてくれるはずです。もしその意味が分からないようなお馬鹿さんが出た場合は……恐らく周りが止めるでしょう」


 仮想敵になりそうな相手のことを妙なところで信用しているフェデーレ王子の言葉に、ルーカスは素直に頷いた。

 そもそもリチャード国王のがっちり保護されているルーカスに手を出そうとしている時点で、それなり以上の政治力がある相手になるはずだ。

 そうなって来るとそれなりの大きさの派閥の長が相手になることは、決まっているわけだ。

 多少のんびりしたところの王国とはいえ、派閥を維持できるだけの頭があるのならルーカスが切った手札の意味が分からないということはないだろう。

 

「周囲ですか。個々では『どうして』と思うような行動をとるのに、集団になると想定以上の力を発揮するときがあるのは何故なんでしょうね」

「確かに。もしかするとそれが人としての強さの一つなのかもしれません」

「一人一人の力は弱くても、集団になると手ごわい相手になる……ですか。確かにそう言われると納得できますか」

「良くも悪くも人は群れで生きて行く生き物ということでしょうね。逆にいえば一人では生きていけないという意味にもなりますが」


 敵対勢力のことから妙に大きな話にずれてしまったが、二人とも真剣に話している。

 魔法があって個々人の強さも馬鹿に出来ないこの世界でも、やはり人(特にヒューマンという種)は集団でのあれこれに長けている。

 その『あれこれ』というのは戦闘に限らず、生活全般に関わること全てというのが人という生物を表わす大きな特徴なのかもしれない。

 その集団が、悪さをするときにも力を発揮するというのは皮肉ともいえるのかもしれない。

 

「いけませんね。ルーカスと話をしているとどうしても余計な方向にそれて行ってしまいます。今は社交の話でしたか」

「本当ですね。それでは話を戻して。先ほどの言っていただいた『逃げる』という手札を切る以外に、なにか出来ることはありますか?」

「……いえ、特には思いつきませんね。ああ、そうだ。先ほどは相手のことを考えて騒ぎになりそうなことを言いましたが、君のことを知っている者たちは驚きはするでしょうが、納得もすると思います。なのでそこまで大きな騒ぎにはならないでしょう」

「それは褒められているのでしょうか?」

「ハハハ。褒めているんですよ、勿論。信頼がなければそんな風には思われないでしょうから」


 フェデーレ王子は安心させるつもりで言ったのだが、言われた当人ルーカスは微妙な顔になっていた。

 フェデーレ王子の言葉は、身も蓋もない言い方をすればルーカスは大切な場で突拍子もないことをするという評価を得ているということでもある。

 それが良いことなのか悪いことなのかは、それこそ時と場合によって分かれるところだろう。

 フェデーレ王子自身はいい意味でとらえているようなので、ルーカスとしてもこれ以上突っ込むことは憚れた。

 

 さらにルーカスが気になっているのは、側に控えていた藤花が思わずといった様子で口元を手で隠したことだ。

 明らかに笑いをこらえているようなその様子に、ルーカスは藤花の中での自分の評価がどういったものなのか再認識することになった。




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m(__)m

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