(18)ツクヨミのこと
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ツクヨミが新しく生み出した浮遊石は、今までのものよりも倍くらいのエネルギーがあることが分かった。
それだけを聞くとかなりの進歩になるが、実際には今までと同じペースで生み出してくれるかどうかも分からないので単純には喜べない。
ただ同じペースで生み出せなかったとしても、いづれは今までのようにペースを上げてくれることも期待できる。
問題はペースが追い付いてくれるまで浮遊球の運営が持つかどうかだが、それはこれまでのルーカスの方針が役に立っていた。
「重要そうなアイテムは無駄に取っておくという性格が役に立った……かな?」
「そうですね。ツクヨミ様がこのまましばらく浮遊石を生み出さなかったとしても、当面は今ある在庫でもちます。慌てる必要はないでしょう」
「保管してある分だけだと仮定すると、どのくらいの期間もつ?」
「半年ほどは大丈夫でしょう。ただ島にこれ以上何もしなければの話ですが」
「大きさは当面現状維持をするつもりだから大丈夫だろう。大きさを変えたり『設備』を作ったりしなければ、今のエネルギー使用量は維持だけで済むんだろう?」
「はい。それで合っています」
浮遊球で使われるエネルギーは、浮遊球そのもので使う分と外部の島で使われる分に大別できる。
どちらも規模を増やせば維持するためのエネルギーが増えることになるので、拡張さえしなければエネルギー使用量が増えることはない。
あとは『設備』を増やした際にも大きくエネルギーを使うことになる。
この設備というのが厄介で、管理者たちが暮らしている浮遊球の設備は勿論のこと、浮遊島にも色々な設備を設置できたりする。
場合によっては山を作って鉱山を用意したりすることもできるので、使いどころによっては大きな可能性を秘めている。
ただし普通ではありえない機能を使うことになるので特殊な素材と大きなエネルギーが必要になるので、おいそれと使えるものではない。
「仕方ないので当面は必要資源は輸入とアーロンだよりになってしまうな。ここでも貧乏性を発揮することになるが、倉庫を多めに作ってもらって保管量を増やすしかないか」
「そうですね。人口の増加に対しては流入量を制限するだけで当面の対処は出来ますが、長く続いた場合はどうなるか分かりません。大国のように安定しているのなら別ですが」
「それな。人の数はいきなり大量に増えたりしないとはいえ、こっちで制限するわけにはいからないからな」
「その分、世代が続けば土地への執着も増えてくれるはずですから……痛し痒しですね」
そもそも大国の場合は、その人口に合わせた資源を用意している場合が多いので多少の変動があったとしても揺らぐことは無い。
ところが、中継島のような規模で人口に合わせた資源しか用意しなかった場合、いざ大量に必要になった時にはすぐに在庫が無くなってしまうということが起こりえる。
――そんなことを考えてしまうのは、やはりルーカスが貧乏性なところがあるからかもしれない。
いずれにしても今のところの中継島の方針は、ルーカスの影響を強く受けて「可能な限りため込む」という方針を取っている。
「人口の話はいいとして、とにかくツクヨミが頑張ってくれたんだ。どう活用するかは俺たちがしっかりと決めないといけないな」
「はい。ツクヨミ様に見限られるようなことがあってなりませんから」
「見限られるなんてこともあるのかね? 星獣の場合はあるらしいけれど」
「あるでしょう。マスターが今のような扱いをされている限りは大丈夫でしょうが。ただの『金のなる木』扱いをすれば、どうなるかはわかりません」
「確かにね。そんなつもりは毛頭ないけれどな。残念ながら貴族に限らず一定数そんな目で見て来る輩はいるが」
「私たちも王種を除けば似たようなことを考える者も出てきます。それを考えれば、人としての心を持てば誰しも似たような性質を持っているのかもしれません」
「隣の芝は――というやつね。それを理性で抑え込めるかどうかが重要というわけだな」
他人のものを羨ましがることを抑えることに理性が必要なのかどうかは分からないが、ルーカスはそう結論付けた。
誰かのものを無理やり奪ってしまうのは論外だが、大なり小なりそういった欲求を全く持たない人はいないというのがルーカスの持論になる。
問題は、他人に迷惑を掛けない形で自分の中でそれを処理していくかが重要ということだ。
「――うん。どうでもいいことに話が逸れてしまったな。それで余分に手に入ったエネルギーだけれど、ちゃんと使い道を決めたから」
「貯めておくのではないのですか?」
「それも考えたんだけれどな。折角だからツクヨミ用の魔石に使おうかと思ってな」
「なるほど。そういうことなら私も賛成です。今の浮遊球の状況でグレードを上げることは出来ませんが、数を増やすことは可能です」
「だな。本当ならグレードの高い物をあげたいところだけれど、こればかりは仕方ない。次回以降も続くようなら別で用意することにしよう」
「畏まりました」
ルーカスが浮遊球に魔石を作り出す機能があることを知ったのは手に入れてからしばらくのことだけれど、今回の件で
浮遊球の運営に必要なエネルギーを王種が作り出す浮遊石で生み出して、そのエネルギーを使って王種に必要な魔石を生み出すわけだ。
もっとも王種に必要な魔石を全て浮遊球のエネルギーで作り出すことは出来ないので、外部から調達する必要はある。
本来なら自前で冒険者を雇うなりして魔物から得るのが良いのだろうが、今の中継島の状況では外部から買った方が早い。
外貨自体は十分なほどあるので、ツクヨミが食事するだけの魔石を買うくらいは全く問題は無い。
「今回はあくまでも臨時収入ってことで、みんなには申し訳ないけれどな」
「いえ。安定しないうちに仲間を増やしたり生活水準を上げても、後に困るのは自分たちです。皆も分かっているので問題はないでしょう」
「ごめんな。ツクヨミ頼りになってしまうのは、何とも情けない気はするな」
「それは違います。マスターがいらっしゃるからこそツクヨミ様がこの世界に現れ、浮遊石を生み出してくださるのです。そこはお間違いになられないよう」
虎の威を借る狐ではないが、ツクヨミがいてこその自分だと苦笑交じりに語るルーカスに、藤花が少し厳しめに訂正を入れた。
王種に限らず星獣は『主』がいてこそ意味があるというのが、この世界では一般的な考え方だ。
主を失った星獣は他の誰かに懐くことは無く、そのまま後を追うようにその生を終えると言われている。
実際のところは主を失うと同時に姿を消すことが多いので本当はどうなっているのかは不明だが、他人にとっては『生を終えている』という解釈で間違いではない。
「……そうだったな。ツクヨミもごめんな」
藤花から注意されるだけではなく、ツクヨミからも注目されていることに気付いたルーカスは素直に頭を下げていた。
つい口にしてしまった言葉でツクヨミを傷つけてしまったのであれば、本末転倒になってしまう。
ツクヨミが抱いている感情も読み取れるようになってきているので、さすがに筋違いの杞憂であるとルーカスは理解した。
ルーカスが手を伸ばすとツクヨミも仲直りの印なのか、触手を伸ばして触れて来た。
ツクヨミの触手が触れて来るのを感じたルーカスは、小さく笑いながらさらにその体を撫で始める。
ツクヨミもそれを受けれて撫でられるままになっているところを見て、藤花もまた小さく微笑みを浮かべるのであった。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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