(24)訓練の終わり

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 ルーカスが模擬戦を終えてテントに戻ると、貴族組から若干呆れたような視線を向けられることとなった。

「こちらに来てまで、騒ぎを起こさないといられないのでしょうか」

 そう宣うカロリーナ王女に、ルーカスは肩をすくめるだけで誤魔化した。

 本来なら自分が起こした騒ぎではないと言いたいところだが、受けて立ったのは紛れもなく事実なので言っても仕方ない。

 そんなことよりも既に王女があの騒ぎについて耳にしていることの方が驚きだった。


「申し訳ございません。ですが王女。その話をどこから聞きましたか?」

「え? カイルが嬉々として話しておりましたが?」

「カイル、お前か~~~」

「いやいや。一年生が四年生を相手に何やら騒ぎを起こしているとなると、彼女に話さないわけにはいかないだろう? しかも同じグループなんだから」

「その通りです。カイル、よくぞ話してくれました」


 いっそ芝居がかっていると言われてもおかしくはない婚約者同士の会話だったが、周りにいる仲間たちの反応を見ても面白がっていることだけは分かる。

 ルーカスとしては話の種にされていると分かっていても、避けられないことだけは理解できる。

 野外実習も終わって暇な時間を持て余している状況だからこそ、格好のネタだということはルーカスも自覚している。

 それだけこの訓練にも皆が慣れてきている証拠でもあるのだが、ルーカスにとっては喜ぶべきか悲しむべきか悩みどころだ。

 

 それから何だかんだありつつも無事に夕食も終えて就寝。

 明けて朝食を取ってから少し落ち着いたあとは、テントなどを片付けてから王都への帰還となった。

 食事は相変わらずだったが、王女を筆頭に既に食べ慣れた様子になっていて文句を含めて特に何かを言ってくる者はいなくなっていた。

 それよりも来た時のあの距離をまた歩かなければならないという事実に意識が向いているようだった。

 

 そして帰路の途中では――、

「やれやれ。やっと終わったな」

「町まで歩いている途中なんだからまだ終わりではないな」

「分かっているよ、アルフ。だがそれ以上のことは起こらないだろう?」

「外出先で決闘騒ぎに巻き込まれるお前の方がおかしいんだがな」

「うるさいよ。お前も一緒になって騒ぎやがって。少しは助けてくれても良かっただろう」


 横を歩いているアルフに対して恨めし気な視線を向けるルーカスだったが、向けられた当人はどこ吹く風で周囲の様子を見ていた。

 魔物が出て来る様子もなく、今この瞬間だけはのどかな風景が広がっているように見える。

 周囲を四年生が警戒しているのであまり心配はないのだが、それでもルーカスがいつでも戦闘が出来るように意識を向けているのはこれまでの経験によるものだ。

 こと魔物とのやり取りにおいては『絶対』などあり得ないことは、魔物を相手に生業として生きているものにとっては当然の感覚になる。

 

「いやだよ。何で王女に睨まれるようなことをしなきゃならないんだ」

「いや。カロリーナ王女は、そんなことで一々怒らないだろう」

「知っているよ、そんなことは。あくまでも気分的な問題だ。あと、王族と気楽に会えるお前と一緒にするな」

「いや別に気楽に会っているわけでは……いや、何でもない」


 二人の会話が聞こえていたのか、前を歩いていたカイルが意味ありげな視線を向けて来たことに気付いて、ルーカスは視線をずらしてから続く言葉を飲み込んだ。

 ルーカスがカロリーナ王女を含めた王族と会っていることは、カイルが良く知っているのでここで余計な突っ込みを得たくなかった。

 当然ながらアイルもカイルからの視線に気づいているので、さもありなんとばかりに大きく頷いていた。

 視線を向けて来たカイル当人は余計な体力を使いたく無かったのか、すぐに前に向き直った。

 

「――ふう。危ない危ない。カイルの圧が凄いなあ……」

「いや。それが既に答えになっていると思うんだが……? まあ、いいか。それよりもこれから先の予定は何か立てている?」

「それが昨日までは無かっただけれどな。予定外のことがあって、もしかすると忙しくなるかもしれないな。変に予定を入れるのは止めておく」

「ふーん。ルーカスは忙しくなりそうなのか。俺は何をして過ごそうか」


 ルーカスたちは今日中に町に戻って訓練は終わりとなるが、これから先半月ほどをかけて全ての生徒が野営訓練を行うことになっている。

 一学年と四学年の残りであと二回、二学年と三学年は三回分の訓練があって、ほとんどの教師はそちらでかかりきりになってしまう。

 当然ながらその間の講義は開店休業状態になるため、訓練に参加しない生徒は休みになる。

 

 ただし藤花から中継島に近づいている船の話を聞いたルーカスは、恐らくそれに対応するために動くことになるはずだ。

 王国がどう対応するかによって中継島が出来る変わって来るはずなので、担当者との話し合いが行われることになる。

 今のところは桃李をはじめとした外務担当が対応をしているが、もしかするとルーカスの出番があるかもしれない。

 

「どうせだったら魔法の訓練とかしたらどうだ? 前に履修するか悩んでいただろ。別に無理してやる必要はないと思うけれど、学校にいないと出来ないこともあるからな」

「学校にいないと出来ないこと? そんなことあったか?」

「何を言っているんだ。図書館の一部には、学生か教師でないと入れない場所があるだろうに」

「ああ。そういえば、そんな規則もあったな。――そうか図書館か。折角だから行ってみようか。それにしても本を読むことを訓練と言うのはルーカスらしいな」

「何を言っているんだ。本から新たな知識を得ないと次の訓練に繋がらないだろう? 同じことだけを繰り返すことも重要だが、新しい知識を入れることも訓練の一部だろうに」

「学校どころか大人たちも含めて、トップクラスの実力があるお前が言うと説得力が違うな」


 ルーカスとカイルの魔法の実力は、既に学生レベルどころか一流どころに踏み込んでいると教師たちも認めている。

 そんなルーカスが語ったことだけに、アルフも素直にその言葉を聞き入れていた。

 以前魔法を履修するかどうかで悩んでいたアルフだが、別に魔法を嫌っているというわけでもない。

 折角空いた時間ができたのなら、ルーカスの助言に従って図書館通いをしてみるのもいいかもしれないと考え始めていた。

 

「褒めても何も出てこないぞ。まあ、それはいいとして。魔法だけじゃなくて他にも色々と揃っているからな。本を読んで時間を潰すのはありだと思う」

「確かに、その通りだな。冒険者登録をしてみるのはどうだ?」

「別にいいんじゃないか? 学生だと分かれば仮登録はすぐに出来るだろうし。コンスタントに依頼をこなさないと仮から外れないが、それはこだわっていないんだろう?」

「まあな。とりあえずのことだからな。探索者の登録はどう思う?」

「探索者は船に乗るのが基本だからなあ。中々難しいと思うぞ。日帰りの依頼もないわけではないが、大体は日数がかかるものばかりだし」

「そうか。登録しても船に乗れないんだったら意味がないか。――とにかく色々考えてみるよ。……考えているだけで休みが終わってしまいそうだが」


 ルーカスたちに与えられている休日は二週間弱なので、ダラダラ日常を過ごしているとすぐに折角の休みが無くなってしまう。

 アルフの言葉を聞きながら、ルーカス自身も休みの有効活用しようと何をするべきかを考え始めるのであった。




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m(__)m

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