(10)初対面

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 浮遊島が新たに入港制限解放するという噂が立ってから半月ほどが経っていた。

 この時には相手がガルドボーデン王国ではなく、ライフバート王国になるということも確定情報として流れていた。

 ただルーカス自身はあくまでも交渉の段階であって、まだ正式に決まったわけではないと言っている。

 ルーカスに近しい者たちはその言葉通りに受け取っていたが、ルーカスから離れれば離れるものほど様々な推測を立てて動いていた。

 勿論ルーカスもある程度それらの情報を手に入れてはいたが、特に何かをしたということはない。

 ライフバート王国との交渉すら始まっていないので、周囲でいくら何を言われようがされようがルーカス自身が動くことは出来なかったためだ。

 そもそもライフバート王国との交渉は、浮遊島に関することがメインではなくとある情報に価値をつけてもらうことが主な目的になっている。

 アークラ子爵家を通じて渡した手紙にもしっかりとそのことを書いておいたので、ライフバート王国がどこまでの価値を見出すかは出たとこ勝負というところもあった。

 

「――その、つもりだったんですがね。何故、わざわざあなた様が出てきたのでしょうか?」

「ハッハッハ。実に率直でいいな! 儂もそっちの方が好みだ。これからもその調子で頼むぞ!」

「それはこちらとしても有難いのですが、よろしいのですか?」


 そう答えながらもルーカスの視線は、話相手のドワーフの右側に座って厳つめな表情を浮かべている別のドワーフを見た。

 場所がガルドボーデン王国の王城ということもあってそこまで重装備をつけているわけではないが、見えている腕の太さと鋭い目つきが歴戦の勇士であることを示している。

 それもそのはずで、ルーカスの話相手の護衛役として付いているそのドワーフは近衛騎士団の団長であり、ルーカスが話している相手こそライフバート王国のバルド国王だった。

 

「構わん構わん。ガルドボーデンではどうか分からないが、我が国はそこまで堅苦しい作法もないからな。それに、儂が良いと言っているのだから誰も反対はせんよ」

「それは有難いのですが、そちらのお方の視線は厳しいままですが?」

「おお。こいつは普段からこんな感じだ。お主のことも、睨みつけているわけではない。近衛という職柄仕方ないのであろうが、もう少し硬さが取れればいいのだがな」

「そうですか。それなら王の仰る通りに気にしないようにしておきます。それに、まさかライフバート王国の『方』まで来るとは考えておりませんでしたよ」


 そう言ったルーカスの視線の先には、紫髪と赤い目という藤花と全く同じ特徴を持った男性が座っている。

 彼はその見た目通り魔族の一人で、ライフバート王国の浮遊球を管理している管理者であることを示していた。

 この場に彼が来ているだけでライフバート王国がまだ管理者との繋がりを残値していることを示しているが、まさがこの場に来るとは思ってもいなかった。

 まさかこの時点で表舞台に出て来るとはという考えもあるが、それ以上にガルドボーデン王国内に知られるような行動を取るをするとは微塵も考えてなかったためだ。

 ライフバート王国が未だに領土の拡大を続けていることから魔族(管理者)との繋がりが切れていないのではないかとリチャード国王と話をしたことはあったが、まさかあちらから姿を現すとはと皆が考えているだろう。

 特にガルドボーデン王国にとっては寝耳に水のことだったと思われる。


 そのことも予想しているはずのその男性は、涼しい顔をしたままルーカスに答えた。

「そこまで驚くほどのことではないでしょう。今この時代に現役となる『マスター』が現れた。この世界のどこかには他にもいるかもしれませんが、私どもが把握している限りではルーカス様が久方ぶりです。ご挨拶に伺うのは当然のことです」

「……そこまで魔族の皆さまにとって『私』の存在が重要だとは思っていませんでした」

「おや。言っていなかったのですか?」


 ライフバート王国の魔族であるアーネは、心底以外だという顔をしてルーカスの隣に座っている藤花に視線を向けた。

 その視線を向けられた藤花は、アーネは表情を変えることなく淡々と答えた。

 

「ガルドボーデン王国の現状ですと、そこまでお教えするとマスター自身の身の危険に及ぶ可能性があります」

「……なるほど。確かにその可能性はありましたか。バルド、その辺のことは頼みましたよ」

「分かった分かった。全く。面倒なことは全て儂に押し付けるのだからな。そなたらもこれ以上余計なことはこの場では話すな。今の話が伝わるとしてもリチャードだけだろうから構わぬだろう」

「そうですね。では、そのように」


 明らかにこの場での会話が盗聴されていることを前提にして行われているやり取りに、ルーカスも思わず苦笑してしまった。

 ルーカスもそのつもりで会話をしてはいたが、ここまで明け透けに言葉にするとは思っていなかったのだ。

 そして今までのやり取りを見ただけでもバルド国王がざっくばらんな会話を好んでいるということがわかる。

 

「とはいえこのままでは話が進まないか。ルーカス、この後の予定はどうなっておる? もう一度儂のために時間を作ってはくれるか?」

「元から話し合いが長引くことを予想して空けておきましたが、何かございましたか?」

「何。大したことではない。防諜の魔道具を利用しようと思ってな。ただ他国故いきなり使うわけにはいかないからな。しかるべき手続きをするのに多少時間がかかるだけだ」


 バルド国王は簡単に「多少」と言っているが、普通はそんな簡単に取れるような許可ではない。

 もっともライフバート王国は当然のように今いるガルドボーデン王国の王都に大使館のような場所があるので、複雑な手続きをしなくてもいいというのは本当のことだろう。

 もし王城内での魔道具利用が許可されなかったとしても、その大使館に向かえばいいだけだからだ。

 

「もし手間がかかるようであれば、ライフバート王国の大使館へと向かってもよろしいですよ?」

「……いいのか? 出来ればそうしてもらえると助かるが。そなたにも立場があるであろう?」

「そう仰っていただけるのは助かりますが、心配はいりませんよ。もしかするとリチャード国王もそちらの方が助かると言うかもしれませんね」

「確かに。奴ならそう言ってもおかしくはないな。問題はそなたにあったが、そなた自身がそう言うのであればそうさせてもらおうか。そちらの方が手間が少ないことには違いない。


 もしこのまま王城内での魔道具使用の許可を求めれば、どこかからガルドボーデン王国のことを疑っているのかという意見が出て来るのは間違いない。

 そうなると対処するのはライフバート王国側ではなくガルドボーデン王国になるので、リチャード国王の手間が減るのは間違いない。

 そもそもバルド国王が確信を持って盗聴していると言っていることも、どちらかといえば内に向けてきちんと対応はしていたと言い訳をするための側面が強い。

 この辺りはどこの国でも似たようなことになるので、今更怒ったりするようなことではないのだ。

 

 だったら最初から大使館で話をすればよかったではないかという意見も出るだろうが、それはそもそも根本を間違えている。

 いきなりライフバート王国の大使館に行くということは、ルーカスにとっては少し大げさにいえば敵国に向かうようなことだからだ。

 話す相手が誰になるのかも分かっていなかった状況では、そんな環境に乗り込む気にはならない。

 だが国王と管理者が同時に来たうえに、両者の態度を見れば、大使館で話し合いを続けるということにルーカスも異存はなかった。




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m(__)m

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