(9)接敵

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 船乗りたちによる操船で、近づいてきたシャークの種類が判明した。

 黒に近い灰色の体色を持つそのシャークをグレイシャークという。

 逃げる場合でも狩りをする場合でも役に立つ青や透明に近い色を持つ魔物を含めた生き物が多いこの世界では、グレーという体色を持つものは少ない。

 目立つ体色を持つだけに狩りは難しくなるはずなのだが、しっかりと生存できている時点でそれだけ狩りが上手い種ともいえるかもしれない。

 グレイシャークの狩りが上手いと言われる理由は、エサとなる目標を見つけることが出来る探知範囲の広さと目標まで近づくためのスピードが速いからと言われている。

 実際にエサとなる小物魔物のところまで近づいてくるまでのスピードは、帆船に乗っているルーカスたちと比べものにならないほどの速さだ。

 幸いというべきかグレイシャークも帆船の存在は認識できているはずだが、そちらには目もくれずに小物魔物を襲うことに集中している。

 帆船が自分を襲う存在と認識していないのか、あるいは来たとしてもどうとでもなると考えているのかは分からないが、その姿は食物連鎖の頂点に立っているという自負を感じさせるものだった。

 

「――体長は……三メートルくらいか? 話に聞いたよりは小さいようだね」

「そうだなあ。もしかしたら親離れしてさほども経っていないのかもしれないな。狩りの仕方が拙い……ような気がする」

「そうなのか?」

「いくら狩りが上手い種だからって、俺たちのことをここまで無視し続けることはあり得ないからな。ドラゴン種とかならともかく、そこまで優位じゃないことは大人なら分かるはずなんだが」


 小物魔物の中に紛れている帆船は、どう見ても異物でしかないためにシャークが見つけていないはずがない。

 圧倒的な力を持つ種族の一つとして上げられるドラゴンならともかく、それ以外の種になると狩りの最中も隙を見せることはない。

 それにも関わらず目の前にいるシャークは、帆船の存在を無視して悠々と狩りを続けていた。

 何度も同種のシャークを見たことがあるルーカスは、その様子を見て『若さ』を感じ取っていた。

 

「本当に若いかどうかは分からないが、どちらにしてもこっちは油断は出来ないぞ? 若かろうが経験豊富だろうが、機動力はあっちが圧倒的に優位だからな」

「それは実際に見て痛感しているよ。出来るなら一撃で――といいたいけれど、はっきりいえば自信はないぞ」

「そこははっきり大丈夫だと言って欲しかったな。とはいっても冷静に判断できている分だけマシか。とりあえず出来る限り手傷を負わせる方向でやってみるといい。あとのことはこっちに任せてくれ」

「速さに勝る相手にどうするのか興味はあるなあ。けれど魔物相手に油断は禁物か。こっちは近づいてくれれば出来る限りのことはする」


 船の上での戦いなど初めてのアルフは、近づけば逃げてしまうだろうシャークを相手にどう立ち回るのかは分からない。

 馬鹿正直に真っすぐに近づいていくことも考えてはいるが、それ以外の方法で近寄ることも頭の片隅に入れていた。

 今回に限って言えばアルフを一番槍にすると決められているので、自分がしくじるわけにはいかないという思いもある。

 折角ルーカスが用意してくれたこの機会を自分の失敗で潰してしまうわけにはいかないと、目の前で悠々と狩りを続けているシャークに集中し始めた。

 

 そんなアルフの様子を見ていたルーカスだが、同時に船の動きにも注意を払っていた。

 陸地での戦いには慣れているアルフは、どう考えても船の動きにはなれていない。

 いつもと違う環境で戦うことの難しさはルーカスもよくわかっているので、できる限り不慣れな環境にならないように船を移動させなければならない。

 もっともそのことは船乗りたちも理解しているので、できる限り陸地での戦闘に近い状況になるように船を移動させていた。

 

 目標のグレイシャークまで近寄っていると、いつの間にかルーカスの傍にエルモが近寄って来ていた。

「さて。お前がお勧めする子の実力はどの程度かな?」

「今頃来たのか。それはいいが……アルフの実力なら期待してもらっていいぞ。初手でのキルは無理だとしても、その次で確実に仕留めるだろうな」

「それほどか。そこまで行くとこの船の中でも上位者に入って来るからな。お前の時にも驚いたが、実力者がいるところにはいるもんだ」

「本人はどっちつかずになることを嫌って剣ほど魔法には力を入れていないが、俺から言わせれば勿体ないな。今だって魔法があれば確実に捕らえられるのに」

「お前がやればいいじゃないか。あの子のためだということは分かるが」


 近づいて来る目標に集中しているアルフを見ながら、そんな親子の会話が行われていた。

 もっとも二人とも周囲ほどに緊張はしていないが、迫りくる目標に鋭い視線を向けている。

 特にルーカスはアルフがしくじった時のために控えているので、それほど余裕があるわけではない。

 ただ変に緊張して体が硬くなるとろくな結果にならないと知っているので、緊張をほぐすためにもいつも通りの会話を心掛けているだけだ。

 

 それは初手を任されているアルフも同じようで、ある程度の緊張感を持って目標を見ていた。

 その姿を見て周りにいた船乗りたちは、色々な意味で感心している。

 魔物との戦闘ともなれば緊張することが当たり前で、ましてやアルフほどの年では直接相対したことなどないということの方が多い。

 それが船に乗っての戦闘は初めてだとしても、直接の戦闘経験があると一目で見てわかる立ち居振る舞いに驚いている。

 

「――船の方向は問題ないな。気になることといえば、未だに目標が気にするそぶりすら見せないことだが……よくあるといえばよくあることか」

「あとは俺たちが近づいて行って小物が散った時にどうなるかだが、親父はどう思う?」

「それは突っ込んでみないと分からないだろう。あれだけ気性が激しいんだったら、もしかするとこっちに向かって来る可能性もあるな」

「皆はそれも考慮に入れて操船しているだろうな。となると問題はアルフがどう立ち回るかになりそうだ」


 船は、もう既に目標まで目算でも十メートルを切っている位置まで来ている。

 この時点で逃げてしまう魔物もいなくはないが、基本的には逃げずに一当てしてくる個体が多い。

 魔物という生き物の性質がそうさせているのかは不明だが、初手で逃げに入ることはほとんどない。

 逆にいえばこの時点で逃げるような魔物は、そういう性格の個体だったと諦めることになる。

 魔法的に捕獲する方法もあるにはあるが、特殊過ぎる方法になるので今回は使わない。

 

 ルーカスとエルモの二人が会話をしている間にも、船は着実に目標へと近づいて行った。

 ここまで近づくと小物の群れは既にほとんどが散っていて、グレイシャークは近づいて来る船に目的を変えていた。

 大きさでいえば船の方が大きいのだが、それでも向かって来る様子を見せているのは魔物としての気質がそうさせているのだろう。

 これは別に向かって来る個体だけがそうだというわけではないので、船乗りたちにとっては見慣れた光景ともいえる。

 

 アルフは既に舳先の少し手前まで移動していて、迫りくるグレイシャークに集中している。

 グレイシャークも一番近い場所にいるのがアルフだと認識しているようで、お互いににらみ合う形になっている。

 そして両者の距離がほぼゼロ距離になった地点で、ついにアルフが動きを見せた。




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