(4)新人の評価

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 朝の慌しい準備が終わって、船が港を離れてある程度安心できる場所まで離れた。

 港が近い場所だとやはり船の出入りが激しく、その分接触事故などの危険もあるため気を抜くことが出来ない。

 港を離れると絶対安心というわけではないのだが、それでも事故の確率が減る事は間違いないので多少は気を抜くことが出来る。

 今回の出港はあくまでも新人たちの教育がメインになっているので、そこまでの遠出をする予定にはなっていない。

 それでも片道二日程度のところまで行く予定は立てているので、新人にとってはちょうどいい訓練になるはずだ。

 その新人というのには当然のようにアルフやエルッキも含まれていて、それぞれ予定していた場所で職務に励んでいる。

 エルッキは機関長からより実践的な機関士としての訓練をしているはずで、アルフは副長の下で事務系の仕事を請け負っていた。

 アルフにはいざという時の戦闘も行う予定にはなっているのだが、魔物も含めて戦いが起こるかは運次第なところがあるのでまずは事務をしてみようということになっている。

 

 そしてある程度時は進んでお昼時。

 ルーカスは、船長室に集まった面々と食事を取っていた。

 船長室とはいえそこまで広くはない部屋ではないが、テーブルにルーカスも含めて四人が集まっていた。

 ちなみにこのテーブルでは、地図を広げて先に進むべき航路を決めたりする時に使ったりもしている。

 

 席に座っている四人はルーカスとエルモ、それに機関長のベンと副長のクルトになる。

「――それで、新人共の様子はどうなんだ?」

「船長。それだとどっちの新人か分かりませんよ。それとも両方ですか?」

 クルトに問われたエルモは、あごの辺りを右手で触れながら少し考える様子を見せた。

 

「出来れば両方の様子を聞きたいな。俺は部屋に籠りっぱなしだったからな」

「そうですか。それではまずこちらで集めた者たちですが……予想通りのはねっ返りと言ったところでしょう。二人ほど昼食抜きが出ていましたね」

「おうおう。それは元気なこって。加減は任せるが、くだらん真似をしたらさっさと閉じ込めておけよ」

「まだ可愛い反抗程度ですからそこまでする必要はないですかね。武器も与えられていないので、出来ないというのが正確なところでしょう」


 船の中という限られた空間の中では一人の人間が刃物を振り回しているだけで、危険空間に早変わりする。

 そのため新人たちには殺傷能力の高い刃物の類は、新人組には渡されていない。

 

「五人組はそれでいいとして、ルーカスが連れて来た二人はどうだ?」

「私の担当はアルフですが、特に問題ありませんね。さすがにドーレン商会の身内といったところでしょうか。年の割には随分と商材に詳しいですが、何かやっていたのでしょうか。坊、その辺りの話は聞いていますか?」

「あ~、なんでも小さかった頃に引退した爺様とくっついて行商に出ていたとか言っていたかな。ドーレン家の家訓でもあるそうだ。『商売は行商から始まる』だそうだぞ」

「そういうことですか。通りで商売に詳しいはずです。英才教育ですね」

「確かに、どこかで聞いたことがあるような話だな」

「私の場合は、坊が望んだから連れて歩いていただけです。成人してからならともかく、子供のうちから連れまわすつもりなんてありませんでしたよ」


 昔のことを思い出して楽しそうな顔になりながら語るクルトに、エルモは「そーかい」とだけ返していた。

 確かにルーカスはクルトの後にくっついて市場に出回っていたことがあるが、それは最初はルーカスが言い出したことが発端になっている。

 ただ後の方になればなるほど教えがいがあると本気になっていたのはクルトなので、どっちもどっちともいえる。

 もっともそのお陰でルーカスに事務系の知識が身についているのだから、エルモとしては文句を言うつもりもない。

 

「――ルーカスのことはいいとして、アルフのことはわかった。エルッキはどうなんだ?」

「どうもこうも、勘の良さはさすがだぜ。あと一月も船に乗せていれば、どこに送っても恥ずかしくはなくなるだろうぜ。ただ奴の場合はそれだともったいないことになるが」

「ほう? ひと月で使い物になるというだけでも十分すぎる気もするが?」

「エルッキの場合は、個別の船をちまちま修理したりしているよりも、どこかのドックとかで複数を纏めて面倒見ているほうが才能が発揮できる。それこそ小さい時から出入りして色々見て来た結果だろうな」

「なるほどな。一職人としてよりも親方的な資質が上回っているということか。知識的には問題は無いんだな?」

「ああ。研究の道に進めるくらいの知識量は持っていると思うぜ。……発想に関しては俺じゃあ判断がつかないが。ボンから見てどう思う」

「俺か? エルッキが研究者か。……どうだろうな。当人が部屋に籠って実験しているよりも、現場に出ている方が好きというだろうからなあ。今の話じゃないが、どっちが向いていると言われれば現場の方がいいとなるんじゃないか?」

「やっぱりそうなるよな」


 ルーカスの見解に、ベンも納得した様子で頷いていた。

 そもそもアルフにしてもエルッキにしても、人の上に立って指示できる立場になることを目指して教育を受けている。

 だからこその言葉ではあるが、当人が選ぶ道によってはどこでも才能を発揮できるようになることは間違いない。

 それにアルフに関しては、事務仕事だけではなく戦闘員としての能力も期待されて船に乗ってもらっている。

 今のところその力が発揮される場面には出くわしていないが、いずれは魔物を相手に立ちまわってくれるはずだ。

 

「――魔物は出てこないことに越したことはないけれど、出てこないことにはどうしようもないからなあ……」

 ルーカスがそう呟くと、担当のクルトが表情を変えずに視線を向けて聞いてきた。

「私は計算能力と知識面しかまだ見ていませんが、それほどですか?」

「俺を基準にいえば、魔法は俺が上で剣はあっちが上ってところかな。実戦は見たことがないから何とも言えないが、総合すると俺が上じゃいか?」

「いやいや。ボンを基準にするって時点で間違っているからな? この船にもボンを相手に立ち回れる奴なんていないだろ」

「そうですね。まさか坊と同じ年で同等の力を持っている子供がいるとは思いませんでした」

「それこそいやいやだぞ。少なくとも中央の学校には、片手で数えられるくらいはいるはずだ」

 

 中央の学校は国中のエリート(候補)が集まる場所なので、ルーカスの言った基準自体がずれている。

 そもそもまだまだこの世界の基準でも未成年のルーカスたちが、大人顔負けの戦闘能力を持っていること自体があり得ない。

 そんなルーカスと相対してまともに相手できるという時点で、アルフの実力も普通ではないということが分かる。

 

「おう。ボンの基準がおかしいということは分かった。それと同じくらいに周りに集まっている奴らも普通じゃないってな」

「そうですね。こうなって来ると、比べられる新人たちが気の毒になってきますが……」

「それは最初から分かっていたことだろう。これくらい乗り越えられないとこの船ではやっていけないだろう」

 

 ベンとクルトの揶揄うような言葉に、エルモが真面目な表情をしながらそう返した。

 エルモの船に乗っている乗組員は、どこに出しても恥ずかしくないくらいの探索者たちだと考えている。

 そんな探索者たちに囲まれて新人たちがどんな成長を見せるのか、楽しみでもあり期待してもいいのかと不安になるところだとエルモはそんなことを考えていた。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る