(11)技術的な話

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 バルド国王との話し合いは、場所を移して三時間後には再開していた。

 最初に出た議案は、ルーカスが話し合いの場を用意していたライフバート王国が欲しているとある技術についてだった。


「――では、早速ですが恐らく一番気になっているであろう『刀』のことについて話しましょうか」

「よいのか? てっきり色々と条件を出してくるのかと考えていたのだが?」

「構いませんよ。もともとこの場を作るために用意したことですから。話を聞いて適当だと思われる価値で判断してください」

「何というか。儂らもよく言われるが、もう少し交渉というものをした方がいいのではないか?」

「確かに駆け引きを好む方もいらっしゃいますが、あなた方は違うと考えてのことです。もし不快だと思われるのでしたらしばらく話を続けましょうか」

「いや、済まない。折角こちらの流儀に合わせてくれたのだからこのまま続けよう。もっともそなたも同じように見えるがな」


 ガハハと相変わらず豪快な笑い方をするバルド国王を見て、ルーカスはやはり間違っていなかったと内心で安堵していた。

 エルッキを見ていても分かることだが、ドワーフがざっくばらんな性格をしているということはこちらの世界でも良く言われている。

 個人差があるので絶対ではないのだが、国王を相手にして間違えるわけにもいかず前の時のやり取りと合わせてもまだ多少の緊張は残っている。

 

「そうですか。事前に言っておきますが、私が知っていることはあくまでも素人の詰め込み知識だけということだけをご理解ください」

「詰め込み知識か。そなたは職人ではなかったということか?」

「そうなります。そもそも刀というよりも刀剣自体が武器として使われることがほとんどなくなっていた世界でしたから」

「……それはまた、凄まじいな。争い自体が無かったというわけではないのだろう?」


 二人ともルーカスに『前世の記憶』があることを前提にして話を進めているが、王城内で話をしていた時に確認を取っていたからだ。

 リチャード国王が認識していた事実だけにバルド国王も知っているだろうとルーカスが話を振ったところ、ごく当たり前のように知っているという答えが返ってきた。

 知識の偏りはそれぞれの国で存在していても、共通の認識があるのはやはり国家同士での繋がりがあるからだろう。

 もっともその『当たり前』が本当である保証は無いのだが、少数の範囲で共有している分には問題はないとルーカスは考えていた。

 

「残念ながら『勿論です』という答えになってしまいますね。まあ、そのこと自体は関係の無い話ですので今は話を元に戻します」

「ふむ。気になる話ではあるが……確かに関係の無い話ではあるな。出来ることなら対価を払ってでも聞きたい気もするが」

「ハハ。それはまた別の機会に。今は刀についてです」

「そうであったな。では早速話を聞こうか」


 やや強引に話を元に戻したルーカスだったが、バルド国王もそこには触れずに若干前のめりになって話を聞く態勢になった。

 ここまで一国の王が刀についてのめり込むのは、ライフバート王国――というよりもドワーフ全体の目標として刀を作り上げるということがあるためだ。

 十二歳の時に行われる儀式の際に送られる『贈りもの』の中には、武具といった道具も含まれている。

 そうした道具は『神器』として扱われているのだが、それらの神器の中に刀が存在していた。

 

 当初はどうやって作られていることかも分からない状態だったのだが、ガルドボーデン王国の初代国王が登場した時にある程度の概念は広まったそうだ。

 ただ初代国王が伝えたことはあくまでもイメージに関してだけで、具体的な製造方法についてはほとんど分からなかった。

 それでも初代国王から伝わった話を元にして、どうにか刀を再現しようと試行錯誤を繰り返してきた……のだが、結果は惨敗。

 刀の研究を続けている間に様々な新しい技術も生まれていることから全てが無駄というわけではないとしても、やはり刀そのものを作り上げたいという欲求はドワーフたちの中に在り続けていた。

 

 ルーカスがエルッキから詳しく聞いた話だと、初代国王である伊藤蒼汰氏が伝えていたのは日本人男性なら誰もが持っているであろうイメージ程度の話で具体的なことは伝えることが出来なかったと推測していた。

 それに対してルーカス(の元の人)は、刀自体に興味があったのか、一般の人が知っていることよりも多くの知識を持っていた。

 とはいえ職人ではなくただの知識オタクだっただけの人なので、実際に作ってみることなどできない。

 それでも言葉で伝えられることは伝えようとこうしてコンタクトを取ったというわけだ。

 ……どうせならあちらの世界で憧れていたあの刀を、実際にこの手にしてみたいからなどと考えたからだけではない。

 

 というわけで、ルーカスが刀について話を始めるとバルド国王も興味深げに話を聞いていた。

「――なるほど。砂鉄を原料にしていたわけだ。品質の高い鉱石こそ必要だとしていた根本が間違っていたというわけか」

「私は知識を知っているだけの素人なので断言はできません。ですが砂鉄がそもそもの始まりだということは間違いなく断言できます。ただ、精錬技術が進んだかつての私がいた世界でも、刀鍛冶は玉鋼から作ることを基本にしていたようです」

「なるほどな。まずは砂鉄をどうやって精錬していくか。そこから考えなければならないな。……そもそも砂鉄を見つけることから始めなければならないが」

「まとまった量を採取すること自体が難しいですからね。案外、昔の方々もそれがあったから触れてこなかったのかもしれません」

「それはあるだろうな。それに、砂鉄以外にも中々興味深い話が聞けた。その話を元に色々と試してみることも必要だろう」

 ルーカスとしてはこれでいいのかという内容も含まれてはいたものの、バルド国王としては満足できるないようだったようだ。

 勿論話を聞いただけで完全再現ができるわけでもないのだが、完全手探りの状態よりははるかにましという状況なのだろう。

 

「そう言っていただけるとありがたいです。あくまでも参考程度と考えていただけると良いのですが……」

「ハッハッハ。そなたは慎重だな。心配しなくとも、これで上手くいかなかったからといって逆恨みなどせんよ。儂をこの場に呼び出すために利用したのだとしてもな」

「いえ、それは……。まさか、国王自ら来るとは考えていなかっただけなのですが」

「随分と正直者だな、そなたは。黙っていればいいだけのことを。まあ、良い。そういう率直なところは嫌いではないからな」


 そう言って再び豪快に笑ったバルド国王は、本当に気にしていないようだった。

 予想以上の大物が釣れたことで多少気後れしているところもあるが、どうにかこちらが考えていた最低限の思惑はしっかりと達成できそうだと安堵している。

 折角の機会なので、ルーカスは浮遊島について現在考えていることをすべてを話すことにした。

 バルド国王の性格からいって下手に駆け引きをするよりも、最初にルーカスにとっての目標をぶっちゃけたほうがいいだろうと考えてのことだ。

 

 そのルーカスのことを気に入ったのかは分からないが、バルド国王もかなり真剣に話を聞いていた。

 結果としてトントン拍子に話は進んで行ったので、ルーカスとしては最大限の成果を得ることが出来た。

 ただしいくら王政を取っているからといっても、全てをバルド国王一人で決めることが出来るわけではない。

 あとのことは一度話を持ち帰ってから決めるということで、バルド国王との会談は終わった。




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