(12)狩りの仕方

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 アルフが討伐した次の目標は、グレイシャークよりも小さな魚型魔物だった。

 大きさもそこまでのものではないということと、アルフを含めた新人たちに通常の狩りを見せるという目的でその魔物は少し変わった方法が取られた。

 ただし変わった方法といっても彼らが乗っているのが船ということを考えれば、ごく真っ当な方法をとったともいえる。

 ごくごく簡単に説明すると、船の後方から網を下ろしてそのまま目標の魔物まで向かっていき掬い取ったのだ。

 そんな単純な方法で――とアルフたちは最初は半信半疑で見ていたが、見事に掬い取られる魔物を見てそろってポカンという顔をしていた。

 普通に考えれば網ですくわれる前に逃げてしまうだろうと思うのだが、何故だか吸い込まれるように網の中に入ってくのを見たのだからそうなるのも当然だろう。

 どういうことかと視線だけで問うアルフに、ルーカスは少しだけ自慢げに笑いながら説明をしていた。

 その説明を一通り聞いて、アルフもようやく納得した様子で頷いた。

 

「――つまりはあの魔物の性質、というか動きを先読みして船を動かしていたと?」

「ごくごく簡単に説明するとそういうことになるかな。実際は船だけじゃなく装備している魔道具なんかも使って追い込んでいるがな」

「それが良く分からないんだよ。魔道具を使っていた気配なんて無かったぞ?」

「それは説明が難しいなあ。普通の魔法とは魔力の動きが違うということと、そもそも魔道具が置かれている場所が下にあるからわかりづらくなっているということもあるな」


 今回使われた魔道具は、簡単にいえば『音』で相手を驚かせて反射的に避けさせることが出来るものになる。

 ただ音といっても人の耳には聞こえないもので、しかも指向性のある音を出すことが出来るので小型魔物の群れを散らせるようなことにもならない。

 まさしく船を使った漁をするのにはうってつけの装備ともいえる代物だ。

 では何故先ほどの戦闘では使わなかったのかといえば、単純に効く種類と効かない種類がいるからである。

 

 さらにアルフのもう一つの疑問にあった魔道具が使われた気配は無かったということについても、ルーカスはきちんと説明をした。

 大型の魔道具を使えば魔力を読まれるということは一般的に知られていることだが、逆にいえばそれが魔道具の弱点にもなりえる。

 そんな状態を魔道具職人たちが放置しているはずもなく、道具として使った場合の魔力を出来る限り隠匿する技術が使われていた。

 普通の人が持って使う魔道具の場合は使われる魔力も少なく必要のない技術であり、まさしく船に乗せて使うような大型の魔道具にとっては必要な技術といえる。

 

「魔道具にも色々あるもんだな。そんなものがあるなんて知らなったな」

「普段の生活だと気にすることがないからな。ただ学校の三年あたりになったら習うんじゃないか? 国にとっては必要な技術だぞ」

「そうなのか? ……いや、そういうことか。確かに国家規模になると必要になって来るか」

「すぐに察するのはさすが、と言いたいが上位クラスにいれば気付けるようなことか」


 言葉をぼかして会話をしている二人だが、下手をすれば国家機密に触れるような内容になっているためだ。

 中央の学校に通っているからといって、直接的に国家機密に関わるようなことを教わることは勿論ない。

 それでも上位クラスに入ればそうしたものに触れる可能性のある立場になることを想定して授業が行われているので、常日頃から取り扱いについては教え込まれている。

 今二人がしている会話も実際には大したことではない内容なのだが、訓練も含めて敢えてぼかした言い回しをするようにしているわけだ。

 

 ちなみにエルモのような一般の船にも積まれているような魔道具が国家機密に触れるというのは、別にその魔道具そのものが直接関係しているわけではない。

 ここで二人が言っているのは、直接的には関係は無いが軍事的に使われている可能性がある技術という意味になる。

 その技術そのものをこの場で話すわけにはいかないのでぼかした言い方になっている。

 もっともエルモの船に乗っている一部の船乗りはそうした技術にも触れられる立場にいたりする者もいたりするが、ルーカスは不用意にそのことを口にするつもりもない。

 

「そういえば、あの魔道具は普通の漁船とかにも使われていたりするのか?」

「使われているぞ。ただし乗せられる大きさに制限があるから、あくまでも威力を落したものになるけどな。あれで大型の魔物を取るのは難しいだろうな。出来ないとは言わないが」

「そうか。使い方次第ではやりようはあるということか」

「さっきみたいに直接的なものじゃなく、どちらかといえば嫌がらせ程度になるがな。一流どころの漁師であればやり方は色々と考えているだろうさ」


 この世界には探索者が乗るような大型の船ではなく、小型の船を使って近海(近空?)で漁を行っている漁師も存在している。

 そうした漁師は基本的に小型の魔物や生き物を狙っているのだが、人の生活圏である陸地に大型の生物が近づいてきた場合には漁をすることもある。

 小型の船で大型の生き物を捕るためには、ルーカスも知らないような技術と経験が必要になってくる。

 それを知っているだけにルーカスを含めて探索者の船乗りの多くは、漁師という仕事を馬鹿にするようなことはない。

 

「同じ船を使っていてもやり方は様々か。大きさが違うんだから当然だろうな」

「そういうことだ。簡単に言ってしまえば軍用の乗り物と馬車だって全く違うだろう?」

「確かに。それを言われると納得するしかないか。ここで用途が違い過ぎると文句を言っても仕方ないんだろう」

「それは船にも言えることだからな。そもそも探索者が乗る船は狩りだけが目的になっているわけではないしなあ」

「それもそうだ。――そういえば、今回は資源の採取はしたりしないのか? 事前に聞いた話では含まれていなかったよな」

「どうだろうな。ここらで狩れた魔物次第にはなるだろうが……倉庫の空き次第になると思うぞ。それにそう簡単に浮遊している資源が見つかるわけでもない。一週間程度を見越してしか消耗品を積んでいないからあまり寄り道も出来ないしな」

 

 今回の行程はあくまでも新人に狩りを見せるという目的になっているので、長い距離の移動は想定されていない。

 アルフやエルッキにはまた船に乗ってもらうことになっているが、その時には資源探索を経験することになるはずだ。

 

「そうか。それじゃあ資源採集はあとの楽しみにしておくとして、エルッキはどうしているかな? 魔道具を使ったということは忙しそうにしていそうだな」

「だろうな。彼ら整備士は、むしろ戦いが終わったあとがメインの仕事になるからな。今頃追い立てられるように仕事をしているんじゃないか?」

「あのエルッキなら喜んで動き回っていそうだ。先輩たちの邪魔をしていなければいいけれど」

「それなら大丈夫だろう。自分が手を出してもいいかどうかの判断くらいはつくだろうしな」

 

 今は違う場所で働いている友人のことを話している二人だが、こんなにのんびりしていられるのも今日はここまでと先ほどエルモが宣言したからだ。

 船自体は小物の群れの後を追いかけるように操船されているが、次の狩りをする予定は今のところない。

 ただ小物の群れを追いかけていれば突発的に大型魔物と遭遇することもあるので、常に備えはしておかなければならない。

 目の前にエサとなる小物が泳いでいるので敢えて襲いにくい船を狙って来る大型魔物はあまりいないのだが、それでも警戒を続けることは絶対に外すことのできない備えの一つなのである。




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m(__)m

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