(6)先走り

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「――三隻の船のうち一隻が特攻してきた?」

「はい。こちらの警告を完全に無視して接近。島の防衛設備により帆を破られている間に、護衛船が近づいて来て拿捕されたそうです」

「……一応確認するけれど、船員の上陸は?」

「ありません。島に防衛設備があると考えていなかったのかはわかりませんが、矢と魔法の連続攻撃がされている間は浮足立っていたそうです」

「…………何がやりたかったんだ……」


 藤花からの報告を聞いていたルーカスは、敵方のあまりの情けない様子に盛大にため息をついていた。

 迷い船が近づいてきた時から色々と対策を練って来たが、その対応を無駄だったと笑われるような結果に力が抜けていた。

 

「聞き取り調査を進めてはいるようですが、どうやら突っ込んできた船の独断のようです。一応慎重に聞いてはいるようですが」

「独断ね。船長か誰かは分からないけれど、どちらにしても馬鹿としか言いようがないな。それはともかく、まとめ役が敢えて見逃した可能性もあるから気を付けてね。言うまでもないだろうけれど」

「はい。それは現地も警戒しているようです。どういう繋がりかはわかりませんが、一応仲間が捕まっているのにほとんど動きを見せていないようですから」

「それはまた。臨時の船団だったのか、それぞれ独自に動いていたのか……言うことを聞かないからと敢えて突っ込ませたことも考えられるか」


 臨時で組まれた船団であれば、内部で主導権争いが起きていてもおかしくはない。

 もしそうなら駄目だという仲間(仮)の言うことを無視して突っ込んでくる輩がいたとしても不思議ではないだろう。

 そうはいってもルーカスの感覚からすれば、『馬鹿』の一言で済ませてしまうような事態であることには違いない。

 もしかすると島の防衛体制を確認する目的もあった可能性も否定はできないが、簡単に聞いた限りでは知られても問題ない――というよりもあって当然の設備しか使われていないようだった。

 

「――まあいいや。ここで馬鹿の行動を考えていても仕方ない。聞き取りでできる限りのことを聞けることに期待するしか……って、待てよ。もしかしてその調査って島でやってる?」

「いえ。護衛船の船長がそれだと問題だろうと仰って、舩の中で行われています」

「おお。ナイス。さすがヨエル兄の部下だけのことはある……もしかして当人がいた?」

「どうやらその通りのようです。たまたまスケジュールに組み込まれていたそうです」

「それはまた。よりによってヨエル兄がいるときにね。それはあっさりと拿捕されるわけだ」


 ヨエルは五隻からなる船団の団長を務めている探索者で、普段は護衛や戦闘依頼を主に行っている。

 以前はエルモの部下だった男で、ルーカスも幼いころから縁があり、今回も島の護衛をしてもらうようにお願いをしていた。

 そのヨエルがいるというのであれば、突貫してきた船のひどさと合わさってあっさり事が終わったというのも納得できる。

 

「ヨエル兄にはあとでお礼をしておかないとな。それはいいとして、話を聞いた限りでは船自体には大した損害は与えていないみたいだけれど、どうなんだ?」

「取り急ぎの話だったのでそこまで詳しくは聞いていませんが、恐らくマスターが考えている通りの損害で済んでいるようです。接収してから使いまわすことは可能なようですよ」

「それは有難い。王国との話し合い次第だけれど、騎士団が到着する前のことだから恐らくこっちのものに出来るはずだ」

「大丈夫なのですか? 後から船は返せと言ってきたりすると思うのですが」

「それは無くは無いけれどな。事前通告はしっかりしているうえでの行動だから問題ない。所属国の通告を無視して突っ込んできたら敵認定されるのは当たり前だからな」


 自然風の影響で動かざるを得なかったと言い訳したとしても、それは自分たちの腕が未熟だったと言っているようなことになる。

 そもそも停止命令を出している時点で風で動くという言い訳は通用しないので、言い訳にもなっていないのだが。

 それでもこうした場面では時として持ち出される理由にはなるのだが、今回は他の二隻が動いていないので問題には出来ない。

 

「そもそもヨエル兄のことだから、しっかりと風の状況は確認しているだろうさ。加えて動いたのは一隻だけ。抗議してくるにしても、やれるだけのことはやったという建前に使われるだけだろう」

「確かにその通りですね。それにしてもマスターが船に詳しくて良かったです。変に折れる必要が無くなりますから」

「必要なら折れることもあるけれどな。今回はそんな必要がないってだけだ。どちらにしても一度は話をする必要があるな」

「今から伺いますか?」

「いや。それはいいんじゃないか? あと数時間もすれば騎士団が着くだろうし、詳しくはそっちからするだろう。こんなことがあったという事実だけ報告するだけでいいと思う。その上で呼ばれたら行くだけだな」

「畏まりました。駐在員にもそのように伝えておきます。他に伝えておくことはありますか?」

「うーん……。無いかな。王国との本格的な話し合いは、騎士団が戻ってからになるだろうしな」


 ルーカスとしては拿捕した船が欲しいところだが、それに関してはちゃんとした話し合いの場が持たれることになるだろう。

 もっともエルアルドの対応を見ている限りでは、そこまで深い議論をすることなく手に入れることは出来るのではとルーカスは感じている。

 何かの根拠があるわけではないが、これまでの付き合いで何となくの感覚でそう感じている。

 

 今回の突撃に関しては、あくまでも島の傍で起こったことで王国は直接は関係していない。

 これが騎士団がいるときに起こったならすぐにでも話をしに行っただろうが、それほど緊急の事態だとは考えていなかった。

 もしここで王国を頼ってしまうと周囲から王国の一領土だとみられる可能性も高くなる。

 何を今更と思われるかもしれないが、そうした建前は国家を運営していくうえではどうしても必要になる。

 

「明日になれば状況も変わって来るだろうから、多分呼び出しもあるんじゃないか? 例の貴族のこともあるだろうしな」

「ハリュワード王国の貴族ですか。この件で何か口出しをしてくる可能性もあるのではありませんか?」

「あったとしても問題ないよ。これで相手側の責任が問われないようであれば、今ある秩序が崩れるからな。他の国も含めて探索者ギルドから抗議が来るだろうな」

「探索者ギルドが動きますか。確かにそれは迂闊に口出しは出来ないですね」

「そういうこと。――おっと。探索者ギルドには報告しないといけないか。ヨエル兄がするだろうけれど、一応こっちでも言っておかないとな」


 探索者ギルドには、各地から情報を集めることが出来る遠距離通信の魔道具が備え付けられている。

 そんな便利な道具が何故ギルドにあるのかといえば、かつて儀式によって『贈り物』を得た人が作り出したと言われている。

 真偽のほどは分からないが、探索者ギルドから見放されれると探索者が寄り付かなくなってしまうことは間違いない。

 陸繋がりになっていない分、ルーカスが知っている創作物の中にあるギルドよりも権限は低いが、それでも探索者がいなくなることのデメリットはかなり大きい。

 そのため探索者ギルドが打ち出しているルールは、各国家も簡単には覆すことができなくなっている。

 今回の件もそれに該当すると分かっているため、ルーカスもあまり心配はしていないのである。




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m(__)m

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