(3)お互いの立場
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ルーカスが細々とした用事を終わらせてからエルアルド王子の下へと向かうと、すぐに面会となった。
次々代の国王と目されている王子だけに決して暇というわけではないので、この対応の速さはルーカスでもいいのかと思うことはある。
それだけ王国側が浮遊島の存在を重要だと考えていることになる。
もっとも浮遊島があるお陰で新しく発見される島(素材)が増えているので、それだけの価値は提供できているとも考えてる。
ルーカスの年齢を考えるとエルアルド王子が対応するのは適切だと貴族たちも考えているようで、今のところ変な横やりが入るようなことにはなっていない。
ルーカスが用意された部屋で待っていると、ガチャリと扉を開けて王子が入ってきた。
「やあ。ついさっき分かれたばかりだが、何か起こったのかい?」
「話が早くて助かります。王子の下にもすぐに連絡が来るでしょうが、迷い船側で動きがありました」
ルーカスがそう前置きをしてから細かい話をすると、エルアルド王子は顎に手を当てて少しの間考え込んでいた。
「――なるほど。現地の騒ぎに乗じて、か。ありそうなパターンではあるが……浮遊島としてはどうするんだい?」
「どうもこうもありません。どさくさ紛れに上陸の事実を得ようとするなら、全力で阻止するだけです」
「そうなるだろうね。大きさはともかくとして、浮遊島は我が国が認めた存在だ。当然のように自衛する権利はある」
「そう言っていただけるとありがたいです。ですが、これでハリュワード王国に付け入る隙を与えることになりかねません」
「確かにこちらとしてはあり得ない理由付けをしてくる可能性はあるけれど、大した問題にはならないだろうね。ただ、我が国の貴族が騒ぎに乗じる可能性はあるかな」
ガルドボーデン王国内にも未だに浮遊島に関して、全面的に王国のものとすべきだと主張する貴族は存在している。
そんな主張をしている貴族たちが、今回の騒ぎに乗じて何を言ってくるか分からない。
とはいえ数自体は少ないためそこまで大事にはならないと考えているからこそ、エルアルド王子は落ち着いて話をしていた。
「あるとすれば『小さな島のために我が国の犠牲を出すわけにはいかない』という主張をするとかか。そうなれば騎士団を出すわけにはいかなくなるわけだからな」
「それは、ハリュワード王国が浮遊島に侵攻すると決めた場合でしょうが……。そこまでのことをあの大国がしてくるでしょうか?」
「大国には大国なりの見栄のようなものがあるからねえ。あったとしても複数部隊を出してくる程度で済ませるんじゃないかな」
「そうでしょうね。そうだとすればアレの能力を使って撃退するくらいのことは出来るでしょう」
「私は話に聞いているだけで具体的には知らないが、ルーカスがそう言うのであれば出来るのだろうね」
エルアルド王子は、既にリチャード国王から浮遊球の存在を聞いている。
だからこそルーカスもあっさりと浮遊球自体が持っている戦闘能力の一端を話した。
浮遊球がどこまでのことが出来るかは、代々の国王たちも既に失伝してしまっているので正確なところは知らないはずだ。
ルーカスも敢えて正確な情報は渡していないのだが、今くらいの情報であれば知られてしまっても構わないと考えている。
「私も細かいことまでは言いませんよ。聞いても困るでしょうから」
「確かにね。知ったら知ったで余計なことを考えそうだ。それに、ガルドボーデン王国はライフバート王国との付き合いもありますから」
「ライフバート王国か。確かにね。浮遊球の管理者である魔の者と今での付き合いが途切れていない王国だからね。色々なことを知っていそうではあるかな」
ガルドボーデン王国と近しい付き合いのある王国の中では、唯一ライフバート王国は未だに魔族との繋がりが切れていない。
浮遊球を得たと思われる初代はとうの昔に鬼籍に入ったとされているが、それでも繋がりを保ち続けている。
ライフバート王国は国を治めている国王がドワーフであることから、ヒューマンとはまた違った価値観で国が運営されている。
それが原因となっているかは不明だが、魔族と未だにある程度の友好度を保ち続けているというのは何かしらの秘密があるのではないかと思われていたりする。
もっともルーカスにいわせれば、余計な欲をかかずに浮遊球の管理者としての立場を認めればいいだけのことなのだが。
「――おっと。話が逸れてしまったね。今は迷い船の困ったちゃんの問題だったか。といっても出来ることはほとんど何もないんだけれど」
「そうですね。結局相手がどう動くかによってこちらの対応も変わってきますから。今はまだ相手が動こうとしているとだけ分かっていればいいでしょう」
「その通りだね。あとは、そうだね。我が国の騎士団が到着してから向こうがことを起こした場合だが……」
「その場合は既にガルドボーデン王国に権限が移っていますから、王国の法に従って処理をするので構いませんよ」
「いいのかい? 下手をすれば、というかほぼ間違いなく我が国の領域だと認めたと主張されることになるよ?」
「今はまだ従属的な立場にいるのは間違いありませんから構いませんよ。こちらからすれば、むしろ王国の戦力を当てに出来るということですから。だからといって貴族たちの関与まで認めているわけではありませんから」
ルーカスからすれば、小島を管理しているだけの立場で国を名乗ることなどおこがましいと考えている。
であればガルドボーデン王国の内政干渉さえ防げれば、属国だのといわれること自体何の問題もない。
むしろ利用しているのは、自分たちの方だと考えているくらいだ。
一応ガルドボーデン王国が騎士団を出している名目は、王国に所属している艦船を守るためとなっている。
もしその約束を違えて王国の領土だと主張されれば反発するだろうが、それさえ守ってくれれば言葉で何を言われても構わないという考えだ。
そもそもルーカス自身は藤花をはじめとした魔族の住処としての浮遊球を発展させるつもりはあるが、島自体を大きくしていくかはまだ決めていない。
ツクヨミとの付き合いも長くなって来て、これまでの行動を見ている限りではそこまで広い土地が必要だとも思えない。
流れで島を大きくしていく可能性があるため後々のことを考えてあまり弱い立場になるつもりもないが、いざとなれば島だけを切り捨ててガルドボーデン王国の浮遊球に任せてしまうことすら考えている。
「王国の戦力か……それもあまり当てには出来ないかな。今出ているのは、あくまでも王家の私兵という立場の者たちだからね」
「王家の私兵ということは、領兵扱いですか。なるほど。貴族たちに変な言質を与えないためですね」
「そうそう。これで国軍なんぞ使おうものなら、間違いなく領有を主張してくる者が出て来るからね。全く、国軍を自らのものだと勘違いしているものが多すぎる……おっと今の言葉は聞かなかったことにしてくれると嬉しいかな」
「分かっていますよ」
思わず口を突いて出てしまったという顔をするエルアルド王子だったが、半ばわざとだということはルーカスも理解している。
仮にも次々代の王として育てられているエルアルド王子が、こんな場面で失点を犯すような真似をするはずがない。
勿論ルーカスを友人として見てくれていることは理解しているし同じく思ってはいるが、それとこれとは話が別だ。
お互いの立場をしっかりと理解したうえで、今のようないい関係を続けられればいいとそれぞれが考えているのである。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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