(8)目標発見

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 船乗りたちが討伐対象になりえる魔物を探している間のこと。

 新人五人組は教育係が目を光らせている中で、不思議そうな様子で辺りを見回していた。

「折角獲物がこれだけいるのに、何をやっているんだ? チャンスだろうに」

「だよな。あれだけの獲物が目の前にいるのに、何故のんびり周りを進んでいるんだ。俺なら突っ込んでいるぞ」

 そんなことを話ししていたのは例の二人組だったが、他の三人も概ね同意見だったようでほぼ同じタイミングで頷いていた。

 

 そしてその会話を聞いていた教育係は、頭痛をこらえるように額に一度人差しを当ててからなるべく感情を抑えるように声を落してからこう答えた。

「お前ら。それを本気で言っているんだったら、次からこの船には乗るな」

「だ、だがよ! あれだけ選び放題の獲物がいるのに……」

「目の前にいる群れアレはな。選び放題の獲物じゃなく、ただのエサって言うんだ。船に乗っての狩りを陸地と同じに考えるな」

 感情を押さえて言った教育係のその言葉に、五人は文句を言うのを止めてどういうことかと視線を向けた。

 

 新人五人が言っていることは、実のところ陸地で活動している冒険者にとってはそれほど的外れな意見というわけではない。

 魔物の肉が食料になるのはこの世界でも同じで、特に中空を浮遊して移動している魔物の肉は珍味として重宝がられている。

 それは小型の魔物であっても同じで、特に陸地に住み着かない魔物の肉は割と高値で取引される。

 ただしそれは船に乗っていない場合という船乗りにとっては限定された条件の時のことであって、移動するだけで多くの費用が掛かる船に乗っているときにはそれは当てはまらないのだ。

 早い話が今彼らの目の前を泳いでいる魔物を船から数を取ったとしても手間暇を考えればさほど利益は得られず、だからこそより高値で売れる大物を探してわけだ。

 どうしても見つからない場合は薄利を覚悟で小物の数を稼ぐという手段も取ることはあるが、それは最初から狙ってやるようなことではない。

 

「――そういうわけだから、お前らもまずは俺らがやることを黙って見ていろ。これで陸地の常識は通用しないと分かっただろう?」

 最後に結論付けるように言った教育係の言葉を聞いて、五人は押し黙った。

 さすがの例の二人もきちんとした理由があると理解できたのか、口を閉ざしている。

 それを見た教育係は、内心で及第点のハンコを押していた。

 

 ――例の二人組については、これでごねるようなら次はないと考えて説明している。

 それが辛うじて免れたことでどうにか強制退場は無くなったわけだが、当の本人たちはそんなこともつゆ知らず、目の前を泳いでいる獲物を恨めしそうに睨んでいた。

 船で取るには微妙な獲物とはいえ珍味には違いないため、ミスミス見逃していることに抵抗があるのだ。

 教育係の船乗りにとっても平民にとっては当たり前の感覚だということも知っているので、敢えて彼らの行動を止めることはしなかった。

 

 黙ったままの二人を見て教育係がそんなことを考えていると、別の三人のうち一人が疑問を口にした。

「教官。あの群れを無視するのはわかりましたが、でしたら何の獲物を狙うのですか?」

「それはまだ分からんな。一応ギルドの報告ではシャークの一種を見たということになっていたが、別の大物が来る可能性もある。――というか、ギルドにどんな依頼が出ていたかくらいは把握しておけ」

「す、すみません……」


 少し呆れて教育係がそう言うと、問いかけた新人は首をすくめながら謝った。

 教育係としてはそこまで強く言ったつもりはなかったのだが、先ほどの『言い聞かせ』が思ったよりも効いたらしい。

 正直を言うと今この船で新人の教育をする必要は無く、この場にいる五人全員がいなくなったとしても全く問題はない。

 その理由としては、『疾風のごとく』に所属している他の船で新人教育が行われていて、既に教育を受けた人材が旗艦であるこの船に移すことが可能だからになる。

 

「ギルドのどんな仕事を受けるかは上が決めることであって自分たちには関係ないと考えているかもしれんが、そんなことはないからな? どんな仕事を受けたかを把握しておけば、自ずと自分のするべき仕事も分かる」

「俺たちは下っ端だからすることは掃除とかであまり変わらないのでは?」


 例の二人組の片方が不満そうな顔でそんなことを言ってきたが、教育係は特に気にした様子もなく淡々と続けた。


「そんなわけがあるか。下っ端のする仕事が掃除だけだと考えている時点で甘すぎだ。今のお前らには危な過ぎて他の仕事を教えられないだけだ」

「……あっちの二人は何もせずに見ているだけなのにですか」

「それは前にも教えただろう? ボンが連れて来た二人は、お前らと違ってある程度のことは教わった上で乗っているんだ。それにあのボンも付いているしな。お前らも見ていればわかる。この分だとすぐに結果を出せそうだしな」

「どういうことですか……?」


 意味ありげな言葉に疑問の表情になっていた新人だったが、教育係はそれには答えずに小物の群れがいる方角とは少しずれた場所を見ていた。

 よくよく周囲を見回してみれば、他の乗組員たちも先ほどまでの観察モードと違って慌しく動き始めている。

 教育係としては、こういったところも彼らに気付いてほしいところだが残念ながら今のところ気付いた様子はない。

 彼らが大物を見つけるのはいつになるのだろうか、と教育係はそんなことを考えながら新人たちの言動を見守っていた。

 

 ――新人五人組が教育係を悩ませている一方で、舵の傍で見守っていたルーカスとアルフは冷静に事態を見守っていた。

 時は教育係が新人たちの勘違いを正している時から三十秒ほど前のこと。

 

「アルフ、気付いているか?」

「何に……って、アレか。シャークの一種かな? ここからだと分かりにくいけれどかなり大きくないか?」

「さすが行商に出ていただけあって目が良いな。シャークは種類が多いからまだどれかは俺にもわからないな。ただ大きさはこんなもんだぞ」

「そうなのか? 陸地ではあそこまで大きいのは珍しいと思うな」

「陸地に住み着いたやつだと大きくなるまえに討伐されることが多いからじゃないか? 中空だと逆に大きくなるまで発見されづらいのだろうな。――ということをこれからの生物系の授業で習うんじゃないんか?」

「なるほどな。そういうことなら納得できる」

 

 陸地から離れた場所にいる魔物ほど大型化することは普通に知られていることだが、実際にはその理由はあまり良くわかっていない。

 ルーカスが説明したことも説の一つであって確実にそうだと立証されたわけではない。

 その説を立証するためには、多くの魔物を観察し続ける必要がある。

 とはいえ船でずっとついて行くわけにもいかず、今のところは証明することは難しいのが現状だったりする。

 

「そんなことよりアルフ。あいつがいるところについたら本番だからな。出来る限り一人で倒せるように動けよ?」

「初めて戦う相手なんだがなあ。出来るかどうかわからないぞ?」

「心配するな。ちゃんと後詰めはいるから出来ることをやってくればいい。できる限りと言っただろう?」

 

 アルフは船の上での戦闘は初めてのことなので、広さが確保されている陸の上で戦う場合とは勝手が違っている。

 今回はそれに慣れてもらうための戦闘になることは、他の乗組員たちもきちんと把握している。

 もっとも後詰めはルーカスになることも説明しているので、心配している者はほとんどいないのだが。

 目標を見つけてからは真っすぐに向かっているので、すぐに追いつくだろうとルーカスと話をしながらアルフは持っている剣の柄に手を添えるのであった。




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m(__)m

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