(17)報告

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 模擬戦が行われた翌日は、大型魔物を求めて周囲を探索し続けた。

 その結果、幸運にも単独で動き回っている大型魔物を見つけて撃破することに成功した。

 単独で行動していたせいなのか、相手は相当に飢えていたようで獲物(人)に対する執着が凄まじく、一切逃げる様子が無かったので楽に狩ることが出来ていた。

 勿論『楽』というのは追いかけまわす必要が無かったという意味で、戦闘そのものは命がけであることには違いなかったのだが。

 突発的に発生した戦闘だったのでアルフだけではなくルーカスも加わっての戦いだったので、そこまで手間取ることなく討伐できていた。

 とはいってもグレイシャークよりも格上の相手だっただけに、全くの被害なしでの討伐というわけにはいかなかった。

 戦闘によって甲板の一部が壊れたりしたので、機関員が応急処置をする羽目になっていた。

 もっとも魔物の討伐をするとよくあることなので、船乗りたちも特に慌てることなくそれぞれの仕事をこなしていた。

 

 予定外の大物を狩ったことにより船の倉庫はパンパンになり、エルモはこの時点で王国への帰還を決めた。

 獲物を探して動いたため最初の地点よりも離れた場所にいたが、食料などの余裕はあったので特に問題なく戻ることが出来た。

 途中で浮遊する大岩を見つけたりもしたが、入れられるスペースがないため回収は諦めて泣く泣くそのまま帰還。

 一目見た感じでは希少資源などもなさそうだったので仕方ないと、ほとんどの船乗りたちがそんなことを言いつつも諦めきれなさそうな顔をしていた。

 

 無事に港に到着することが出来たのはいいとして、実は機関員や事務員はここからが忙しく動き回る時間になる。

 機関員たちは壊れた個所の修理や各種点検、事務員は取れた素材に関しての交渉や精算などをしなければならない。

 アルフやエルッキはそれらの仕事を見ることも研修の一つと言われて、それぞれの担当について学ぶことになった。

 ルーカスはそれに付き合うことはせず、以前話していた目的を果たすために王城へ向かっていた。

 

 国王との面会を求める手続きをしてから数時間後、ルーカスは予定通りにリチャード国王と対面をすることが出来ていた。

 王花褒章を持っているとはいえ、一般人であるルーカスがこれほどまで早く会うことが出来たのは異例中の異例と言っても過言ではない。

 それだけでもリチャード国王のルーカスに対する対応が特別だということがわかる。

 もっとも中継島を所持しているルーカスだけに、国の上層部にいる者たちがそれに対して文句を言ったりすることはないのだが。

 

「――これがその研究成果か?」

「はい。アルフとエルッキに急かされた書き上げたので、そこまでしっかりとした内容ではありませんが」

「そんなことは無いであろう? 余はいくつも論文に目を通したことはあるが、それらと比べても遜色はないであろう。内容についても……詳しくは精査する必要はあろう」

「勿論です。それはあくまでも私の周りで確認できる事象でしかありませんから。そこを突っ込まれると研究成果としては弱いと言われます。今後は裏付けをしっかりと取る必要があるでしょう」

「うむ。だがまあ、国の魔法使いたちに確認したほうが早そうではあるな。それはこちらで準備をしておこう」

「それは有難いですが、構わないのですか?」

「それくらいは構わないであろう。どちらにしてもこの成果が公表された際には確認することになるのだ。それなら先に確認にしてもらった方が早いであろう」


 リチャード国王は、あっさりと宮廷魔術師を巻き込むことを決めてしまった。

 それは別にルーカスの研究成果を奪う目的ではなく、逆に余計な横やりを入れないための対処だと言える。

 それに宮廷魔術師のお墨付きを得ることが出来れば、内容についていちゃもんをつける者もいなくなる。

 研究内容を精査するための異論反論はいくらでもして構わないだが、ただただルーカスの足を引っ張るためだけのものは必要ない。

 ルーカス自身は中継島の運営と学生生活で忙しくしているので、今回の発表で動けるのは今の長期休みの間だけになる。

 リチャード国王もそのことが分かっているので、敢えて最初から大物を引っ張り出すと決めた。

 

 その会話のすぐ後に、リチャード国王は今すぐに時間が取れそうな宮廷魔術師の元へと使いを走らせた。

 宮廷魔術師たちもそこまで暇している者はいないのだが、それでも国王からの参集となれば時間を作れるものは何人かいる。

 そんな中で国王の呼びかけに現れたのは、宮廷魔術師長のシャドだった。

 

「――爺。そなたが来たのか。忙しくなさそうな者と言っておいたのだがな」

「我らの中で忙しくないものなどおりませぬ。それに、そもそも王の応対は長である私がすべき仕事ですからな」

「そうか。そなたがそれでいいのであれば構わない。それよりも先に渡しておいた文章は読んだな?」

「勿論ですな。確かに言われてみればという内容ではありましたが。それよりも、この者が例のルーカス殿ですか」

「うむ。そなたたちは初対面であったな。前々から会わせようとは考えていたが、丁度良い機会になったか」

「国王陛下よりご紹介に預かりました。ルーカスと申します。この度はお手数をおかけいたしますが、何とぞよろしくお願いいたします」

「……ふむ。私は陛下より宮廷魔術師長を仰せつかっているシャドと申します。たるあなたにお会いできて、光栄に存じます」


 敢えて普段使われることのない『土地の管理者』と呼んだことで、ルーカスはシャドが自分のことを正しく認識していると理解した。

 そもそもシャドの言葉遣いは、ガルドボーデン王国の魔法使いの中で頂点に地位に立っている者が使うようなものではなかった。

 

「宮廷魔術師長であるシャド様にそのように畏まれると、周りの者が誤解いたしますのでご容赦願います。私自身はまだまだ若輩者と考えておりますので」

「貴殿の申し出は有難くあるが、それこそ周りの者への誤解を与えないようにする必要はあるでしょう。――陛下」

「ふむ。確かにこのままだと堂々巡りになりそうだな。ルーカス。そなたも社交に出ることになっているのだ。そろそろ受け入れるようにせねばなるまい。シャドの言う通り変に誤解を与えることになりかねぬ」

「それは……いえ。リチャード国王が仰るのであれば、そのようにいたします」

「それが良かろう。――というのは建前で、あくまでも公の場での話だ。ここでは気にする必要は無かろう。その意味が分からぬ愚か者はいないからな」

「フォッフォッフォ。陛下、公の場ではないからこそ慣れるために必要なのですぞ。とはいえ、この場では良しといたしましょう」


 リチャード国王とシャド宮廷魔術師長の了解を得たことで、ようやくルーカスは肩の力を抜くことができた。

 ルーカスは、二人のやり取りを聞きながらどこか社交に関するテストを受けているように感じていたが、決して気のせいではないはずだ。

 現にシャドの視線は。明らかに最初の頃よりも柔らかくなっていた。

 リチャード国王からはいつものように面白がっている空気を感じていたが、それはいつものことなのでルーカスも気にしていない。

 

 そんなやり取りを経てから、リチャード国王は早速とばかりにルーカスの論文をシャドへと渡した。

 その論文をじっくりと読みこむシャドを見ながら、テストの採点を待っている生徒のようにルーカスが感じてしまったのは仕方のないことだった。




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