(13)国の在り方

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 バルド国王が配下の者と話を進めていたその頃。

 その対象であるルーカスは、リチャード国王と話をしていた。

「――ふむ。その顔を見るとうまく行ったようだな」

「お陰さまでどうにかなりました。これでまた島が発展してくれるようになります」

「それはよかった。だがこれで、外部から色々と言われる材料がまた増えたな」

「そこはどうしようもありません。島の規模が大きくなって行くほどに、どうしても言われるでしょうから」

「確かにな。大きくせねば文句を言われるだろうし、しなかったらしなかったでそれも言われるであろうからな」

「はい。どうせ文句を言われるのであれば、無理のない程度に発展させていくつもりです」


 将来のことは分からないが、今現在の考え方を語ったルーカスにリチャード国王は「そうか」とだけ返した。

 大きな国を統治しているリチャード国王から見れば、ルーカスがやっていることはお遊びに見え……なくもない。

 ただ時に態度が大きいと誤解されそうな言動をするルーカスだが、島に対するアプローチは意外に慎重に見える。

 周りからすればそれがのんびりしているようにも見える要因になっていて、焦らされているという意見も一部で出て来るほどだ。

 

 もっともルーカスに言わせれば、一年も経っていないような新しい島に次から次へと住人を増やしても、トラブルの元にしかならないだろうとなる。

 元の世界にあったゲームでもあるまいし、人口だけが増えて行って素直にその住人たちが言うことを聞いてくれるわけではない。

 他国から集めれば人を増やすこと自体はできても、簡単に裏切るような人材ばかりが集まっても仕方ない。

 そうした諸々の事情からルーカスが慎重に動くのは当然だといえる。

 

「余とは根本が違っているからどうこう言うつもりはない。そなたはそなたの好きなようにやればよい」

「ありがとうございます。ですが、ここまで順調に行けているのは、ガルドボーデン王国のバックアップがあるからです」

「……分かっていると思うが、ここで我が国を持ちあげても出来ることと出来ないことはあるからな」

「勿論分かっております。こちらも無理な要求をするつもりはありませんし、下手に遜るつもりもありません」


 持ち上げたと思えばしっかりと釘を刺してきたルーカスに、リチャード国王もそれでこそだという様子で頷いた。

 今でこそお互いに信頼関係を築いている二人で踏み込んだ会話をしているが、始まりは探り探りの関係だった。

 それもこれもリチャード国王が一国の王としてはあり得ない態度で接してくれたからといことは、ルーカスもきちんと理解している。

 ルーカスがここまで自由にガルドボーデン王国で動けているのは、間違いなくリチャード国王の存在があるからだ。

 

「それでよい。一方的な関係は将来に必ず禍根を残す。少なくとも今の状況で動くべきではない」

「そう言っていただけるとありがたいですが、そろそろ刈り取るべきだと主張する方もいらっしゃるのではありませんか?」

「何、いるにしてもそこまで強い発言ではない。今回ライフバート王国が加わったことで、さらに大人しくなるはずだ。ルーカスの思惑通りだな」

「その思惑を知った上で敢えて見逃した方に言われても、あまり嬉しくはありません」

「余など大したことはしていない。そなたが動いたからこそ、今がある。あまり大きくなりすぎると困ったことになるであろうが、そこは今から心配していても仕方あるまい」

「おや。珍しく本音をぶっちゃけましたね。やはり大きくなりすぎるのは危険ですか」

「余が、というよりは周りが騒ぎ立てるようになるであろうな。余にはできるかどうかわからぬが、やるなら隠れて大きくしていったほうが良いであろう」


 今のところガルドボーデン王国内で浮遊島の存在が騒がれていないのは、いつでも潰せるという余裕があるからだ。

 これで王国と同じ規模の軍事力を持つような行動をとれば、間違いなく迅速に叩き潰すようにという声が大きくなっていくだろう。

 ルーカスとしては、そうなる前に経済的な繋がりで『潰されない』ための立場を手に入れたいし、そうなるように動いているつもりだ。

 もっとも王国と対抗できるほどに大きくするかはまだ決めていないのだが。

 

「――どちらかといえば土地を大きくするよりも、今のように自由に移動できるような土地になればいいですかね」

「そんなことが、できるのか? できるのであれば周辺から頼られる存在にはなるであろうが……いや。考えてみれば、ハリュワードはそこを目指した可能性があるか」

「確かにあり得そうですね。今となっては大きな島を持ちすぎているようですが」

「土地を持ちすぎて、自由に動かせるようにはなっていないようだからな。あそこはうちと同じく管理者との繋がりが切れているからということもあるのだろうがな」

「そうですね。管理者との疎通ができなければ、島を自由に移動させることは不可能です。どう考えると、先ほど言ったあり方になるのは難しいでしょうか」

「さてな。未だに繋がりが切れていないライフバート王国のような例もある。やり方によっては大丈夫ではないか? いや、一度失敗している国の代表が言えることではないか」


 自戒を込めて言ったリチャード国王に対して、ルーカスは具体的に言葉を返すことはしなかった。

 ガルドボーデン王国内での魔族の認識は、ルーカスが動いたお陰で一般(平民)の人ほど忌避感がないことが分かって来ていた。

 管理者が悪い意味での魔族として扱われるようになったのは、多分に政治的な影響があったからで、それは今でも変わっていない。

 古い貴族ほど眉をしかめる者が多くなってくるのだから、リチャード国王がため息を吐きたくなるのは仕方がないことだろう。

 

 もともとは魔族が浮遊球の管理を一手に担っていることから危険視をされた結果が今の状態なわけで、貴族たちがそういう感情を持つことも分からないわけではない。

 ただ星獣の王種の管理と同じように、浮遊球の管理もまた魔族である管理者しか扱うことが出来ない。

 こればかりはどうすることもできない現実で、管理者しか口出しができないのであれば浮遊球に閉じ込めておくだけにするという選択肢も分からないわけではない。

 ただしこれ以上の発展が無理だということに目を瞑ることができれば――の話だが。

 

「馬の目の前にぶら下げられた人参と揶揄されることがあるが、それは人にこそ当てはまる言葉なのだろうな」

「ですがだからこそ発展できるという側面があります。そこを否定してしまえば、今となんら変わることがない歴史が繰り返されるだけになってしまう。それで良いと言う人もいるでしょうが、ほとんどの人はそうは思わないでしょう」

「今よりも良い暮らしを――ということか。一人一人にとっては小さな野望かも知れぬが、それが集まると度し難い結果になってしまうのは人の性ということか」

「さて、それはどうでしょうか。人は魔物と違い一人だけで生きて行くことは不可能です。集団の欲望を暴走させないようにすることが為政者としての役目なのかもしれません」


 ルーカスの妙に達観したような感想に、リチャード国王は一瞬驚いたような表情になって「そうか」とだけ短く返した。

 リチャード国王は、ルーカスが過去に違う世界で生きて来た記憶を持っていることを理解している。

 そのため見た目の年齢ではなく、もしかすると自分よりも長く生きた記憶があるのかもしれないという認識があった。

 その上で今の言葉を聞いたので、どこかで年長者の言葉を聞くことができたと納得できた部分があったのだ。




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