(11)討伐完了後の作業

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 ルーカスとアルフが解体の様子を見ながらのんびりと会話している中、さらに離れた場所からその様子を観察している者たちがいた。

 討伐の最中は大人しく見ていろと言われて、素直に見学をしていた新人五人組の面々だ。

 

「――な、なんだよ。あれは、魔法でも使っていたのか?」

「そ、それはそうだろう。じゃなきゃ、あんな動きが出来るわけもない!」

「お前は出来るのか、あんなこと」

「うっさいな! お前だって出来るのかよ!」


 解体の様子を見ているようにと言われているのにもかかわらず、やいのやいのと言い始めた新人たちを見ながら教育係がため息を吐いていた。

 一応成人している彼らだが、会話だけを聞いている限りではまだまだ子供だとしか思えない。

 ただ彼らが驚きをもってアルフの戦闘の様子を語っているのは、教育係としても止めるつもりはない。

 アルフの年齢であそこまでの動きができるのは、どう見積もっても『普通』ではない。

 さすがに優秀な人材が集まっている中央の学校の中でも優秀な生徒の一人と言われているだけのことはある――そんなことを教育係も考えていた。

 

 アルフがやったことは魔力を使って身体操作をしながら、通常の筋力だけではできない動きをして倒すというものだ。

 魔法に慣れ親しんでいるこの世界でも魔力を扱える者は多いが、それでもアルフほどの年齢で先ほどのように綺麗に身体操作を使える者はほとんどいない。

 身体操作自体は遊びながら覚えていく子供もいるが、それが戦闘で実用的に使いこなせるまでわざわざ訓練する者はいないのだ。

 塀に囲まれた町の中で安全に遊んでいる分にはそこまでの能力は必要ないので、真面目に『訓練』する子供がほとんどいないという理由もある。

 

 アルフの場合は、小さい時から魔物と鉢合わせになる可能性がある行商について行っていたということと裕福な商家の生まれでしっかりとした教師がいたことでここまで伸びていた。

 当人の努力ももちろんあるが、育った環境が恵まれていたということも大きな理由となっている。

 さらにいえばアルフの戦闘能力は身体操作だけではなく、他のところでも高い力を発揮する。

 もっともそれは今回の戦闘で披露されることはなかったわけだが。

 

「――教官。この船に乗っている皆は同じことが出来るのか?」

「さすがに全員は出来ないなあ。それでも両手で数えられるくらいは似たようなことは出来る奴がいるぞ? それに、話に聞く限りではあのアルフもまだまだ本気にはなっていないだろうさ。船の上での戦いは初めてらしいからな」

「そ、それは本当ですか?」

「俺も話で聞いているだけなんで、この目で確認したわけじゃないがなあ。奴は魔法も使えるらしいから、それを考えればまだまだいけるんじゃないか?」


 教育係に話を聞いているのは五人組のうちの一人で、比較的学習意欲の高い者だった。

 例の二人組は、完全に黙り込んだまま作業を見つめている。

 今の自分たちの実力だとどうあがいても勝つことは出来ないと認識したのだろう。

 これまで言葉で聞いた説明は聞き流していても、実際に目の前で実演されれば嫌でも理解させられたということになる。

 

 ――そんな新人五人組を余所に、ルーカスとアルフは解体作業を見ながらのんびりと会話を続けていた。

「今日はもうこれで終わりか?」

「そんなわけないことはお前だったら分かるだろう? あのグレイシャークだけだと、まだまだ足が出るからな。出来れば同じくらいの獲物がもう一、二匹出てくれれば御の字だな」

「やっぱりそうか。これで終わって大丈夫かと心配していたんだ」

「収支の計算が出来るのは、船の上では強みだからな。将来どうなるかは分からないが、その感覚は大切にしたほうが良いと思うぞ」

「もっと小さかった時は必要なのかと思っていたんだがなあ。成長すればするほど御爺様に感謝するようになってきているよ」

「アルフの場合、それを言うならご先祖様に感謝すべきじゃないか? 『小さい時に行商させるべし』という家訓を残してくれたんだろ?」

「ご先祖というほど古い歴史があるわけでもないけれどな。確かにその家訓には感謝するべきだと思う」


 アルフの実家の商家はガルドボーデン王国と同等の歴史があるというわけではないが、そこそこの歴史は続いているので家訓らしきものも幾つか残っている。

 ルーカスが言った行商云々というのもその内の一つで、ドーレン商会のことをある程度知っている者なら誰でも知られている家訓となっている。

 アルフが小さかった時には『何でこんなことを』と思って旅をしていた時もあったが、成長すればするほどその重要性を理解できるようになっていた。

 今では完全にその家訓が自分にとっては必要なものだったと理解している。

 物の価値というものを知るためには、小さい時から行商をしながら各地を回るというのは最適だったと思えている。

 

「それよりも、取れた素材はやっぱり保冷室で保存するのか?」

「まあな。ただ保冷室もそこまで万能じゃないから、狩りが出来る日数は今日も入れて出来て二日か三日ってところだな。狩れた対象にもよるが、場合によってはあのグレイシャークの肉は捨てることになるかもしれないな」

「俺は気にしないさ。あれだけの大きさのものを持って帰れるのは船ならではだからな。行商なんかしていたら、持って帰ることができるのはほんの僅かの素材でしかない」

「ああ、そういえばそうだったか。そう考えると陸地だと結構勿体ないことになっているんだな」


 当たり前のことだがそれでも忘れがちになることをアルフから言われて、ルーカスは思い出したように頷いていた。

 グレイシャークほどの大きさの魔物だと、行商の最中に突発的に襲われたとしてもすべてを持って帰ることが出来るほうが稀になる。

 そもそも小規模な行商の場合はそんな大物に襲われたら逃げることを最優先にするため、狩りをすること自体が珍しい。

 だからこそグレイシャークの肉は珍味扱いされていて、船乗りたちにとっては喜んで狩る対象になるわけだ。

 

 もっとも当然ながら船の倉庫も大きさには限りがあるわけで、何でもかんでも詰め込んで行けるわけではない。

 エルモの船はグレイシャークの一体や二体程度なら積み込むことは出来るが、これから先の狩りの状況によっては肉を捨てる必要が出て来る。

 さらにいえば、今回取れたグレイシャークの肉の幾ばくかは船員たちの胃袋に収まることになる。

 圧迫する倉庫を少しでも開けるという意味もあるが、こうした『振る舞い』が船員たちの意欲を高めることになるからだ。

 

 アルフが周囲を見回してみると、グレイシャークの解体をしていない何人かは既にほかの獲物を探していた。

 操船に関わる人員も解体には加わっていないので、既に次を見据えて動いていることがわかる。

 なるほどこれがプロの仕事かと感心したアルフは、ルーカスとの会話もそこそこに自分も獲物の探索に加わることにした。

 アルフのその様子を見たルーカスは、この場は任せても大丈夫だろうと判断して舵のある所へ向かった。

 

 幸いにしてアルフが時間をかけずに討伐したことで、まだ小物の群れは近くにいる。

 今ならまだ追いつける距離にいるので、群れを起点にして新しい獲物を狩ることはできるはずだ。

 そのことを理解している船員たちも船をそちらに向けて移動し始めていた。

 操船自体はエルモが指示を出しているのでルーカスが口を出すことは無いが、これから先の予定を打ち合わせる必要があった。




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m(__)m

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