(16)初依頼
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ルーカスとアーロンの話し合いはしばらく続いた。
今は一隻しかないのだが、今後は増やすことも考えている。
そうやって船団を作るとどうしても船団長の存在は必要になるわけで、その候補もアーロンになるだろうとルーカスは考えている。
船のことだけではなく、島全体のことに気を配らなければならないルーカスには、どうしても自分の考えを察して動いてくれる相棒が必要になる。
アーロンができるのはあくまでも探索者としての仕事であり、軍人としての能力が高いわけではない。
それでも周辺の探索が重要なこの世界では、アーロンのような人材はどうしても必要になって来るわけだ。
後々騎士までまとめることになるかはアーロン次第なところであるが、ルーカスの心情としては出来ればそうなってほしいとも思っている。
もっともそれはきちんと周囲から評価されて成れるものなので、ルーカスがごりを押しをするつもりはない。
「――騎士団となると厳格さも求められるわけか。俺たちにとっては一番苦手なところだな」
「そうかもな。ただアーロンにそれを求めるかは別だぞ。そのまま探索者としての活躍を続けてもらうかもしれないしな」
「そうなのか? てっきり騎士団入りになると考えていたんだが?」
「絶対にないとは言わない。けれど無理に騎士になってもらうつもりもない。もしかしたら流れで騎士を勧誘できるかもしれないしな」
「あ~。そのための学生でもあるわけか」
「そっちは偶然だな。最初は入学するつもりなんて無かったし。今となっては入ってよかったと実感しているが」
学校は勉強するところであって社交を重要視している中央の学校の在り方を懐疑的に見ていたルーカスだったが、今はそんな考えはほとんど無くなっている。
貴族の子供たちだけではなく、一般入試で入ってきた優秀な平民の子供たちと知り合えていることも確実に将来の財産になっている。
ほぼ百八十度意見が変わってしまっているのだが、ルーカスは別にそれが悪いことだと考えていない。
今後も必要であれば今の意見を変えるつもりではあるし、一つの考えに囚われ続けるつもりもない。
一番重要なことは、自分と自分たちを支えてくれている人たち(勿論ツクヨミも含む)をどうやって守って行くかということだけだ。
「なるほどな。そうなると俺も学校に入って騎士団入りという道もあったわけだ」
「確かに。でも兄さんは今の道で良かったとも思うな。現にこうして役に立ってくれているし。騎士には
「それもそうか。だったら俺はこっちからお前を支えることが出来るってことだな」
「そう言ってくれるのは有難いけれど、そんなに気負う必要はないからな。むしろ無理だと思ったらはっきり言ってもらわないと困る。……場合によっては無理かと分かっていてもやってもらうこともあるかも知れないが」
「それはそうだろう。最初から完璧に成功するなんて分かっている仕事なんてありはしないさ。この世界に入った新人が真っ先に分かることは、むやみな自信を持つと待っているのは破滅だけということだろう?」
「そういえばそうだった。新人教育なんてしばらく見ていなかったから忘れていたな」
ルーカスは、新しい船への勧誘は完全にアーロンに任せるつもりなのでどれくらいの新人が入って来るかは分からない。
何だかんだで実際に苦労するのはアーロンになるので、その辺りの配分に口を出すつもりもない。
幾ら浮遊船の技術が発達してきてガルドボーデン王国の初代国王の時代からすればかなり安全になっているとはいえ、それでも絶対ではない。
アーロンにとっては命を預ける相手ともいえるので、船に乗る機会が限りなく低いルーカスが外から何かを言っても反感を買うことにしかならないだろう。
「お前は旗艦に乗りっぱなしだからな。新人教育なんてほとんどしていないだろうな。――それはいいとして、島では船の製造はしないのか?」
「あ~……。今のところしたくてもできないというのが本音だな。そもそもようやく食糧生産にめどがついたところなんで、技術系はまだ先の話だ。余裕が出来たとしても半年後とかじゃないか?」
「そうなのか。折角の中継島なんだから修理技師くらいは置いてもいいとは考えていたんだがな」
「それは俺も考えた。ただ技師は用意できたとしても、修理用の素材がどうしても輸入だよりになる。採算が合うか分からんから、もう少し様子を見てからだな」
一口に船の修理素材といっても最先端の技術で作られている浮遊船を直すための素材は、かなりの種類が存在している。
勿論今の中継島でもいざという時のためのそざいを用意はしているが、技師が存在していないので応急処置くらいしか対処することができない。
ただこうした問題も、ライフバート王国との提携でもしかしたら解決するかもしれないと期待している。
とはいっても浮遊島に来る船は今のところそこまで多くは無いので、技師が来てくれるかどうかは未知数なところはあるため期待しすぎないようにはしているのだが。
「なるほどなあ。そうなると俺が狙うべきは船の修理用素材か?」
「いや。まずは塩がいい。他と違ってストックがあるわけじゃないからな」
「それはまた。言いたいことは理解するが、お前を知らない他の奴に言ったら殴られているかもしれないぞ」
「だろうな。俺も兄さんだからこんな気楽に言っているんだ。それに、できる限り塩が欲しいというのは紛れもなく事実だからな」
お互いに苦笑交じりになって行われている会話だったが、これにはきちんとした理由がある。
海がないこの世界で塩を入手するには当然ながら浮遊している岩や島から岩塩を手に入れなければならない。
ただこの話だけを聞くと人が生きて行くうえで必須の塩を入手することが非常に困難だと思われがちだが、探索者にとっては真逆の話になる。
というのも探索者が見つける素材の五割は岩塩だと冗談交じりに語られるように、浮遊している岩や島から手に入る割合の多くが塩だからだ。
五割というのは笑い話にするために多少誇張が入っている数字だが、ほとんどの浮遊物に岩塩が含まれている。
だからこそ探索者に向かって『塩を取って来てくれ』と依頼することは、場合によっては『お前は初心者だろう』と言われているのに等しいと取られることさえある。
ルーカスはお互いにそうした事情をよく知っている上で依頼をしているので、アーロンも苦笑だけで済ませている。
それに今まで自前の船が無かったことも理解しているので、まずは塩が欲しいと言われるのもある程度は想像していたことでもあった。
「塩が欲しいというのは理解した。だが他を捨ててこいというわけではないのだろう? 島なんかを見つけたらどうするんだ。曳航する手段はあるのか?」
「初手から自前で引っ張れないくらいの大きさのものを見つけてくれたら万々歳だな。それに心配しなくても引っ張る手段は確保している。心置きなく仕事をしてくれ」
「そうか。詳しくは聞かないが、お前がそう言うなら思う存分、仕事に取り掛かるとしよう」
ルーカスにとれる手段は、当然のように浮遊球にあるのだがそれを言葉にすることはしなかった。
今のところルーカスは各国の指導者たちと同じように、浮遊球の存在を明らかにするつもりはない。
何が何でも隠し通すつもりではないにしても、オーバーテクノロジーの塊である浮遊球の存在は、使いようによっては世界の脅威として見られかねない。
どのくらいの存在が浮遊球のことを知っているのかは分からないが、今はまだ明らかにできる状況ではないとルーカスは考えていた。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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