(8)国王への報告

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 ガルドボーデン王国の王城にある国王の執務室で、リチャード国王がハリュワード王国の貴族入港に関する報告を受けていた。


「何事もなく――とは言えないが、特に大きな騒ぎを起こすことともなく帰ったか。どこまで計画を立てていたかはわからぬが、最初から計画していた範囲内であったか?」

「どうでしょうか。どの程度のことまでを想定していたかはわかりかねますが、最低限の知りたいところは知れたといったところでしょう」

「中継島自体の防衛体制と我が国の連携具合を知れたことであるか。確かに必要な情報ではあるだろうが、直接的すぎる気もするな。今回使われた戦力は、外から見ていてもわかる程度であろう?」

「確かにそうですが、実際に動くことが出来るかどうかは見てみないと分からない――といったところでしょう」

「張りぼてではないことが知れたということか。それはこちらにとっても利がある事なのだがな」

「その通りです。見せかけだけの戦力ではないと周囲に知らしめたのは、こちらとしても抑止力として効果がある事でした」


 抑止力の効果を直接得たのは浮遊島側ではあるが、王国としても間接的には効果があったとみている。

 今回援助として出した騎士団は王家の私兵で国軍ではなかったが、それでも即応できるだけの準備があることは示すことができた。

 浮遊島の存在はすでに王国にとってもかなりの利が出ることは分かっているので、簡単に他国に奪われるわけにはいかない。

 そのことを考えれば、他国に対して牽制できるだけの戦力があることを示すことができたのは大きい。

 

「こちらが利を得ることが出来たのはいいが、やはり腑に落ちんな。何かを狙っていたのかは気になるところではある」

「それですが……一つお耳に入れておきたい話があります」

「ほう。聞こうか」

「はい。浮遊島に近づいてきた船の中に、ライド家の者がいたかもしれないと」

「……重要な情報ではないか。曖昧な言い方ということは、正確には確認が取れていないのだな?」

「はい。通常の迷い船として帰った船員の中にいたそうですから。確認した者も邂逅したのはほんの少しの間のことで、当初は見間違いかと考えていたとのことでした」

「普通に考えてライド家の人間がそんな場所にいるはずがないから仕方あるまい。むしろ気付いたことの方を褒めねばなるまい」


 ハリュワード王国のライド家といえば、多くの宰相を輩出している上級貴族になる。

 ハリュワード王国ではガルドボーデン王国のような貴族の呼び名があるわけではなく、上級、中級、下級と非常に単純な区別がされている。

 とはいっても実情としてはより細かく区分けがされているようだが、独特な文化も相まって他国の者が明確に理解することは難しい。

 勿論ガルドボーデン王国をはじめとして多くの国家が理解しようと色々探りを入れているのだが、あまり進んでいないというのが実態だった。

 そもそも一つの国家の文化が絡んだことで、しかも一家族にまで及ぶような関係を完全に把握することなど不可能に近い。

 その影響で時としてガラリと貴族の中身が変わることもあるのだから、お手上げ状態になるのも無理はない。

 

「――それにしてもライド家か。無理に島を取ったとしても維持できると考えているのか、あるいはライバルを減らそうとしているのか。いずれにしても碌でもなさそうではあるな」

「それ以外にも理由はありそうだという献策が幾つか上がっております。後程まとめたものをお持ちいたします」

「そうしてくれ。何にしてもハリュワード王国が本気で動こうとしているのか、ライド家の先走りなのか、見極めねばなるまい」

「かの国は家単位の力が我が国よりも強いです。先走りであったとしても、国としてはライド家に口出しすることは無いと思われます」

「あの国は我が国から見れば一国として纏まっているのか怪しいところがあるからな。あれでよく国として活動できていると不思議に思うぞ」

「それでも長い歴史があることは紛れもなく事実です。決して侮ることはできません」

「分かっておる。そもそも各地に散らばる島が本土を落しづらくしているのだからな。良く考えられていると感心するほどだ。わが国には合わない統治であるがな」


 ハリュワード王国がそれぞれの島を分割して統治するようになった経緯は、あまり詳しく語られていない。

 かつて初代の時に反乱を企てた貴族がいてそれを遠くに切り離したからという理由がもっともらしく語られているが、それが本当の理由かどうかはハリュワード王国自体も分かっていないためだ。

 反乱を企てたならさっさと切り離せばいいだけなので、理由としては弱すぎるということからも否定される要因の一つとなっている。

 

「まあよい。かの国の統治が良く分からないのは、今に始まったことではあるまい。これからどう付き合っていくのかが重要であろう」

「仰る通りです。ライド家への探りはいかがいたしますか?」

「出来る限りで良い。あそこはよそ者を見る目が厳しいからな。下手に探りを入れて警戒されるよりは、放置の方がまだ扱いやすいだろう」

「畏まりました。ハリュワード側に付いては以上です。何かお聞きになりたいことはございますか?」

「いや。特にないな。そして、ハリュワードとわざわざ言ったということは、中継島に関しても何かあったのか?」

「はい。正確にいえば、中継島に関する我が国の動きといったところでしょうか」

「それもあったな。詳しく話を聞こうか」


 今回の騒ぎで動きがあったのは何もハリュワード王国だけではなく、ガルドボーデン王国内でも様々な思惑が動いている。

 今のところ中継港の利用権があるのは王家とホルスト伯爵家の二つだけだ。

 その利用権の拡大に伴う権益に食い込もうと各貴族家がそれぞれの立場にあってお互いに探り合っている状態だった。

 もっとも中継港を上手く利用できるのは独自の船を持っている貴族家に限られるので、全ての貴族が関わっているというわけでもない。

 

「今一番多い声は、港の拡大をもっと早めるようにというものでしょうか。船の出入りできる数が増えれば、それだけ自分たちにも食い込める余地があると」

「その程度の動きは以前から考えられていたことだな。他には?」

「そうですね。新たな動きとしては、商人たちが動き始めたことでしょうか。繋がりのある貴族家を利用して食い込もうとする動きがみられるようです」

「なるほどな。ハリュワード王国が直接動いたことで、自分たちにも利が出ると考え始めたか。そのくらいなら通常の商取引であると言い訳もできる……か」

「もし必要なら規制することもできますが?」

「必要あるまい。今ここで規制をすると、元の商売に影響を及ぼす可能性がある。それに今は島の安定に励んでいるあのルーカスが、有象無象の言葉を聞くことはあるまい」

「そのことですが、どうやらその少年が新たに利用権を発行するつもりがあると噂になっているようです」

「……それは聞いておらんな。新たな港の建設をしていたことは知っているが、目途がついたのか」

「港に出入りしている船乗りからの話によれば、以前から発着できる港は出来ていたようです。どうも人員不足で稼働できていなかったようです」


 浮遊島が人員不足であることは、リチャード国王も良く知っている。

 その人員不足が解消されれば、確かに港の利用権を拡大することは可能になる。

 問題はその噂がどこから広まっているのかということだが、こうしてで国王の耳に入るということはしっかりとした裏付けがあるということだ。

 その裏付けが誰であるのかすぐに検討が付いたリチャード国王は、とある少年の顔を思い浮かべるのであった。




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