(4)王家の話し合い

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 ルーカスとの話し合いを終えたエルアルド王子は、少し時を置いてからリチャード国王と父が待つ部屋へと向かっていた。

 少し時間が空いたのは、エルアルド王子よりも忙しい二人の時間が空くのを待っていたためだ。

 三人だけの会話は久しぶりのことで、エルアルドも少しばかり緊張していた。

 

「――というわけで、懸念していたハリュワード王国の貴族が動く……かもしれないということでした」

「ふむ、なるほど。すぐに知らせてくれたのはさすがと言うべきか。ルーカスも気を付けるべきことは分かっているようで何よりだ」

「ですが父上。我々も黙って見ているわけにはいかないのでは?」

「言いたいことは分かる。だがルーカスが言っていたように、今の段階で何ができる? 件の貴族が何を言ってきてもいいように、心づもりをしておくことくらいしかできまい」

「ただの観光で来ているわけではないことは分かっておりましたが、浮遊島にまでちょっかいを出すつもりだとは」

「かの国としては、浮遊島の存在を放っておくことなどできないのであろう。あれの強みは各地に点在している島の存在だからな」


 ハリュワード王国は、こちらの世界でも非常に珍しい領土運営をしている。

 他の国々が一つの大きな島を持って運営をしているのに対して、ハリュワード王国では国土を複数の島に分けて統治している。

 それだと反乱されやすいなど多くの問題を抱えることになりかねないが、各領土の自治権を他の国に比べて大きくすることによってその問題をある程度解消している。

 一つ一つの島はガルドボーデン王国のそれよりも小さいが、全ての島の土地を合わせると周辺各国の中で一番の広さを持っていると言われている。

 土地の大きさはそのまま国力に換算されていて、あまり具体的な数値を公表することはないので、ハリュワード王国がどれほどの島を抱えているのか知っている他国はいない。

 

 浮遊球のことを含めた裏の事情を鑑みれば、それらの島々を運用していくために多くのエネルギーを使用していることは間違いない。

 島を一つにまとめるよりも無駄に使っているとも取れなくはないが、国外の周辺領域に出て素材を得なければならないというこの世界特有の在り方を考えれば、合理的な統治手段ともいえる。

 もっとも各島々の自治権を強くしているがために、それぞれの領主が独自に動きすぎるという問題も出て来る。

 場合によっては各領主で私掠船のような船を用意して海賊行為を行っていることもあるので、王家の権威が他の国と比べて低く見られることもある。

 

「まあ、他国の思惑は良い。問題は我が国がどうするかということであろう」

「そうですな。王家としては既に船を送り込むことで意思を示しました。あとは他の貴族たちがどう行動するか」

「軍閥はほぼ王家寄りでまとまるだろう。彼らは飛び地の存在の重要性を理解しておるからな。それに島をことの重要性もだ」

「たとえ島の位置を本当の傍に調整し続けたとしても、いずれは崩れ去ってしまうというアレですか。今の貴族でその意味を理解できているものはどれほどいるのか……」


 浮遊世界ターフにおいて国土の拡大が出来ないのは、土地そのものが崩れ落ちてしまうからということがある。

 浮遊球の存在を知っている者からすれば、土地を維持している存在がないと駄目からという理由がすぐに思い浮かぶのだが多くの者たちはそのことを知らない。

 そのため遠くにある島を回収するだけで、国土を広げることが出来ると勘違いしているものも多くいる。

 ただし探索者たちが発見した島を回収する任務を担っている騎士団は、そのことをしっかりと理解している。

 何しろ本土まで島を移動するときに、ぽろぽろと土地が崩れ落ちていくのを見ているためだ。

 不思議なことに本来『あるべき場所』から移動した島は、長いこと維持することが難しいということを実体験として知っているわけだ。

 

「うむ。とにかくルーカスの存在は、我が国にとっては最重要な位置にあることだけは動かしようのない事実だ。それはたとえ我が国に魔族が戻ってきたとしても変わらないであろう」

「魔族が戻っても、ですか。一応推測できますが、理由を伺っても?」

「構わない。ルーカスはこちらを信用してガルドボーデンの魔族との間に立ってくれた。その信用を無下にしたこちらの言い分を聞き続けてくれるとは思わん。過去に裏切ったという実績がある以上はな」

「どこまでも過去の行いが引っ張りますね。ですがご先祖のことを責めることはできません。今のこの状況になっていなければ、私でも同じことをした可能性がありますので」

「それは余も同じであろう。国の利益のために、浮遊球を自在に操れるようにする――目の前にそのようなエサをぶら下げられれば、追い求めたくもなる。その結果が今の状況なのだから笑えぬがな」

「その通りです。私やエドの代では大丈夫でしょうが、そこから先がいささか心配になります」

「今の我々に出来ることは、過去の教訓としてしっかりと伝えていくことであろう。浮遊球の存在はできる限り隠しておきたいので、どこまで正確に伝えられるかには不安が残るがやるしかないであろう」


 祖父王と父の会話を黙って聞いていたエルアルドだったが、気持ちとしては二人とほとんど同じであった。

 過去の一族の者には何をしてくれたんだという気持ちがある一方で、まだ生まれてきていない我が子やそれに続く一族の者たちには愚かなことはしてほしくはないと願っている。

 とはいえ今は魔族との繋がりを強くすることのほうが重要だろう。ただしそれは祖父の仕事であって、自分の時には容易には壊れないような関係性になっていることが求められるはずだ。

 エルアルドは、そんなことを考えつつも祖父と父の会話に耳を傾けていた。

 

「思えばヒューマンというのはおかしな考え方を持っておりますね。自らの種族で手綱を握っていないと不安になって奪おうとするのに、同じ種族の誰かが握っていれば安心するという」

「それと同時に誰かが持っていれば、それをうらやんで手に入れようともするがな。だからこそ法による秩序が求められるのであろう?」

「確かに。とはいえ魔族を我が国の法で縛り付けるやり方は無茶といえます。どうにか貴族たちが納得できる方法を見つけなければなりません」

「ルーカスが連れている藤花を見れば、余らにとっても一般常識を持ち合わせていることは分かる。あとはそれを周囲に周知していくことのほうが先であろう」

「向こうに変わるように言うよりも先に、自らが変わることの方が先ですか」

「そうだ。でなければ信用も何もあるまい。……少し話が逸れすぎたな」


 魔族の問題は長い間に植え付けられてきた意識が浸透していることもあって、中々に根深い問題でもある。

 その問題の解決には長い時がかかるというのが、二人にとっての共通の認識だ。

 それよりも今は、間近に発生している問題に対処をすることの方が先決になる。

 ルーカスの身の回りに起こっている問題は、王家にとっても決して無視できるものではない。

 

 現状、ハリュワード王国が何を狙っているのかは具体的にはよくわかっていない。

 それでも王家がルーカスを守る意思を見せていることは、王国の貴族に対しては強烈なメッセージになるはずだ。

 その上でそれぞれの貴族がどう判断するかは分からないが、そもそも全貴族を一つの意思にすることなど不可能だ。

 政治は多数派にすることができるかどうかが重要なので、そのための細かい話し合いを進める三人であった。




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m(__)m

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