(7)過去と未来の話

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「――んで? その後はどうなったんだ? 残りの二隻の船と人員は王都に来ていた貴族が引き取って行ったと聞いたが?」

「それで間違っていない。王国側はもっと騒ぎになると予想していたんだが、意外にあっさりと引いたと感想を漏らしていたな」


 一隻の船の特攻から一週間が経ったある日、ルーカスはとある探索者の訪問を受けていた。

 目の前に座って話をしているその男こそ、例の特攻船をほとんど損害なく拿捕することに成功したヨエルだった。

 二十代半ばを過ぎたこの男は、見事にルーカスが期待した通りの働きをして見せてくれた。

 何とかその功績に報いたいところではあるが、何分まだまだ島の運営も軌道に乗るかどうかといったところなので、あまりいい報酬を渡せないことがルーカスとしては心苦しい所だったりする。

 もっとも現地で島の状況を目の当たりにしているヨエルは、さほど臨時収入には期待していないようだった。

 ヨエルのように船団を運営している者がもっとも気にするのは、船団員たちへの報酬が支払えるかどうかで島から安定した報酬を得られることの方が大事だったりする。

 安定した報酬という意味ではそれなりの報酬を支払っているので、あまり特別報酬には期待していないといったところだろう。

 

「うーむ。なんだかなあ……。奴らは何をやりたかったんだ? 俺らから見てもお粗末すぎだぞ。ルーカスも理解しているだろうが」

「そうだな。心配しなくても王国側もそう見ているさ。その上でどう見ているかといえば、恐らくこちらの体制を確認したかったんじゃないか、だと」

「言いたいことは分かるが……。船一隻を犠牲にしてまで知りたかった結果か? 正直、誰にでも出来るようなことしかしていないぞ?」

「その『誰にでもできること』が出来るかどうかを知りたかったのじゃないかだと。早い話があの島が舐められていたというだけのことだ」

「それはまた。気持ちは分からなくはないが、どちらかといえば俺が舐められていたということでもあるか?」

「というか、そもそもヨエル兄が護衛についているという情報も無かったんじゃないか? 王国の役人たちもいまいちわかっていなかったみたいだしな」

「あ~。それがあったか。尋問していた時も、そんな感じだったしな。だが、無防備に島に近づいてきたのはどうかと思うぞ。いくら確認するためとはいえ、警戒しなさすぎだろう」


 特攻してきた船の対応はヨエルから見てもお粗末すぎだったようで、困惑したように首を傾げていた。

 そもそも探索者の中でも戦闘組として知られているヨエルは、ハリュワード王国の探索者とも一部交流がある。

 そうした交流の中でも決してレベルが低いというわけもなく、敵対したことのことを考えて警戒もしている。

 それにも関わらず今回の件が起こったので、どうしたことかと疑問に思うのは当然だろう。

 

「一番考えやすいのは、敢えてそういう奴らを用意したってことだな。早い話が使い捨てだ」

「それは分かるが、そんなのがまともに船を動かせるか? 一応あの場所まで目指してきたんだろう。識別標もなしに」

「だからこそ他の二隻もいたんじゃないか? 特攻してきた時には、必要な人材は回収してな」

「……あり得なくはない、か。俺たちが尋問した時はそこまで確認できなかったしな。つくづくもう少し遅く来て欲しかったと思うぜ」

「いや。今回はあれでちょうどよかったさ。王国との連携がどの程度かも見せておきたかったしな。……王国といっても王家の私兵騎士団だったが」

「そこも引っかかるな。他の奴らは動かなかったのか? あまりに出遅れると旨みが少なくなっていくだろうに」

「それはあまり貴族たちは責められないな。そもそも島が利用できているのは王家だけだ。最近ようやくホルスト家が入ってきたが、それも十分ではないからな」


 ガルドボーデン王国からの援軍が少なかったのは、そもそも中継島が受け入れている船が限定されているからという理由もある。

 ここぞとばかりに助けに入って港の利用権をせびるというやり方もあるが、それをするためには何はともあれ情報が必要になる。

 一番情報を持っている王家が出し渋っている状況では、他家の助けが入ることを期待するのは間違っている。

 そもそも中継島自体が入港制限をしている側なので、ルーカスとしてもあまり他家のことをどうこう言うつもりはない。

 むしろ『只より高い物はない』ではないが、この時点で一目散に駆けつけて来たほうが怪しさ満載だと受け取るだろう。

 

「なるほど。旨みが少なすぎるから国軍自体を動かすことも難しいというわけか。別に属州扱いしているわけでもないしな」

「そういうことだ。それに、そもそも勘違いされているんだが、属州化もこっちの都合だけじゃないぞ。王国側への配慮もある」

「王国に対しての配慮? なんだそら」

「簡単な話だ。将来中継島が王国よりも大きくなった時にどうなると思う? リチャード国王だってそれが頭の中にあるからこそ、属国や属州扱いにしていないんだと思う」

「……それはまた。言いたいことは理解できるが、そもそもそんなことは可能なのか?」

「出来る可能性があるからこそ、ガルドボーデン王国は今の勢力を誇れているんだろう」


 ルーカスが暗に初代国王のことを暗に匂わせることで、ヨエルも納得した表情になった。

 ガルドボーデン王国が現在でも周辺各国の中でも上から数えたほうが早い国土を持てているのは、初代国王が領土拡大に成功したからだ。

 そのためには島を維持するエネルギーを作り出す王種を増やすことだけではなく、そもそも周辺に漂う島々を多く手に入れなければならない。

 ガルドボーデン王国で初代国王が未だに敬意の念を持たれているのは、国を作ったからということだけではなく、数々の実績による恩恵を王国にもたらしたからだ。

 その初代国王と同じような力を得ているルーカスが、初代と同じようなことが出来るはずだとリチャード国王が考えるのは自然なことだろう。

 実際に口に出すと初代国王に対する不敬だと言われる可能性があるので、決して口にすることはないだろうが。

 

「――それは、俺ごときが口を出していい問題じゃなさそうだな。それならそれでいいさ。それじゃあ話は変わるが、まだ港の拡大はしないのか? 島の中はかなり盛り上がっているが」

「話は聞いているよ。いい感じに根付いて来ているそうだな。まだ一年経ってないのにな」

「そもそもがこっちでうまく行っていなかった奴らだからな。農家の奴らからして以前よりも良い生活が出来ているんだ。期待されても当然だろう?」

「そこまで確認してくれているのか。さすがヨエル兄」

「こら。ここで俺を持ちあげても仕方ないだろう。それよりも将来の俺の給料アップのためにも島には大きくなってもらいたいんだがな」

「ハハハ。それもさすがヨエル兄だ。まあ、真面目な話をするとして、実は今回の件のお陰でどうにか筋道は立てられたと考えているよ」


 ルーカスが意味ありげに笑いながらそう言うこと、ヨエルは一瞬何か言いたげな表情になってそれ以上を深く聞いて来ることはなかった。

 島の拡大をするということは間違いなく政治的な話が絡んでくるはずで、一介の探索者が聞いていい話だとは思わなかったのだ。

 ルーカスもヨエルがその判断ができる相手だから話したのだし、表に出していいことだけしか口にしていない。

 

 ルーカスがこの場面で島の拡張について話をしたということは、今口にした内容はある程度まで広めてもいいということもヨエルは理解している。

 それなら誰に話を持っていくべきか、涼し気な顔をしているルーカスを見ながらヨエルはそんなことを考えるのであった。




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