(12)ライフバート王国側の感想

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 ルーカスとの話し合いを終えて、多少の張りつめた空気が消えたライフバート王国の大使館の一室にて。

 バルド国王が侍女が出した飲み物を一口飲んでから誰に言うでもなく呟いた。

「――傑物が現れた……ということか?」

「それを判断するのはまだ早いかと。確かにあの年齢にしては――とは言えますが、それが続くかは未知数です」

「フッ。確かにな。とはいえ、今でも十分にやり合えるということは分かった。決して油断は出来ぬな」

「当然です。だからこその『マスター』なのですから」

 バルド国王と部屋の片隅で話を聞いていたドルのやり取りに、管理者のアーネが少し誇らしげに口を挟んできた。

 今の言葉を聞いただけでも管理者が浮遊球のマスターを大事にしているということはわかる。

 

 とはいえマスターが対立した上での浮遊球同士の戦いもあるので、管理者にとってまずは自身の浮遊球のマスターが第一であることには違いない。

 それに管理者はただの歯車ではなく感情もきちんと持ち合わせているので、マスターに対して好き嫌いは発生する。

 それを加味してもルーカスの有り様はアーネにとって敬意を払う存在だということなのだろう。

 裏を話せば浮遊球を得た瞬間に傍若無人になるマスターがいるという例を知っているだけに、『普通』のままでいるルーカスのことを好ましいと感じることも不思議ではなかったりする。

 

「ふむ。一度その辺りのことを詳しく聞きたいところだが、無理なのだろうな」

「さて。無理かどうかは子らの行動次第でしょう。……ということを幼少のことから口酸っぱく聞かされていると思いますが?」

「やれやれ。幾つになってもそなたたちには叶わぬな。儂はドワーフとしてもそろそろ老人と言っていいのだが」

「何を言っているのですか。小さいころから見て来たのですからいつまでも変わりようがありませんよ」


 何度も繰り返されている会話なのか、微笑みながら言うアーネに対してバルド国王は肩をすくめるだけで応えていた。

 バルドは国王であるがゆえに後継の子供も当然のように存在しているので、子供の成長を見守る親の心境も理解している。

 だからこそ、ここで下手に反論しても意味がないことは理解できている。

 親にとっていくら子供が成長しようが、子供は子供なのだ。

 

「……まあ、よい。それよりも話を戻すぞ。あちらからの提案は問題ないな?」

「はい。国内にとどまらず、新天地で動きたいという者もいるので問題は無いでしょう。どこにとっても有難い話になるかと」

「てっきり港の利用権とそれに付随する護衛に関する話になると思っていたのだがな。いの一番に話して来たのが技術者の移転になるとは思わなかった」

「あそこは小さな島だけがあるので、資源的に産業を育てるのは難しいと判断してのことでした。完全にこちらの予想を上回ってきましたね」

「確かにな。もしかすると浮遊島の持ち主だからこそできる裏技でもあるのかもしれないが……」

「私を見ても答えることは出来ませんよ」


 バルド国王が浮遊球の管理者であるアーネに視線を向けたが、その当人はただただ笑顔になりながら答えになっていない答えを返した。

 未だに管理者と繋がりがあるライフバート王国であっても、ルーカスのようなマスターと呼ばれる存在とは明確な違いがあるということだ。

 

「やれやれ。まあ、良いか。ここで文句を言っても仕方あるまい。それよりもこちら側の準備はどれほどでできそうだ?」

「本国に戻ってからでないと分からない部分もありますが、二月ほどもあれば移住者自体も決めることが出来るでしょう」

「思ったよりも早いな。厳選しなくとも良いのか?」

「できればしたいところですが、無理でしょう。自ら国を出てもいいと考える者たちです。そもそもこちらの言うことを聞くとは思えません」

「……確かにそれもそうか。技術の流出は出来れば避けたいところだが、そこは間違うなよ?」

「当然です。ルーカス殿もそこまでの質は期待していないようでしたので、しっかりと選ばせていただきます」


 ルーカスが提案してきた技術者は、家を建てる建築者や生活用品を用意するための鍛冶師でそこまで技術力のいる技術者ではなかった。

 浮遊島にはそうした道具類を用意する技術者はおらず基本的には外部からの輸入で賄っていたので、できれば自前で用意できるようにしたいという理由だった。

 勿論それ以外のことも考えているであろうことはライフバート王国側も理解はしているが、その程度の技術者であれば国内にいくらでもいる。

 下手をすれば他の仕事をしながら鍛冶師を続けているような者も存在しているので、専業になると言えば喜んで他の島に移住を希望する者はいるはずだ。

 あとは大工系の技術者だが、こちらはそもそも国家の防衛的に隠すような技術があるわけではないので特に問題は無い。

 バルド国王と会話している文官が言ったとおりに募集を掛ければ希望者は一定数出るはずなので、そこから吟味をすればよい。

 ライフバート王国としても、その程度の人材を出すだけでルーカスの浮遊島と繋がりが持てるのであれば反対は起きないだろうという目算だった。

 

「一応言っておくが、余計なひも付きを送り込もうとするなよ。やるだけ無駄だということは分かっているだろうがな」

「そこは皆も承知の上でしょう。アークラ家のこともありますから」


 ガルドボーデン王国にあるアークラ家は、実はライフバート王国にいたドワーフから分家した一族だという話がある。

 アークラ家自体はその話に否定も肯定もしていないが、ライフバート王国の中ではそれが当たり前のように語られていた。

 そのことからアークラ家はライフバート王国内を除けば、もっとも国外で発展した一族だと認識されている。

 そうした認識があることから、特に若く技術を身につけたドワーフの中には外に自らの未来を見出す者も少なくはない。

 通常国外に人材を送り出す際にはスパイ的な働きを期待することも多いのだが、こうした背景もあってライフバート王国から技術者のドワーフを送り出した場合にはそれを期待することは難しい。

 アークラ家を見ても分かる通り、その土地に根付いて技術の発展に寄与することこそ一族にとって大事だという考え方が一般的に受け入れられているのである。

 

「よし。基本方針はそれでいいか。人材の放出については、浮遊島が利用できるようになるということで説得できるであろう」

「文句を言うのは貴族の方々だけでしょう」

「それを言うな。さすがに貴族が国外に出て行くのはどちらの国にとっても良いことではないからな。……浮遊島を国と呼んでいいかは微妙なところだがな」

「そうですね。ルーカス殿もそのことはしっかりと認識されているようで、変に気が大きくなっていないところもポイントでしょうか」

「だろうな。あれは他の国にも好まれるのではないか? ハリュワードは違うようだが」

 

 ハリュワード王国の行いについては、既にライフバート王国にも伝わっている。

 ハリュワード王国も対外的には国家としての関与を否定しているが、まともにその言葉を信じている周辺各国はいないだろう。

 もっともそれと同じくらいにガルドボーデン王国の自作自演ではないかという噂も立っていて、どこの誰が流している噂であるのかまで特定されている。

 それでも各国それぞれの立場があるため、どちらの側に付くのかは政治的な目算もあって様々だ。

 どちらかといえば、この程度のやり取りなど頻繁に起こるので『またか』と流されて直接関わらないようにしている国家や組織のほうが多いくらいだった。

 

 ライフバート王国としても基本的に触れるべからずの態度を取ってはいるが、どちらかと問われればガルドボーデン王国の側に付くだろう。

 そうでなければ今の秩序が壊れるということを、国王をはじめとした政治に関わる大多数が理解しているのである。




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