(7)群れ発見

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 船が遭遇する『危険地帯』のうち、魔物の集団が出現している場所にもいくつかの種類がある。

 例えばサンマなどのように群れで行動している種や小島などに住み着いて繁殖をした種なんかが代表的な例になる。

 前者はともかくとして、後者の場合は住み着いている島が資源になりえるために討伐依頼が出されることもある。

 その場合の発見者は発見報酬を貰えるが、島の所有権は魔物を討伐した船か船団の持ち主のものとなる。

 ただある一定の大きさの島になって来ると発見と同時に国軍が動くことになるので、探索者が動けるまで情報が残っているものは小島の場合がほとんどとなる。

 それでも入って来る実入りは多いので、それを専門にしている戦闘組もいるくらいだ。

 何よりも既に確定している情報をもとに行動が出来るので、あるのかどうかも分からない島を探しまわるよりも確実性は高くなる。

 その分、魔物を確実に処理できるだけの実力が必要になって来るが、そこは乗組員たち次第ということになる。

 

 今回エルモの船が向かった先は、島に住み着いているタイプの魔物ではなく集団で移動しているタイプの魔物がいると報告があった領域になる。

 より正確にいえば、集団で移動している小物魔物ではなくそれらをエサにしている大型の魔物を狙っている。

 小物の場合は食料にすることもあるがそこまでの値段がつかないこともあって、より高額で引き取ってくれる大物を狙うことが多い。

 いわゆる食物連鎖の上位に来る魔物ほど高額になるのは、小物をエサにしていることでより大きな魔力を得てより魔石が大きくなるからとされている。

 

 小物狙いの大型魔物を獲得するためには、ルーカスが知る世界の漁のように知識と経験が必要になる。

 さらに魚群探知機のような機械があるわけではないので、本当の意味で経験が必要になってくる世界でもある。

 当たり前だが移動している小型魔物を追いかける大型魔物を狙うことになるので、素人のまぐれ当たりは別にして数度の経験で見つけることなどは不可能だと言われている。

 ギルドから得た情報をもとに小型魔物の行動パターンを予測して、さらにそれを狙う大型魔物を見つける必要がある。

 

「ボン、そろそろ予定域に着くぜ」

 アルフと一緒に事務処理をしていたルーカスのところに、中堅クラスの船員が報告に来た。

 同じ部屋で仕事をしていたクルトに一言断ってからアルフと一緒に外に向かうと、甲板では若干忙しそうに船員たちが動き回っていた。

 

「ルーカス、本当に動き回っている群れなんて探し出せるのか? この辺りには何もいないみたいだぞ」

「まあな。ただのまぐれ当たりを狙って移動するのも一つの手だが、ベテランになって来ると風なんかを読んである程度予測することは可能だ」

「アッハッハ。坊主、ボンはあっさりこんなことを言っているが、分からない奴は全く分からないからな? それにボンほどに読みを的中させるためには経験以外のものも必要になって来るぞ」

「経験以外のものですか。それは具体的にどんなものでしょうか?」

「さてな。話を聞くところによると人によってバラバラらしいし、俺自身は持っていないからなあ。よくわからなん。ボンクラスまで行くような奴らはほんの一握りだぜ?」


 それが当たり前のことだと笑う中堅船員の言葉を聞いて、アルフは「なるほど」と納得していた。

 ルーカスが普通ではないということは学生生活を見ていても分かっていたが、船の上に乗るとよりそれが顕著になることが分かった。

 事務仕事をしているときにクルトから様々な話を聞いていたアルフだったが、それが別の人間からも聞けたことになる。

 それらの話が本当のことかどうかはこれからすぐに見られると分かっているので、アルフは期待するような視線をルーカスに向けた。

 

「そこまで持ち上げてくれるのは有難いが、見つけられるときは見つかるし駄目な時は駄目だからな。要するに運ってわけだ」

「その運をできる限り上げられるようにするのがボンの実力だろ。――おっと話をしていたら着いたな」

 

 船を操舵する舵のある場所には、数人のベテランたちが集まっていた。

 彼らもその経験を生かして船が進むべき方向を相談していたが、ルーカスの姿を見てすぐに話しかけて来た。

 

「ボン、来たか。一応事前に決めていた場所に向かっているが、どうも風が予定と違っているんだよな。方向を変えるか悩みどころなんだが、どう思う?」

「あ~、どうだかな。この程度ならあまり気にしなくても良いと思うが……十一時方向に少しだけずらすか」

「やっぱりか。おい、聞いたな! 良いと言うまで十一時方向だ」


 ルーカスの指示を聞いてすぐにそのベテランは他の乗組員に指示を出し始めた。

 帆船である以上は単に舵を動かすだけではなくて、帆の位置もきちんと調整しなくてはならない。

 ちなみにルーカスが言った『少しだけ』というのは方角ではなく、指示した方向を維持する時間だ。

 具体的な数字を言わずにベテランが指示通りに動けている時点で、日常的なやり取りだということが分かる。

 

 そしてルーカスの指示があってから方向を少しだけ変えた船が数十分ほど進むと、見張り台にいる見張りから声が聞こえて来た。

「――発見! 進路、ほぼこのまま!」

「さすがのボンだな。おい、微調整は必要だろうから油断はするなよ!」

 見張りからの声にルーカスの隣にいたベテランが目前に注目しつつ他の船乗りに指示を出し始めた。

 

 ただし厳密にいえば見つけたのは小物の群れで、最終目標である大型魔物が見つかったわけではない。

 あまり驚かせないように小物の群れに近づきつつ、周辺を確認する乗組員たち。

 目的はあくまでも小物を狙う大物なので、群れを散らすことが無いように慎重に操船することも大事な作業になる。

 既に船長であるエルモが来ているのでルーカスが指示を出すことはしてはいないが、ルーカスは別でやることがあるので『その時』に向けて準備を進めている。

 

 大物を見つけるために動き回る乗組員を確認しながら自身も周辺に目を走らせるルーカスに、アルフが話しかけて来た。

「――なあ。本当にいるのか? 遠目に見てもいるようには見えないんだが?」

「空の領域は陸地とは違うからな。いきなり姿を見せることもあるから油断は出来ないぞ」

「いきなりって、伝説の転移魔法でも使って来るのかよ」

「そんなわけないだろ。そうじゃなくって、普通じゃあり得ないスピードで近づいて来るんだよ。あと陸地とは違って下からも来る可能性があるから見逃すことも多いな」

「陸地も地下に住む魔物はいるが……そうか。どちらかといえば不意打ちに感じることが多いということか」

 ルーカスの説明にアルフは納得した様子で頷いた。

 

 レーダーのように全方位を探知できる魔法でもあればまた違うのだろうが、今のところそんな便利な魔道具は勿論、魔法も開発されてはいない。

 前方を見ることしかできない人族だと三百六十度どころか、それに加えて上下すべての方向から襲って来る可能性がある魔物を見つけるのはかなり難易度が高くなる。

 結果として察知できずに突然現れたように見える(感じる)ことが多くなり、どこかから転移してきたように見えることもあるわけだ。

 当然ながら何度も大型魔物と相対したことのある船乗りたちはそのことを知っているので、油断なく周辺を見渡していた。

 大型魔物の討伐は、初手にどれくらい早く見つけることが出来るのかということでも成否が掛かって来るので、全員が一丸となっていち早く見つけようと目を光らせていた。




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