(14)良い兆し?

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 リチャード国王との会話を終えたルーカスは、寮にある自分の部屋に戻った。

 国王との会話は特に隠すようなこともないので、ほぼ本音に近いことを話している。

 ここでガルドボーデン王国に睨まれると中継島の命運が尽きるからということもあるが、個人的にリチャード国王のことを好ましい為政者だと感じているからこそだ。

 あちらは隠し事の一つや二つもしているとも考えているが、そのくらいのことでへそを曲げるつもりはない。

 これでもし中継島を奪うような真似をすればその意見もすぐに変わるとは思うが、そんなことはしないだろうというのがルーカスの考えだった。

 出会った当初からすれば随分と警戒度も緩んで行っているが、ずっと疑い続けるのも気力を使うので今の状態がルーカスにとってはちょうどいいということもある。

 一番信じるべきは浮遊球の管理者たちであることを譲るつもりはないのだが、今はまだ自分たちだけでやれるわけではないので誰かに頼るしかない。

 結果としてリチャード国王を一番に置いておくのは、今の浮遊島にとっては必要なことだろう。

 

 そんなことを考えながら部屋に入ると、リビングにあるテーブルで藤花が珍しく眉を顰めながら書類を見ていた。

「――珍しいね。何か面倒事でも起こった?」

「あ。マスター、すみません。気付きませんでした。ちょっと島で問題……というか想定外のことが起こりまして、どう扱ったものかと」

「想定外……? 藤花のことだから緊急事態だったらすぐに来ただろうし、そこまで慌てるようなことではないんだよな?」

「まあ、そうですね。時間を置けば解決するようなこととは言えますが、逆に拗らせる要因になる気もしています」

 何とも言えないような顔になって報告をしてくる藤花を見て、ルーカスもどういうことかと首を傾げた。

 

「拗らせる……? ちょっと意味が分からないんだけれど?」

「すみません。そうですよね。ですが、私からどうこう言うよりもこちらを見ていただいた方がよろしいと思います」


 そう言いながら直前まで見ていた書面をそのままルーカスへと渡した藤花。

 首を傾げつつそれを受け取ったルーカスは、すぐに目を通し始めた。

 そしてそこに書かれている内容を確認したルーカスは、藤花が何故戸惑っていたのかを察したのと同時にクツクツと笑い出した。

 この内容なら何故藤花がすぐに知らせに来なかったのかも納得できた。

 

 ルーカスは改めてその書面に目を通したが、当たり前のように何度見てもその内容が変わることはなかった。

「管理者の一人に告白した住人がいる……ねえ。一応断ったみたいだけれど、これはどうなるのかな? 藤花はどう思う?」

「どうと言われましても。正直なところ全く考えていなかった事態でして、どうしたらいいものかと……」

「この報告の文面を見てもそんな感じを受けるな。管理者って恋愛はしない――わけではないか」


 つい先ごろ藤花から告白もどきをされたルーカスなので、すぐにその可能性は否定した。

 藤花自身はその言葉を聞こえなかったフリをしているので、ルーカスも敢えてそれ以上話を広げることはしなかった。

 それよりも先に、気になることを続けて聞くことにした。

 

「俺としては別に問題はないと思うけれど、管理者が人と付き合ったら駄目とかあるのか?」

「いえ、特にそういう決まりがあるわけではないです。ただ恋愛感情を抱くかといわれると……」

「うーん。まあ、いいか。これは当人同士の感情任せでいいんじゃないか? 変にこちらから規制する話でもなさそうだ」

「そうですね。それで良いと思います。いずれ時間が解決するでしょう。告白を受けた側は、相手側に今のところそういう感情はなさそうですが」

「だな。一応言っておくけれど、ちゃんと身は守っていいからな。恋愛となると変に拗らせて無理やり、ということもあり得るからな」


 この世界にストーカーという言葉がないことは知っているルーカスだが、付きまといのようなことがないわけではない。

『魔物のくせに』と理由をつけて迫って来る可能性もあり得るので、しっかりと断った上で身を守ることが前提になる。

 もっとも今回告白を受けた管理者は男なので、相手からどうこうされる可能性は低いだろう。

 ただし知り合いの男性を複数人連れてきて――なんてことまで考えるのは先走りし過ぎかとルーカスは頭の中で反省した。

 

「――まあ、いいか。別に成就しようがしまいが、こっちは気にしないから好きにするといい」

「よろしいのですか? こちらにとっては都合が良いと思いますが?」

「さっきも言った通り、こっちが強制するようなことじゃないからいいよ。今の段階で政略、恋愛? 婚約? ――なんかさせても意味がなさすぎるしな。させるつもりもないけれど」


 島の規模が小さすぎるので、政略的に繋がりを作ったとしてもあまり意味があるとはルーカスは感じていない。

 むしろそれよりは、自然発生的に恋愛させたほうがよほど噂になるだろうし、その噂が広まるのが早いだろう。

 ちなみにルーカス自体は政略結婚はさせるつもりはないが、『絶対ダメ!』というほどに否定派というわけでもない。

 

「ただまあ。これは俺から言うようなことじゃないと思うけれど。多種族と付き合うってのは本当に色々とあると思うから、ちゃんと考えた方がいいな」

「それは……そうでしょうね。私は、マスターが随分と詳しいことに驚いていますが」

「それはほら。俺がというか、以前の俺が、ということになるのかな。こっちみたいに多種族がいる世界じゃなかったが、人種が違うというだけで色々あった世界だから。俺自身は関係なかったが、色々と情報は入ってきていたぞ」

「そうなのですか。こちらでは多種族同士の婚姻もあるようですが、実際のところはどうなんでしょうか」

「さてな。俺もそこまで詳しくはないが、最終的には本人たち次第じゃないか?」

「そうなりますか。中々難しいものですね」


 恋心という一時の感情に乗ってむずび付いた結果、後にとんでもないことになる。

 勿論その逆パターンもあるわけで、ルーカスの言った通り結局のところ当人たち次第としか言いようがない。

 そもそも結婚に関する価値観がルーカスの生きていた過去の世界とは違っているので、恋愛に関することをすべてを知っているわけではない。

 周囲にいる者としては、できる限り添い遂げて欲しいと願うことしかできない。

 

「下手にこっちから口を出すと拗らせる場合もあるからな。やっぱり黙って見守ることしかできないな」

「はい。皆にもそう伝えておきます。……相談に乗ることは?」

「それは当然やってあげるべきだろう。話を聞いてもらえるだけでもありがたく感じるだろうから」

「畏まりました。皆にはそのように伝えておきます」


 困った時にはきちんと相談に乗らないと、当事者たちが追いつめられてしまうこともありえる。

 そうならないためにはちゃんと話は聞いているという姿勢をとらないと、とんでもない結果を引き起こす可能性もある。

 ――なんてことを考えているルーカスだが、変な知識だけ知り過ぎているという自覚はある。

 馬に蹴られる事にはならないように、節度を持って見守ることが周りに出来ることになる。

 

 ルーカスからすれば魔族に告白をした勇者が現れたのは良いことだとは思うが、これから先は色々な試練が待っているとも思う。

 そもそも告白を受けるかどうかも分からない状態なので、変に周りが口出しはしないようにと繰り返するーかすだった。




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m(__)m

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