(9)広がる噂

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 中継港への突撃事件が無事に終わってから数日後には、学校が通常モードに戻っていた。

 ルーカスも島では色々あったものの学校自体はいつもと変わらない日常を送……るつもりだったのだが、若干いつもとは違う環境へと置かれることになっていた。

 そのことを察して、エルッキが少し困ったような顔になって近づいてきた」


「ルーカス、大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない」

「なんだ、それは? 大丈夫なことはわかったが」

 記憶の奥底にあったネタを放り込んだルーカスだったが、当然のようにエルッキには通じず首を傾げられてしまった。

「気にするな。ちょっとしたおふざけだ。それよりも今のこの状況だろ? 俺はまあ、こうなることも考えていたからいいが、エルッキの方は大丈夫か?」

「ワイは問題ない。ワイ自身を経由しているとはいえ、直接は関係ないからな」


 苦笑しながら答えるエルッキにもある程度の視線は集まってきているが、ルーカスほどではない。

 それらの視線がいつもとは違う状況を送る結果になっているわけで、それでもルーカスは気にすることなく自分の席に座っていた。

 

 ここまで注目されることになっているルーカスは、その理由をしっかりと把握している。

 島での騒ぎがあってからエルッキを通して『次』に向けて動いていたことが表に出て来たためだ。

 勿論表に話が出ることを見越して動いていたのでそのこと自体は全く問題は無いのだが、学校生活にここまで影響を及ぼすとは考えていなかった。

 その点は甘かったとルーカスも、内心では反省している。

 ただし逆にいえば、わざわざ表に話が出るように仕向けたことがうまく行っているという証拠でもあるため、ほくそ笑んでもいる。

 

「だったらいいさ。どうせ俺に聞いても事態は大きく変わらないからな。今は相手の返事待ちだからそれが来るまでは、何を聞かれても答えは出せないさ」

「それならいいが……ルーカスは、相手が乗って来ると思っているんだろう? 自信満々だし」

「そんなつもりはない、と言いたいけれど、ほぼ間違いなく乗って来るだろうなあ。というかエルッキもそう考えているんだろう?」

「ルーカスが提案したが本当のことならな。これで乗って来なければ技術者は名乗れないさ」

 

 肩をすくめながら答えるエルッキに、ルーカスも意味ありげな顔になりつつ「だろ?」と答えた。

 言葉を濁しまくりの会話なのに、周囲が聞き耳を立てていることは丸わかりだ。

 ルーカスとエルッキもそれを咎めることなく会話を続けているので、無作法を咎める者は誰もいなかった。

 

 聞き耳を立てているということは、二人の会話の内容が気になっていることは間違いない。

 ルーカスの様子を見ていても聞けば答えが返ってきそうな雰囲気があったので、そのうちに質問が飛び交うような一歩手前の状態になりかけていた。

 実際にそうなるとルーカスが困ったことになるのは目に見えているので、ここで登場したのがクラス内でもヒエラルキーがトップ層に位置しているカイルだった。

 

「ルーカス。君の目的は理解できるが、もう少し気を付けた方がいいと思うよ?」

「分かっているさ。でも、一度口にしてしまったら止められないだろう。少なくともクラスメイトなら自重してくれると考えたんだ」

「それは理解するけれどね。それで皆の代わりになってしまうけれど、質問してもいいのかい?」

「分かっていて聞いているんだろう? 答えられることしか答えないが、それでもいいなら構わないぞ」

「勿論、無理やりに聞こうなんて思わないよ。皆もそれでいいだろう?」


 聞き耳を立てている周囲に問いかけるカイルだったが、返ってきたのは沈黙だった。

 もっとも普段はガヤガヤと会話が行われているクラス内が静まり返っているだけで答えになっているといっても過言ではない。

 

「――だってさ。それで、噂ではライフバート王国にアプローチをかけているって話だけれど、それは本当なのかい?」

「そうだな。アプローチというと間違った方向で考えられそうだが、それ自体は間違っていないな。向こうから話が来ていたことも事実だぞ」

「今回それが実ったわけか。それで何故、今なんだい?」

「何故と言われても、それこそ準備が整ったからとしか言いようがないな。タイミング的にちょうどよかったしな」


 暗に島への特攻事件のことを示唆したルーカスに、カイルは納得した様子で頷いていた。

 突撃事件の話はさほど広まっているわけではないのだが、それでもルーカスの周囲にいる者たちはきちんと情報が集まっているのか、ある程度のことは知っている状態になっている。

 そもそもクラスメイトという他と比べて圧倒的有利な立場にいるだけに、親やら周囲からの期待もあるためだ。

 それだけ新しく出来た島から得られる恩恵は大きいということがわかる。

 

「なるほどね。だったら何故わざわざ他国へ? この国だって入港したがっている者たちは多いだろう?」

「分かっていて聞いているだろう? まあ、いいか。多分予想していると思うけれど、単純にバランスを取っているだけだ。一つの国に絞るとやっかみが増えるだろうからな」

「やっぱりそう答えるか。たださっきの会話を聞いていると、別の理由もありそうだよね。わざわざアークラ子爵家を通していることも気になるしね」

「そこは秘密かな。相手側も関係していることだしな。それにまだ確証があるわけじゃない」


 さらに踏み込んで聞いてきたカイルに、ルーカスは肩をすくめながらそう答えた。

 先ほどの言葉通りに答えられないことは答えなかった形にはなるが、カイルも特に不満そうな表情は浮かべていない。

 何かの材料を持ってライフバート王国と交渉をしているのは当然だし、それを事前に明らかにすれば交渉自体無くなってしまうこともあり得る。

 それを隠すのは当然だし、ここで無理をして聞いたとしても、必ずしもガルドボーデン王国にとっていいことに繋がるわけではない。

 そもそもカイルを始めとしたこのクラスにいる子供よりも、ルーカスの周りにいる大人たちがそのことを考えないはずがない。

 周りにいる大人が政治の『せ』の字すら知らないような者たちばかりならともかく、王族をはじめとしてトップクラスの人材が関わっているのだから揃って見逃しているということはない。

 

「それならいいか。それでも納得しない人は聞きに来るんじゃないかい?」

「カロリーナ王女がいるクラスにか? 全くないわけじゃないだろうけれど、さすがにそんな勇者はいないと思うぞ?」

「そこで王女を盾にするんだ。その役目を期待されているところがあるのは知っているけれど……ね」

「まあ、半分冗談だよ。心配しなくてもそんな奴が来る前に決着がつくんじゃないかと考えているさ。掛かっても数日といったところだろうな」


 ライフバート王国に提案した内容が伝われば、間違いなく食いついて来るとルーカスは考えている。

 それだけ価値のあるものを出すことが出来ていると確信しているし、そもそもアークラ子爵本人からも大丈夫だろうとお墨付きを得ている。

 その内容を公表するかどうかは相手方に任せているので、あとは数日後に行われるであろう会談の際に細かいことが決まるはずだ。

 

 ルーカスがライフバート王国を引っ張り出すために用意したタネは、現在のこの世界ではルーカスしか知らないはずのことなのでそれまでに解決してしまう心配もない。

 今回のことで手を打ってくれたアークラ子爵にもルーカスが用意した『答え』は伝えていないので、あとはどの程度の権限を持っている者が来るかだけが今のルーカスの心配ごとなのであった。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る