(2)動き出す事態

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 エルアルド王子との話し合いを終えて寮に戻ったルーカスは、すぐに学校の図書室へと向かっていた。

 アルフに勧めるだけ進めておいて自分は何もしないわけにはいかないと考えたのと、純粋に置かれている魔法書に興味があったためだ。

 中央の学校の図書室は、学生でなければ読めない区域に置かれている本も揃っている。

 折角の機会なので、それらの本に目を通しておきたいという目的があった。

 どうせなら貸し出しをしてもらって寮でじっくり読みたいところではあったが、残念ながらそうした本は持ち出し禁止となっている。

 そもそも学生にしか公開していない本なのだから仕方ないと諦めて、幾つか気になる本を見つけ出してようやく席に落ち着いた時のこと。

 寮で待っていたはずの藤花が足早に近づいてきたことに気付いたルーカスは、嫌な予感と共にため息を吐いていた。

 このタイミングで藤花が焦るということは、どう考えても例の迷い船の件に違いないと察したからだ。

 

 藤花と視線が合った時点で気付いていることを知らせたルーカスは、仕方なしに持ってきた本を元の場所に戻して一度図書室から外に出た。

 図書室の中では静かにするというのはこちらの世界でも同じことなので、好き勝手に会話をするわけにはいかない。

 さらにいえば図書室自体が静かな空間なので、小声で話をしたとしても誰かに聞かれてしまう可能性もある。

 人目を気にしながらするような内容ではないと分かっていたので、あらかじめ人気のない場所にいた方が良いと考えたためでもある。

 

「――それで、何があった? 例の迷い込んできた船の件だよね?」

「その通りです。どうやらここにきて船の乗組員たちが騒ぎを起こしているそうです。なんでも『非人道的な扱いは止めろ』とのことです」

「非人道的ね。……そっちのパターンで来たか。どうせちゃんとした寝床で寝させろとか言ってきているんだろう?」

「そうです。きちんとした島があるのに、長期間空域に留め置くのはいかがなものかということらしいです」

「やれやれ。最初からタイミングを見計らっていたのかな。ここで、今ここの王都に来ている他国の貴族とやらが同じことを言い出せば完璧だろうな」

「はい。最初から仕組んでいたこでしたら間違いなく言い出すでしょう」


 もともと探索者というのは、長期間船に乗っていることが当たり前の職業になる。

 それなのに船の上に留め置くことが非人道的とはどういうことだとルーカスの感覚からすれば呆れるしかないが、見方によっては確かにずっと船の上に縛り付けているように見えるのも間違いではない。

 だからといってここで安易に島に上陸させようものなら、この件を例に今後も同じことをしてくるのは間違いないだろう。

 そもそも浮遊島に接舷できる船に上限を設けているのは、外部の人間を受け入れる環境整備が整っていないためだ。

 ここで迷い船の乗組員を受け入れたところで、ちゃんとした設備の整った場所に泊まれるわけではない。

 

「あちらさんがどの程度の速さで情報を受け取れるかによっても変わって来るか。とりあえず王子には連絡しておいたほうがいいだろう……いや。既に受け取っているかな?」

「どうでしょうか。未だ軍船が到着したという話は聞いておりませんから、情報が届いているかどうかは微妙でしょうか。いえ、島にいる住人から届いている可能性はありますか」

「定時連絡とかをする手段はありそうだよなあ。別に禁止していないからいいけれどな」

「隠すようなことはありませんからね。それはともかく、今は迷い船のことです。どうされますか?」

「どうもこうもないな。いくら騒ごうが島への上陸は無し。そもそも最初からこっちに来るように言っているんだろう? それを無視して居付いているのはあちらさんだ。上陸許可を出す理由にはならないな」

「畏まりました。そのように対応を続けます」


 迷い船の現在の立場は、空域で迷ってしまって浮遊島にまでたどり着いたというものだ。

 生きるのに必要な食料が無いということで、お金を貰いながらも支援はしっかりとしている。

 ついでにガルドボーデン王国の港にまで行けば、帰国するめども立つことまで案内している。

 それを無視して居ついているいるのは迷い船側なので、浮遊島側としては人道どうのと言われても『そうですか』としか言いようがない。

 

「あとは王子への連絡だが……面倒だからこっちから直接話しに行くか。手紙を書いている時間がもったいない」

「畏まりました。幸いこの件に関して話があればすぐに連絡がつくようになっているので、問題は無いでしょう」

「だな。受け取っておいてよかった王花褒章ってところか」

「はい。こういう時に顔パスできるのは有難いですね」


 初めの頃は受け取るのに迷っていた王花褒章だったが、今となっては有難いの一言になっている。

 連絡を密に取ることが出来るのと時間がかかるのでは、いざという時の対応力が段違いに変わって来るからだ。

 無いなら無いでどうにかなっていたかもしれないが、少なくとも今は有難く活用することができる。

 リチャード国王はこうなることを予想して渡していたわけではないだろうが、そうだとしてもルーカスとしては感謝の気持ちを持つのは当然だろう。

 

「――よし。それじゃあ、城にはこれから行くとして…………ああ。一つ言い忘れていたことがあったか」

「何でしょう?」

「前から言っているけれど、暴力を使って来るようであれば変に遠慮はしなくていいからな。それで誰かの命が無くなるようなことにでもなれば、お互いに引くに引けなくなる」

「よろしいのですか? それは相手にも同じことが言えると思うのですが?」

「こっちが抵抗しない方が相手に誤解を与えるよ。やるときにはやるという態度は示しておかないと。それに島に限らずどこの国に行っても、よそ者が力を振るえば即御用だからな」

「分かりました。改めてその方針を伝えておきます」


 以前藤花たちが魔族だからと勘違いした輩が出て来た際にはきちんと抵抗をするようにと言っていたルーカスだが、これも同じ理屈だ。

 どこの国であろうと余所から来た者が暴れれば、当然のようにその国の法に従って対処される。

 それについて文句がある場合は、それこそ国家間での話し合いということになるだろう。

 浮遊島は小さな島一つしかないが、暴力をただ黙って見過ごすことはなくきちんと主張すべきことは主張していくつもりだ。

 最悪の場合は、それこそ該当する国の関係者全ての出入りを禁止することになるだけのことだ。

 

「お願いね。それじゃあ俺は城に行くよ。藤花はどうする?」

「私もご一緒いたします。他の者は現地への対応で忙しいのでご一緒」

「わかった。そしたら桃李のところに連絡してから城かな」

「そうしていただけると助かります」


 最後にそう軽く打ち合わせを終わらせてからそれぞれの行動をとり始めた。

 といってもルーカスと藤花は寮に住んでいるので、それぞれの部屋でやるべきことを終わらせたという感じだ。

 ルーカスは普段学校にいるので、あまり利用することがない島への連絡手段などは藤花の部屋に置いてある。

 一応防犯対策も兼ねているため、簡単には動かすことが出来ないようにしてある。

 ルーカス自身は特に何か他に用があるというわけではなかったので、寮の管理人に遅くなる可能性があることを告げておいた。

 迷い船の乗組員たちが本当に事を起こす可能性があることを考えれば、一々寮に戻って来るよりも城にいたままの方がいいだろうと考えてのことだ。




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m(__)m

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