(10)討伐完了

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 途中からグレイシャークが船に目標を変えたことで、風の方向も問題は無く真っすぐに当たることが出来た。

 あとは自分が上手く当たるだけだと気合を入れ直したアルフは、グレイシャークが目の前に来たのとほぼ同時に数メートル上までジャンプをした。

 さらにジャンプする前に少しだけ横にずれた上で、しっかりと切り込みを入れたのはルーカスに言わせるとさすがと言わざるを得ないほどの勝負勘だった。

 一瞬でそれほどの高さまでジャンプしているのは、当然のように筋力だけでなく身体強化の魔法も使っているから出来る芸当だ。

 たったの一瞬で魔物を相手にそれほどの動きを見せることが出来たのは、アルフが魔物との戦いに慣れているということを示している。

 しかも横から切りつけるだけではなく、落ちてくる際にそのまま落下する力を使って上から刺すような動きもしていた。

 ただし残念ながらその攻撃はグレイシャークに察知されたせいで、最初の切込みとは逆の方向を裂くだけで終わってしまったが。

 それでも真っすぐに向かってきたグレイシャークが、アルフの攻撃を避けるという選択をしたという意味は大きい。

 

 帆船というのは基本的に風の力で動いているので、急に止まったりすることは出来ない。

 そのためアルフがジャンプしている間も、慣性の力に従って動き続けていた。

 余計な力が加わっていなければ慣性の法則に従って同じ場所に降りて来るはずのアルフは、グレイシャークに攻撃を加えたことで違う場所へと落ちて来た。

 もっともその範囲は小さいもので、船の床の上に乗ることは出来ていた。

 

 それとは対照的に、大きく傷をつけられたグレイシャークは船のある場所からは数メートル離れた場所にいた。

 グレイシャーク自体が移動していたということもあるが、船が移動したことによるものや切り付けられた反動、等々の理由が合わさった結果が今の状態になっている。

 アルフの攻撃により大きいダメージを与えることは出来ているが、残念ながら致命傷にはなっていない。

 下手をすれば手負いの状態のままで逃げられる可能性もあるので、船はすぐにグレイシャークのいる場所に向かって方向転換している。

 

 アルフは馬車の動きには慣れていても、船の動きには慣れていない。

 それでも船が方向転換を終えて、しっかりとグレイシャークのいる場所へと向かっていることは認識できていた。

 船のことはあまり詳しくないアルフだが、帆船でこれだけの動きが出来ることが『普通』ではないことはわかる。

 グレイシャークが逃げる前にきっちりと場を整えてくれる船乗りたちの技量に感心しつつ、視線はグレイシャークへと向けていた。

 

 アルフがグレイシャークに傷をつけてから再び接敵するまでは、時間にしてほんの数十秒程度のことだった。

 それでもその間にグレイシャークに逃げられてしまえば、これまでの苦労が水の泡になってしまう。

 それだけに時間が勝負ともいえる状態だったのだが、幸いにしてグレイシャークは逃げる態勢になることなく、さらに向かって来るようなそぶりさえ見せていた。

 その姿を確認したアルフは、次こそ決めるという思いで改めて剣を構え直した。

 

 剣を向けられたグレイシャークは、既にアルフを敵と見定めているのか他には目もくれずに真っすぐに向かってきた。

 先にアルフから切りつけられて出来た傷からは血が流れ出ているが、そんなものは関係ないとばかりに直進してくる。

 それが怒りのためなのか、それとも本能で敵と決めた相手に向かうようになっているのかは不明だ。

 ただその行動がグレイシャークの運命を決める一手になったことだけは間違いない。

 

 そんなグレイシャークに対してアルフが取った行動は、先ほどとは違って上に飛ぶのではなく下にしゃがみ込むというものだった。

 グレイシャークの動きは、初手の時とは違ってかなりスピードが落ちている。

 これならば行けると判断したことと、下手に空に上がると着地のことを考えて動かなければならないのでそれを避けるための行動だった。

 そしてグレイシャークの下に潜り込んだアルフは、人族でいえば喉仏に当たる場所へと向かって真っすぐに剣を突き刺したのである。

 

「――決まったか。初めての割には上手かったな」

 グレイシャークの急所ともいえる場所に剣を突き立てるアルフの姿を確認したエルモがそう感想を言うと、その横にいた乗組員の一人がルーカスを見て聞いてきた。

「ボン。一応聞くが、学校ってのはあんなバケモンばっかりいるのか?」

「化け物は少し言い過ぎだろう? この船にだって同じことを出来る奴は何人かいるはずだ」

「そりゃーそうだがなあ。あの年で出来るってのは普通じゃないだろ。――で、どうなんだよ?」

「そんなに心配しなくてもアルフの剣の腕は間違いなくトップクラスだよ。魔物相手と限定すれば五本の指にはいるんじゃないか?」

「その五本のうちのもう一本はボンってことですかい。それはともかく、人が相手になると違うってことですかい?」

「魔物相手と人相手じゃ、戦い方が全然変わって来るからなあ。アルフの場合、そっちはまだまだ経験不足なところがあると思う。それでも上位に数えられるのは間違いないけれどね」

「なるほどなあ。どっちにしても上になるのは変わらないってことか」


 ルーカスの説明を聞いた乗組員は、半ば安心した様子で頷いていた。

 ルーカスにしてもアルフにしても、まだまだ未成年であることには違いない。

 ルーカスのことはそれこそ長い間見てきているので納得できている部分もあるが、同じ年のアルフにまで先ほどのような動きをされると色々と思うところはあるだろう。

 見れば他の乗組員たちも何とも言えない顔をしているので、それぞれが似たり寄ったりの感想を持っていることは間違いない。

 

 ルーカスがそんな話をしている内に、グレイシャークは完全に動かなくなっていた。

 そんなグレイシャークには、既に複数人の船乗りが近寄って行き解体を始めている。

 冷蔵・冷凍技術はそこまで発達しているわけではないが、それでも魔法がある世界なのである程度冷やした状態で町まで持って行くことは出来る。

 そのためここからはスピード勝負になることは皆が分かっているので、動かす手も早かった。

 

 そして、グレイシャークを討伐した当人であるアルフのところに近づいて行ったルーカスは、ポンと肩を軽く叩いて笑いかけた。

「よくやったな。不満は残っているだろうが、とりあえず初めての戦闘としては上出来だろう」

「そう言ってくれるのは有難いがな。やっぱり多少の揺れが影響していたな。初手で仕留められなかったのは失敗だった」

「自己反省するのは良いが、誰もそこまで求めてはいなかったからな。こっちとしては単独で討伐を終えただけでも十分だ」

「そうなのか? 下手をしたら逃げられたりしたんじゃないか?」

「その時は別の獲物を探すか、追いかけるかをするだけだ。それに網なりを使って捕獲する方法もあったからそこまで心配しなくてもいい」

 

 この世界では船が一定以上の高度を保つことが出来ているように、命が途切れた魔物や生物もいきなり落下していくわけではなく水の中を沈んで行くようにある程度ゆっくり沈んでいく。

 今回はアルフがしっかりと船の上に落ちるように討伐を出来ていたが、ちゃんと捕獲できるように船乗りたちは動いていた。

 勿論アルフが狙ってやったように、船の上に落とせばより楽になることは間違いない。

 そのため余計な手間をかけずに済んだと内心で喜んでいる乗組員が多数いたのは当然の結果だったといえるだろう。




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m(__)m

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