(2)乗船

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 ルーカスやエルモと一緒に船に乗り込んだアルフとエルッキは、乗組員からも注目を浴びることとなった。

 ただし以前から船に乗り込んでいた探索者たちは、既にエルモから説明を受けていたので少しだけ視線を向けて自分の仕事に戻っていた。

 ここでさらにルーカスを含めた三人を見続けて来たのは、どう見ても成人したての若者五人だった。

 明らかにその五人が新人であることは、どうしていいのか分からずに周りを見回していたことからもわかる。

 そんな五人は、何故三人が船長であるエルモと一緒に来たのかが分からずに訝し気な様子で見ていた。

 ただエルモが船に乗り込むなり船員たちに指示を出すためその場を離れると、五人が近寄ってきた。

 その五人のうち二人ほどが何故かニヤニヤと笑いながら近寄ってきたのを見て、ルーカスは内心でため息を吐いていた。

 どうやら五人はルーカスのことまで聞いていなかったらしく、完全に自分のことを同じ新人だと舐めてかかって来る気らしいと。

 

 ただしわざわざその二人の思惑に乗ってやる必要もないと、ルーカスはわざと先んじてアルフとエルッキに話しかけた。

「二人とも。船内を案内するから着いて来るといい」

「お? いいのか? 忙しそうだが?」

「忙しそうだからだよ。今は挨拶をしてもろくに答えは返ってこないからな。逆に今のうちに船の中を把握しておいた方がいい」

 ルーカスがそう言うと、二人はなるほどと頷いていた。

 

 ただ折角のルーカスのその気遣いも、その場で待っているようにと言われていた新人たちには通じなかったようで止めるように話しかけて来た。

「おいおい。いーのかよ? 新人は邪魔になるから待っておいたほうがいいらしいぞ?」

「だよなあ。しかもお前ら俺たちよりも年下だろう? 余計な真似をして仕事を増やすんじゃねーか?」

 からかい気味にそう言ってきたのは例の二人だったが、他の三人も同じことを考えているらしく黙ったままルーカスたちの対応を見守っている。

 二人については、ルーカスたちが勝手な行動をしようとしているところを見て隙を見つけた気になっているようだった。

 

 ただルーカスはわざわざそんな新人たちに付き合う必要はないと、アルフとエルッキに無言のまま先に行くようにと促した。

 そして自身が最後になるように動き始めたが、その様子を見て新人五人が止まるはずもない。

 最後に残ったルーカスに向かって、さらに大声で止め始めた。


「おいおい、本当にいーのか! オレは知らねーぞ!?」

「怒られても知らないからな!」

 

 それを聞いて子供の口論かよと言いたくなったが、ルーカスは歩みを進めた。

 そんなルーカスの態度も気に入らなかったのか、二人のうちの一人がルーカスに掴みかかろうとしてさらに一歩踏み込んできた。

 さすがに力で何かをされるのであればルーカスも対応しようと振り返ったところで、こちらの様子に気付いた船員の一人が近寄ってきた。

 

「おい、お前ら。何をやっているんだ! 黙って俺たちの仕事を見ていろと言われていたじゃねーか! 余計なことをして仕事を増やすんじゃねーよ!」

「先輩、丁度よかったです! 俺たちもそう言われていたので、こいつらにしっかりと教育をしてやろうと……」

「こいつらって、ボンのことか? いいか。あっちの二人はともかく、ボンはそこいらにいる兄弟たちと比べても別格だからな。お前らなんか足元にも及ばねーよ! ――ボン、済まないな。こいつらは俺が面倒見ますわ」

「いいのか? 手間かけさせて済まないな」

「勿論でさ。ボンはあっちの二人を、俺たちはこいつらの面倒を見るってことで話はついているんだ。気にせず行ってかまわねえ」

「了解。それじゃあ、こっちは任せるよ」


 ルーカスは、これまでのことなど気にも留めていないと言わんばかりに右手を上げてからアルフとエルッキのところまで少し速足で歩き始めた。

 その様子を割って入ってきた船員は少しだけ見送ったあと、不満そうな顔をしている新人たちに顔を向けていった。

 

「――ったくよ。余計な手間、かけさせやがって。お前らはあっちへ戻って、素直に俺たちの様子を見ていろ。最初のうちは絶対にやらかすから、手を出すんじゃねーぞ!」

「ま、待ってくれよ、先輩! なんで俺たちは動けねーのに、あいつらは自由にしているだ!? 可笑しいじゃねーか!」

「ああん……? なんだ。お前らボンのことすら知らずにこの船に乗っていたのか。勢いが良いのは悪くないが、少しは他の奴らに話を聞いておくとかしておけよ」

「ど、どういうことだよっ!?」

「あ~……ったく、面倒だな。俺だってまだ仕事があるのに。――いいか、この船に乗っている以上、船長とあのボンには絶対に逆らっては駄目だからな!」


 そう前置きをしてから、その船員がルーカスについての説明を詳しくし始めた。

 その説明をしている途中で五人のうちの二人は顔色を変えていたので、ルーカスのことはどこかで話を聞いていたようだった。

 ただ残りの三人は全く顔色を変えないどこらか、むしろ『何を馬鹿な』という顔になっていた。

 ルーカスの見た目からは自分の話が信じられないということは、説明をしていた船員もよく理解できる。

 そのため手間暇をかけて説明をするのではなく、簡単な説明だけをしてから後で時間が出来たら細かく説明すると言って無理やりに彼らを抑え込みつつ自分の仕事へと戻った。

 

 ――そんな様子も知る由もなく、ルーカスたちは船体内部へと入っていた。

 ただし内部に入る前にたまたま機関長と出会っていて、案内も兼ねて一緒に行動している。

 帆船に機関とは何ぞやと疑問が浮かぶのはルーカスの知る世界での常識で、この世界では当たり前の常識として知られている。

 というのも船が宙に浮くということもしかり、その状態で進むための仕組みも必要になるため、そうした魔道具による機器類を纏めて『機関』と呼んでいる。

 ベンはそんな機関のすべてを知り尽くしている機関長で、数人の部下と共に船の機関を扱っているエルモの信頼も厚い人物になる。

 エルモとの付き合いが長いということは当然のように赤ん坊のころからルーカスのことを知っていて、自分の子供のように接してくれていた。

 

 そんな機関長ベンに案内されながら、ルーカスたちは機関室へと向かっていた。

 本来なら普通の船員であっても立ち入ることが出来ない場所であるが、ルーカスたちなら大丈夫だろうと案内してくれることになっていた。

 それにエルッキは機関に関しての研修をすることになっているので、最初から案内したほうがいいだろうということになった。

 むしろそう言われたエルッキのほうが戸惑っているようで、機関室に向かう途中でこんなことを聞いていた。

 

「あの……本当にいいのですか? 普通なら部外者なんか絶対に立ち入りは出来ないと思っていたんだが?」

「俺にまどろっこしい敬語なんていらねえよ。普段通りに話せや。それにお前が入るのは構わねーさ。ボンが連れて来たってこともあるが、そもそもお前のこと自体も知っていたからな」

「俺の……? アークラ子爵家の子供だからってのは気にするなと言っていたはずで……だが?」

「そういう意味じゃないさ。俺は今回の話を聞く前から、お前のことを人づてに聞いていたんだよ。その話を聞いて一度会ってみたいと思っていたんだ」


 ベンの口から意外なことを聞いて、エルッキは驚いた様子でルーカスを見た。

 だがベンがそんなことを言いだすのはルーカスにとっても予想外だったため、ゆっくりと首を左右に振るのだった。




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m(__)m

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