第4章

(1)呼び出し

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 ルーカスは、訓練から戻った翌日にはエルアルド王子に呼び出されて王城に顔を出していた。

 前日の夜、つまり訓練から戻ったその日の夜には城から使者が来ていたのだが、さすがにその日のうちに呼び出しというのは遠慮をしたらしい。

 ルーカスとしてもその日のうちの呼び出しというのは勘弁してほしかったので、その気遣いをありがたく受けとっておいた。

 呼び出されている内容が島の傍に滞在している探索者の件だということも分かっていて、そこまで焦る必要もないことも急ぎではない理由の一つになっている。

 もっともこれが本格的に襲撃を受けているとなれば、学校行事どころではなくなっていたはずだ。

 野営訓練は必修単位の一つになっているので、このタイミングで起こらなくて良かったとルーカスは胸をなで下ろしていた。

 とはいえ本当に参加できないことが起これば、学校側も何らかの救済措置を取っていただろう。

 王族が通う学校のため過去には似たような事例が起こっているので、それを参考にした対応が取られていたはずだ。

 

 案内された部屋でルーカスが待っていると、すぐにエルアルド王子が姿を見せた。

「やあ。おはよう。朝から済まないね」

「いえ。話し合いは必要だと考えていましたからちょうどよかったです」

「そうかい? ある程度は桃李から話を聞いているけれど、前に決めた通りでいいんだね?」

「構いません。欲を言えば船が欲しいですが、無理をする必要はないです。というよりも、今から国家間の決めごとを破ると色々面倒になりそうなので、独自対応をするつもりはありません」

「それは、こっちとしても助かるよ。それにしても……そうか、船が欲しいか」


 そう言って何やら考え始めたエルアルド王子を見て、ルーカスは内心で首を傾げていた。

 通常探索者が他国に避難を求めて来た場合は、いくらかの賠償金を支払って終わりとなり船まで手に入れることは難しい。

 逆に未所属であれば、海賊扱いとなり船どころか命の保証すら危うくなるのがガルドボーデン王国の近隣諸国内でのルールとなる。

 今のところ浮遊島ではガルドボーデン王国の法律に準拠した規範が採用されているので、ルーカス自身も特別扱いされるつもりはない。

 

「昨夜の段階では既に所属も明らかにしていて、援助物資のための資金も素直に払っていて問題はなさそうですが……何か問題がありましたか?」

「そうか。既に所属を……ちなみにどこかを聞いても?」

「構いません。なんでもハリュワード王国のとある商会に所属している船だそうですよ。船員たちも船長をはじめとして全員が雇われだそうです」

「ハリュワードか……なるほど」


 ルーカスの答えを聞いたエルアルド王子は、額に手を当ててため息を吐いていた。

 ルーカスはエルアルド王子のその様子を見て、ハリュワード王国側がガルドボーデン王国内で何か事を起こしているのだと分かった。

 

「――実は数日前からハリュワードの貴族の一人が、ここ王都に滞在しているんだがな。特に外交の懸案とかもなく、ただ訪ねてきているだけだから何かあるのかと少し気にかけていたんだ」

「その貴族が島での避難騒ぎに関係していると?」

「どうだろうな。そこまでは分からない。今回のことだって浮遊島に関わるということさえ無視すれば、よく……は無いが稀にある他国の避難船の扱いと変わらない。わざわざ貴族が出張って来るようなことではないんだ」

「確かにその通りですね。通常であれば避難用に用意した食料その他の費用を払って終わりの案件です。――その貴族が来ていたのは、たまたまということでは?」

「それも考えられる。だからまあ、今すぐにどうこうということは無い。といよりもあちらさんが動くまでは、我が国としても通常通りの対応をするだけだ」

「それでいいのではないでしょうか。金銭に関しても船が所属しているという商会が払うことになるでしょうから、特に大事にはならないと思いますよ」

「そうあってほしいな。ただ島に関しては既にみられてしまっているが、防衛体制に関しては知られてしまったな」

「それも大した問題はありません。というよりもそもそも国家に対して見せるような戦力などないのですから。今の規模の島を奪われたとしてもガルドボーデン王国を敵に回すだけなので、ハリュワード王国にも利はほとんどないですよ」

「そうあってほしいものだね。何かごり押しの屁理屈を突き付けてきそうなことも考えられなくはないが……今からそんなことまで考えても仕方ないか」


 今のところ浮遊島の近くまで迷い込んできた三隻の船は、特に大きな問題も起こさずに通常の避難船と同じ対応をしている。

 突発的な事故が起こることは探索者であれば誰でも知っていることなので、島には常に余分な食料などは用意してある。

 もし避難船を助けられなかったということを理由に譲歩を迫っているつもりなのであれば、目論見が甘すぎと言いたいところだ。

 ガルドボーデン王国が後ろについていいる以上、そんあ隙を見せるはずがないと考えるのが当然だろう。

 

 そうはいっても通常来るはずがない他国の貴族がこの国に滞在しているのは事実なので、気を抜くことは出来ない。

 そもそもハリュワード王国が何を最終地点として狙っているか分からない以上、下手に結論を決めつけて動くことも不可能だ。

 あるいはこちら側の『失点』を狙っているのかも知れないので、下手な動きを見せることだけは駄目だと指示は出している。

 今の島の規模だとどこの王国であっても本気で対応されれば、一ひねりされるのが目に見えている。

 

「少なくともいきなり大軍を送って来ない以上、今の状態で利用価値があると見られている……はずです。無茶なことをするとなるとその利用価値が無くなった時でしょう」

「そうかも知れないね。まあ、ハリュワード王国の思惑は想像することしかできないから置いておくとして、船が欲しいなら融通することもできるよ?」

「うーん。今以上に余所から睨まれるようなことになるのは、ちょっと……。棚ぼた的に手に入れるならともかく、正式に依頼するならライフバートになるでしょうか」


 ライフバート王国は、ドワーフが国を治めている多種族国家になる。

 ガルドボーデン王国も多種族国家ではあるのだが、ライフバート王国に比べるとヒューマンの割合が多い。

 そして御多分に漏れず工業系に強い国家となっていて、多くの先進技術を持っているとされている。


「やっぱりそうなるか。それを言ったらあちらさんも乗り気になると思うよ?」

「今はまだ正式依頼できるほど経済が安定していませんね。それに、どうせだったら金銭ではなく新たに港を作って利用権を譲りたいですね」

「港の利用権ならうちでも買い取るけれど……確かにルーカスのところならそれが一番だろうね。見込みはあるのかい?」

「工事自体は始めていますが、今あるところを安定させる方が先ですね。これで新しく窓口を作ったらさらに混乱しますよ」


 ルーカスの本音としては、さっさと新しい港を作って他の国との窓口を増やしたい。

 ただそれをやってしまうと今一生懸命に港の運営をしている部署が潰れてしまう可能性が高いので、我慢している状況だ。

 新しい港を作るのには時間がかかるので工事は進めているが、完成次第他国と交渉を始めるかは微妙なところだと考えている。

 どちらにしても今すぐに他国の船を受け入れるのは不可能で、金銭で船を手に入れることもそう簡単に出来ることではない。

 もう少し資金に余裕があれば手を出せるのだが、それも今は難しいだろうというのがルーカスの判断である。




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m(__)m

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