(17)いつものツクヨミといつもと違うツクヨミ

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 棚ぼた的に手に入った船のことはアーロンに任せておけばいいと判断したルーカスは、次に向けて動き始めた。

 船とそれを動かす人員を手に入れたのはいいが、それを維持できなければ意味がない。

 人が作っている物である以上は、どうしたって故障はするだろうし傷んでも来る。

 個人で船を持っている探索者は修理費用も含めて自前で用意しなければならないが、アーロンはあくまでも雇われ船長なのでそうした環境はルーカスが用意しなければならない。

 当面はガルドボーデン王国にある施設で対応してもらうしかないとしても、今後は自前で点検・修理くらいはできるようにしておきたい。

 この世界で土地を手に入れた以上は、どうしたって船関連の設備は必須になるため今から用意しておくことが重要になる。

 とはいえ必須の技術であるがゆえに船関連の技術者は、そう簡単に用意できるはずもない。

 そういう意味ではライフバート王国の動きに期待したいところではあるが、あまり一つの組織に期待しすぎるのも将来痛い目を見ることになりかねない。

 

 今でも中継島の港で簡単な修理ができるようにはしているので、今後はその機能を拡充していくことが課題になる。

 一気に進めるとどこかに歪みが出てくると考えているので無理やりに人を集めたりすることはしないが、ルーカスとしてもできる限りは早く用意するつもりでいる。

 ただ港の機能だけを拡張していっても意味はないので、並行して中継島全体の人口も増やしていく。

 色々と問題は山積しているが、ここを乗り越えないと安定した島運営は出来ない。

 

 そんなことをつらつらと考えながら寮に戻ったルーカスは、元気に頭の上でフヨフヨしていたツクヨミから触手で頭をポンポンされた。

「――んを? ……ああ、もうご飯の時間か。ちょっと待ってな」

 気付けば夕食にちょうどいい時間になっていたことをツクヨミから知らされて、台所へと向かった。

 

 ツクヨミは空気を読むことに長けているので、ルーカスが何かをしている時には催促されることはない。

 ただし今みたいに寮にいるときや誰とも話をしていないときなどには、しっかりと自己主張をしてくる。

 特に多いのは今回のような食事に関することで、よく催促してくる。

 ツクヨミに三大欲求があるかは分からないが、少なくとも食欲に関してはしっかりとあることがわかる。

 ただし他の二つがあるかどうかは、今のところルーカスにも分かっていない。

 

 ツクヨミは基本的に雑食なので、ルーカスが食事の用意に困ったことはない。

 特にルーカスが食べている物に興味を示すことが多いので、大体は余り物を与えるだけで満足してくれる。

 それだけではなくルーカスが見ている限りでは、ツクヨミにとって何かを『食べる』という行為は趣味趣向に近いのではないかと考えている。

 極端な話をすれば、あるものを除けば他のものは与えなくても生きていけるのではないかということだ。

 

 その『あるもの』が何かといえば、これからルーカスが与えようとしている魔石だ。

 より正確にいえば魔石にある魔力を吸収しているようで、ツクヨミに魔石を与えると魔力が失われた状態になって返って来る。

 ツクヨミが魔石を『食べる』ことに気付けたのは偶然ではなく、学校の星獣に関する講義を受けたお陰だ。

 星獣の中には魔石の魔力を糧にするものがいるという話を聞いて、ツクヨミもそうではないかと確信することが出来た。

 

 ちなみにツクヨミが魔石の魔力を食べることに気付いたのはもう少し前のことで、その時はそちらが嗜好品として魔力を得ていると考えていた。

 たまたまルーカスが机の上に置き忘れていた魔石を、ツクヨミが手を出したことで気付けた。

 それまでは普通の食事をさせていたので気付けなかったのだが、たまに魔石を与えると喜んでいたのでデザート的な扱いで上げていた。

 それが実はメインが魔石で、普通の人が食べる料理のほうが嗜好品だと気付けたのは完全に講義のお陰だった。

 

 台所に魔石を用意してあるのは、完全にツクヨミのためだ。

 ツクヨミにとっては魔石からの魔力吸収が大事な食事であったとしても、ルーカスと一緒に食べることが嬉しいらしい。

 そのため雰囲気を作るためにもわざわざツクヨミ用の魔石を台所に用意して、一緒に食事をとるようにしている。

 ちなみにルーカスの夕食は藤花が用意したものがあるので、それを同じ場所で取ることになっている。

 

 藤花と同じ席について夕食を取りはじめると、ツクヨミも早速とばかりにテーブルの上に置かれている魔石に触手を伸ばした。

 勝手に食べ始めたりしないのは、ツクヨミが初めから身に着けていた作法(?)になる。

 ルーカスのことを主だと考えていて、その主よりも先に食べるわけにはいかないと思っているのかは分からないが、同じテーブルについているときに先に手を出すことはしない。

 その割には時おりルーカスが与える間食的なものを食べるときにはがつがつと食べるので、ツクヨミの中で何かしらのルールはあると考えている。

 

 触手を使って器用に魔石を持ちあげたツクヨミは、頭部の口に当たる部分まで持ってきてチューチューと魔力を吸い始めた。

 実際にはそんな音を立てているわけではないが、そのビジュアルのせいでそんな音が擬音として脳内に変換されている感じだ。

 ……少なくとも、オノマトペで溢れている日本語を使って生きて来た記憶があるルーカスには。

 魔石からの魔力を吸い終わると空になった魔石を丁寧にテーブルに置くのは、ツクヨミの下の性格か行儀の良さが現れているせいだろう。

 

 そこまでの一連の作業はこれまでと同じでルーカスも微笑ましく見守っていたのだが、今回はいつもとは違う現象が起こった。

 何故か「ピチュ!?」と表現できるような声か音を発したツクヨミが、小刻みに震え始めたのだ。

 ルーカスにとっても初めてのことだったので、思わず「ツクヨミ!?」と声を上げることしかできることがなかった。

 下手に触ると何が起こるか分からないということと、そんな状態になっているにもかかわらずツクヨミが大丈夫と言っているように感じたので見守ることにしたということもある。

 

 それらに加えて、ツクヨミの震えが続いたのは時間にして五秒ほどだったので何か行動する前に終わったということもある。

 とにかく震えが終わったツクヨミは、次に普段は半透明なその体を七色に光らせ始めた。

 正確にいえば発光するというよりも色が変化しているように最初は見えていたのだが、淡く光っていると気付いたのは後から考えて「そういえば」と思い出せる程度の光の強さだった。

 その発光現象もまた五秒ほど続いて、その後はいつもと変わらない姿に戻っていた。

 

「ツクヨミ、今のは!? ――って、それはいつもの浮遊石……じゃない?」

 

 ツクヨミがいつものように浮遊石を渡してきたのを見て、ルーカスは慌ててそれを受け取った。

 ただしこれまでツクヨミが浮遊石を作り出すときにこんな現象は起きていない。

 普段はいつの間に出来たのかと思うくらいにツクヨミが唐突に渡してくることが常だったので、さすがに今回の現象にルーカスは驚いてた。

 

 さらにツクヨミが差し出してきた浮遊石を確認したルーカスは、それがいつものものとは違っていることに気が付いた。

 形そのものはいつもの浮遊石と変わらないのだが、帯びている色味が今までのものと違って濃くなっている。

 そのことを藤花にも伝えてより詳しく浮遊球で調べた結果、ツクヨミが渡してきたのは浮遊石で間違いなく、今までのものよりも多くのエネルギーを帯びたものだということが判明した。




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m(__)m

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