(21)熟練度を上げる(得る)には

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 ルーカスが自ら魔法を使えるようになったのは五歳の頃で、それまでは魔法の存在を認識はしていても使うことは出来なかった。

 前世の記憶があって魔法という存在に憧れがあったものの、育ての親からエルモからは教えてもらうこともできずにそれまでは悶々とした期間を過ごしていた。

 元の世界で読み漁っていたらしいとある書籍の知識を試したりもしていたのだが、結局それらの知識を活かせることは無かった。

 それでも魔力を増やそうと瞑想をしてみたり、適当に呪文をつかってみたりと試せることはすべてやった結果、ほとんど意味もなく終わってしまった。

 ルーカスが知識チートなんてものは無いんだと諦めるようになったのも実はこの頃のことだったがそれは余談だ。

 

 そうしたうっ憤が溜まった結果、初めて魔法というものを発動させたルーカスが喜び勇んだのは想像に難くない。

 来る日も来る日も初めて覚えた光球を灯らせるということを繰り返していた。

 ちなみに火や水などのいわゆる四属性と呼ばれる魔法も教えられていたが、使うことは固く禁じられていた。

 その頃のルーカスは毎日のように船に乗っていたので、それらの魔法を使って暴走させた結果船に実害を与えると割ととんでもない事態になってしまう。

 幼いながらも大人として生きていた記憶を持っていたルーカスは、素直に光球を使い続けることを選択した。

 

 大人として生きた記憶があるとはいえ、その頃のルーカスはあくまでも子供だったので新しい遊びを覚えてもすぐに飽きていた。

 ただ魔法に関してだけは執念といっても良いような執着があり、飽きることなく部屋の中で魔法を使い続けていた。

 暇を見つけては光球を発動させるということを繰り返していたルーカスだったが、ある日これまで同じように魔法を使ったはずなのにいつもとは違った発動の仕方をしたことに気がついだ。

 簡単に言ってしまうといつもよりも光の強さが違っていたのだ。

 

「――それが私は初めて魔法にも熟練度のようなものがあると気が付いた初めての事です」

「なるほど。本来なら込めた魔力が多かったのだろうといった反論を言うべきなんだろうが、ここで先ほどまでの話がいきて来るわけだな」

「はい。シャド様の仰る通りです。その時の私は全く同じことを繰り返していただけだったので、『同じ魔法を使い続ける』こと以外の要因による変化はないと断言できます」

「船の上で生活をしていたルーカスらしい気付きだねえ、それは。他の子なら喜び勇んで別に魔法に手を出していただろうに。その言いぶりだと行使していた回数も百とかいうレベルじゃなかったんだろう?」

「正確には数えていなかったのでわかりませんが、恐らく毎日五百回は超えていたと思います。


 軽く飛び出してきた千という数字に、ルーカスの話を聞いていた他の三人は呆れと納得が混じったような顔になっていた。

 そこまでして初めて効果が出て来るのかと納得するのと同時に、それなら検証することが難しいということも理解できた。

 忍耐力ある大人であっても、いくら研究のためとはいえ毎日千を超える回数同じ魔法を発動し続けるのは骨が折れる作業になる。

 そして大人だからこそ、そんなことを繰り返し続ける時間を作ることも難しいだろう。

 船という限られた環境で魔法を使い続けたルーカスだからこそ気付けたのだと。

 

「五百かい。それを毎日となると確かに中々出来る事ではないね。それに数日とかいうレベルではなのでだろう?」

「そうですね。恐らく数か月単位で必要になるかと思います。もし本気で調べるのであれば毎日の回数が必要なのか、単に述べ回数だけでいいのか何か検証する必要はあるでしょう」

「そうだろうね。今は単純に全体数で考えるとしても、ルーカスの言い方だと一つの魔法で数十万の試行は必要ということだろうさ」

「それに加えて、魔法を使い慣れた者こそ低レベルの魔法を繰り返すことが難しいという問題もある。レベルの高い魔法で試行するとなると、今度は魔力がいくらあっても足りなくなるであろう。いやはや難しい問題ですな」


 魔法を覚える者は、基本的により上位とされている魔法を覚えたがる。

 それは戦いで使うにしろ研究のためにしろより『使える魔法使い』として重宝がられるためだ。

 逆にいえば、いつまで経っても低ランクの魔法しか使えない魔法使いは敬遠されがちになる。

 基本的に魔法使いの需要は戦力として見られがちなので致し方のない面はあるが、その考え方が見事に邪魔な形になったといえる。

 

 これで上位魔法を使える魔法使いが下位とされている魔法も難無く使いこなせるのであれば問題はなかったのだが、そう上手く行かないのが世の中というべきか。

 ここで問題になってくるのが最後にシャドが言ったように、上位魔法を使える魔法使いが下位の魔法を使い続けることが難しいということがあげられる。

 決して使えないというわけではないのだが、普段から上位魔法を使っている魔法使いは下位魔法を使い続けることにかなり神経を使うことになる。

 そもそも魔法の行使をするということ自体が神経を使う作業なのに、わざと使う魔力を落して魔法の連続行使をするということが出来ないのではないか――そんな仮説が立てられているくらいなのだ。

 

 そうした諸々の問題があることを理解した上で、シャド宮廷魔術師長はさらにルーカスに問いかけた。

「この際、諸々の問題は後に考えることにしようかの。それで、これは言いたくない場合は言わなくてもいいのだが、その熟練度が上がったことで具体的にどの程度使えるようになるのか?」

「それは……実際にお見せしたほうが良いのでしょうが、さすがにこの場では難しいかと思います。使うのは先に挙げた光球でもいいのですが、さすがに目を焼かれたくはないでしょうから」

「……ムウ。それほどのものか。それだけでも答えになっているとは思うが、確かに実際を確かめたくもある」


 ルーカスの言葉が決して大げさなものではないと理解したシャド宮廷魔術師長は、難しそうな顔をして唸っていた。

 一般的な光球は、小さめの電球が光る程度の光源にしかならない。

 それが目を焼かれるほどの光を放つとなると、かなり強くなっていることが分かる。

 シャドとしてはそこまでの変化があるとは考えていなかったようで、それだけでもかなりの衝撃を受けていた。

 

「ここに簡易的な結界を作って、その中で試すのは駄目なのでしょう……いえ、駄目ですね。環境に影響されている可能性もでますか」

「ルッカの言うとおりだね。同じ理屈で威力を落して使ってみるというのも駄目だろうさ。それだと別の魔法を使っていることになるからね」

「二人の言うとおりだの。――仕方ない。ルーカス殿には手間を掛けさせるが、場所を移して試してもらおう」

「私は構わないのですが、いいのですか? お時間があまり無いと仰っていたと思うのですが」


 ルーカスのその問いに、宮廷魔道士三人はあっさりと「構わない」と答えた。

 忙しいのは確かだが、それは書類整理を含めたもので後回しすることが可能なものもあるそうだ。

 それよりも今はルーカスが提案している新理論(?)の方が魔法使いとしてははるかに重要ということになる。

 ルーカスとしても早く新しい理論を知りたいということは良く理解できるので、素直にシャドの提案を受け入れることにした。

 

 最終的にはルーカスが精度の上がった光球魔法を披露することになり、熟練度の存在はあるのだろうという結論が出た。

 とはいえルーカス自身も認めていた通り、実践にはかなりハードルが高く中々後に続く者はいないだろうというおまけも付け加えられることとなった。




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