第6章

(1)パーティの準備

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 学生たちが夏休みを満喫している間、大人たちは社交シーズンに突入をしてそこかしこでパーティが開かれていた。

 パーティの場合は夜に開かれることが多いが、昼に開かれるお茶会や狩りなども社交には含まれる。

 基本的には前者が女性たちが集まるもので後者が男性になることが多いが、絶対という決まりはなく男性が主催のお茶会や女性が主催の狩りなんてものも存在する。

 もっとも領地持ち貴族の場合は、シーズンに入っていなくても社交をしていることはある。

 社交シーズンと呼ばれているのにはきちんとした理由があって、それは国王が毎年必ずこの時期にパーティを開いているからになる。

 国王が主催するパーティとなれば、様々な思惑の元で国中の貴族が集まり権謀術数が行われることになる。

 それに合わせて他の貴族が事前準備のために集まったり、結果の総括をしたいりするため結果的に王都で開かれる社交が多くなるというわけだ。

 平民からすれば華やかで優雅なイメージのある貴族のパーティだが、貴族たちにとっては家を守り発展させるための重要な『仕事』の一つになる。

 

 前世の記憶の影響もあって『社交なんて所詮はお遊びだろう』と冷ややかな目で見ていたルーカスだが、今となっては完全にその意見を変えていた。

 いわゆる権力的な意味合いでも重要な場であることも分かっているし、何よりも経済的な効果があることも無視はできない。

 特に王家が主催するパーティなどでは、各貴族が自らのアピールをするためにそれぞれが工夫を凝らして着飾ることになる。

 そのために動いているお金のことを考えると、少なくともこの時代においては必要な経済対策の一つともいえなくもない。

 

 そはいえそれぞれの地位に見合った見栄の張り方をせずに好き勝手に飾り立てた結果、社交で失敗するなんてこともよくあることだ。

 結果として領民が来るしむことになりかねないのだが、あまりにもひどすぎる場合は王国から『指導』が入ることもある。

 逆にそれが社交に失敗した貴族として笑われることになりかねないので、その辺りのバランスは常に気を使う必要がある。

 時にはそれが原因で没落する貴族も出たりはするが、少なくともガルドボーデン王国ではそうした貴族は白い目で見られる風潮もあり、ルーカスが考えていたよりは羽目を外し過ぎる貴族はそこまで多くないという印象だった。

 

 そんなことをルーカスが考えられるようになったのは、中央の学校に通って実際に貴族という存在に直接触れ合うことが出来たからだ。

 勿論ただの見栄っ張りで平民に対して威圧的な態度をとる貴族もいなくはない。

 ただそれはごく一部の貴族であって、大多数は無駄に威張り散らかすようなことをする者はほとんどいない。

 問題なのは態度が悪い貴族ほど悪い意味で目立ってしまい、結果として『これだから貴族は』という感情を持つようになることなのかもしれない。

 

 そんなことをのんびりと考えていたルーカスだったが、今は頭を働かせることくらいしか出来る事がない。

 それ以外の部分は勝手に動くと「動かないでください」と藤花から注意される状態に置かれている。

 一言で言ってしまうと、今夜向かうパーティのために着せ替え人形と化していた。

 ルーカスの周りでせかせかと動いているのは、藤花を筆頭にこの日のために呼んでいた魔族の皆さんだ。

 ちなみに今ルーカスがいるのは普段生活している学校の寮ではなく、中継島で用意している建物になる。

 

「――なあ、藤花。俺のことはいいとして、藤花も準備をした方がいいんじゃないか? そのままの格好で行くわけじゃないんだろう?」

「それはそうですが、今回の私はあくまでも付き人という立場です。あまり華美になるとそれはそれで余計な誤解を生みますので、他の方々のように時間がかかる装いになるわけではありません」

「誤解――って、そうか。確かにそれは避けた方がいいか」


 藤花が変な言い回しをして首を傾げたルーカスだったが、すぐにその意味に気が付いて頷いていた。

 藤花がそれこを他の貴族たちと同じような装いでパーティに出席すると、ルーカスの配偶者だと宣伝している取られる可能性がある。

 藤花本人としてはそれでも構わないというかもしれないが、少なくとも今回はそこまでするつもりはない。

 特に今回出席することになっているパーティは国王主催で多くの貴族が集まっているため、変な勘繰りをさせないように動いている。

 

 今回ルーカスが出席する予定になっているパーティは、国王が主催する中でも上から数えた方が早い規模のものになる。

 国内の貴族は勿論のこと、さらには他国の貴族も出席するので色々な意味で注目されている。

 そんなパーティにルーカスが出席するとそれだけ注目を浴びることになるわけだが、それについては既に諦めがついている。

 どの道この先社交は避けることが出来なくなってくるので、それなら早いうちから一度で済ませられるものに出席してしまおうという周囲の意見に押された形になっている。

 

「はい。ですので、今は私のことは気にせず、大人しく着替えてください」

「いや、着替えるといっても男の服装だからな。正装といってもそこまで時間がかかるわけではないだろう……と思っていたんだがな」

「それは仕方ありません。ルーカス様が面倒がって微調整をする時間を取れなかったのですから。今は大人しくしていてください」

「無知だった俺自身の問題だからそれはいいんだけれどな」

「それから少しだけでも『着せられている感』を減らすために、長く着てもらうという意味もあります」


 それは今更過ぎないかと思ったルーカスだったが、これ以上服装について口を出すのはやめておいた。

 どう考えても素人丸出しなのは自分なので、変に意見を出しても丸め込まれるだけだ。

 逆に藤花をはじめとした魔族の皆さんにそうした知識があることの方が不思議ではある。

 もっとも魔族に浮遊球から与えられる知識がそもそもどこから来ているのかいまいちわっていない部分もあるので、ルーカスにとっては今更過ぎることではある。

 

 とにかく藤花たちの頑張りによって、ルーカスは一時間ほどかけて着飾ることに成功していた。

 ルーカスが今回来ている服は浮遊球製なので、他では見ることが出来ないような素材で出来ている。

 その分、浮遊球に蓄えられていたエネルギーを消費したのだが、必要経費と割り切って許可を出している。

 

 浮遊球そのものについては今のところ隠し続けるつもりだが、各国の王族が王種を育成していることと同じようにルーカスが特別な存在であることをアピールするには絶好の場になる。

 ルーカスとしては、別にそこまで目立たなくても構わないと考えている。

 それでも中継島の維持は絶対に必要なことと考えているし、そのためには必要なことならルーカスはなんでもするつもりだ。

 

「――それに、お前のためでもあるしな」

「ピュイ?」


 着飾ったルーカスの周りを物珍しそうにフヨフヨと漂っていたツクヨミが、話しかけられたと気付いて小さく体を傾けた。

 今のところツクヨミが仲間を増やしたりするような気配はないのだが、不測の事態が起こらない限りは数を増やすはずだ。

 その時のことを考えると王種の居場所を作ってあげることは絶対に必要になるので、中継島を維持していくためには外交や社交は絶対に必要なことだ。

 それがあるからこそルーカスも慣れない身支度をしながらパーティが来るのを待っているのだった。




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