(20)午後の訓練

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 訓練二日目午後は、それぞれの専門に分かれて講義を受けることになった。

 専門は大きく武官コースと文官コースの二つに分かれることになっていて、それぞれで実践的な動きを学ぶことになっている。

 ルーカスはどちらでも構わなかったのだが、折角なので武官コースを受けることにした。

 船乗りをしていると戦闘要素は必ず発生することがあるというのと、騎士の訓練がどういうものかということに興味があったためだ。

 ルーカスの場合は中継島の運営にしくじることがなければ騎士になることは絶対にないので、完全に興味本位になる。

 ただ一学年の武官コースで教わることは学校で受けている訓練とほとんど変わらないので、参考になるかといえば疑問なところはある。

 あくまでも野営に出て来た際にいつも通りに動けるようにするということが目的になっているので、船であちこちに移動することに慣れているルーカスにしてみれば普段とあまり変わらないともいえる。

 そうなると文官コースでも良かったのではとも考えられるが、そこはやりたいことをやるということで選んでいる。

 

 武官コースの講義は聞くより体を動かせというのが基本なので、教師からは少しの説明だけで終わって残りの時間は各自で体を動かすことになっている。

 ちなみに武官コースは騎士団に関わる者すべてが含まれているので、武器戦闘と魔法戦闘の両方の生徒が混じって訓練している。

 ルーカスはどちらも講義を受けている身なのでどちらも訓練をしているが、片方だけを訓練している生徒の方が多い。

 以前アルフが悩んでいたように、両方を選択するとどっちつかずになるという考え方が根強いため両方を選択する生徒は少なくなっている。

 

「――うん? ルーカスか。こっちに来たんだな。剣はいいのか?」

「まあね。やっていることがいつもと変わらないからこっちの様子を見に来た。それよりもエルッキは魔法クラスに来ていたんだな」

「ワイはまあ、文官って柄でもないからだな。それよりは魔法コースの方が身になりそうだと考えた」

「なるほどね。とはいえ見た感じ普段の講義とあまり変わらない気がするけれどな」

「それは仕方ない。消去法でこのコースになっただけだ。選んだ以上は真面目に練習するが」

「それは大事だね。先生から突っ込みを受けない程度には俺も何かするか」


 一応武官コースの中で武器と魔法で分けられてはいるが、きっちりとした授業が行われているわけではなく、生徒の自由意思に任せている部分が大きい。

 そもそも一学年では野営に慣れようということが大きな目標になっているので、実戦的な動きまで出来るようになるのは努力目標扱いになっている。

 そのせいというべきかお陰というべきかは意見が分かれるところだが、生徒たちは各々自由に過ごしている。

 真面目に剣を振ったり魔法を確かめたりしている人がいると思えば、友人と地べたに座ってただただ話に花を咲かせている者もいる。

 別に体や頭を動かしていなくても成績が下がることはないと言われているためか、全体的に見れば後者の方が多いのは決して気のせいではないはずだ。

 

 かくゆうルーカスとエルッキも今は魔法すら使わずに話だけしているので、他人をどうこう言うことは出来ない。

 そして二人は、とあるものを見つけてその咆哮へと歩みを進めていた。

 

「やあ、カイル。精が出るな」

「……うん? ああ、ルーカスとエルッキか。精が出ると言われるほど真面目にはやっていないけれどね。体の調子に対してどういう影響が出るのかを調べているんだ」

「そういうところが真面目だと……いや、まあいいか」


 容姿と頭脳と家柄と、王国基準であらゆるものを持っているカイルだが、変に偉ぶったりせずにこういうことがさらりとできることがクラスメイトからも信頼されている理由の一つになるのだろうなとルーカスは思った。

 その分既に将来の隣の席が埋まっていることに令嬢たちは悔しがっている……かと思われがちだが、その席に座ることが決まっているカロリーナ王女もまた似たようなスペックをしているので文句のつけようがない。

 もし校内でベストカップルを選ぶような催しがあれば、間違いなくこの二人が選ばれることになるだろう。

 どう考えても政治的なものが多分に含まれている婚約なのだが、時に熟練カップルではないかと思わせるような振る舞いに出ることもある。

 

「ルーカスは随分と余裕だね。私みたいに確認する必要はないということかい?」

「なんか、そう言われると余裕ぶっているように見られている気がするけれど……それも仕方ないか。俺の場合でいえば、そもそも揺られる船の上で動いたり魔法を使ったりすることに慣れているから、今更と言えるかな」

「なるほどね。……ルーカスの話を聞いていると、船乗りになった方がいい気がしてきたな」

「なりたいと言うなら止めないが……いや。将来の公爵様がそれは駄目だろう。今回の訓練みたいに時々乗るくらいにしたらどうだ? 公爵家も自前の船の一隻や二隻は持っていたよな」

「確かあったはず……それは今は関係ないか。それよりも、やっぱり経験に勝るものはないということだね」

「それはまあ、どう考えても否定できないな。いくら頭で分かっていても、実際に動けるかどうかはその状況に置かれないと分からないことだろうしな。だからこそこんな訓練をしているんだろうさ」

「だね。初代様もどこまで見通してたのやら」

「初代国王の知見が凄いのは間違いないことだが、実際効果があるからこそ続けられているんだと思う。むやみやたらに持ち上げるのは――おっと。今のは聞かなかったことにしてくれると嬉しいな」

「全く、君は。そんなことは王族の前で言わないようにした方が……既に遅かったみたいだね」


 横を向いて視線をずらしたルーカスを見て、カイルは呆れたような視線を送っていた。

 王族の前で初代国王に対して疑義を示すようなことを言うこと自体あり得ないというのが、カイルの持っている感覚になる。

 それを平気でしてしまうルーカスだが、自分でそれをしてみようとは絶対に考えないだろう。

 今のルーカスの立場がそれを平気にさせていることは理解できているので、自ら虎の尾を踏むようなことをする気にはならない。

 

 ルーカスが特殊事例であることは、既に多くのクラスメイトが理解している。

 今もしっかりと傍で漂っている王種のツクヨミがいることは勿論のこと、中継港の運用をしていることも皆の耳に入って来ている。

 それに加えて魔族の藤花がいることからもただ事ではないということが共通認識として共有されているので、王族や貴族の前で見ようによっては不遜な態度をとったとしてもそんなものかとスルーされることが多くなっている。

 

「――うん? おや、あれは君のところの付き人じゃなかったかい?」

「あれ? 本当だ。何故こんなところまで?」


 自分とは反対側を向いているカイルの言葉に釣られて後ろを振り返ったルーカスは、藤花が近づいて来ていることに気付いて首を傾げた。

 藤花も含めて貴族の付き人をしている者たちの訓練参加は自由意思に任せられているが、泊る場所の確保などを含めてほとんどが自分たちで用意することになっている。

 そのため多くは付き人が訓練までついて来ることはほとんど無い。

 藤花も王都の寮で待っているはずだったのだが、今ここに姿を見せたということは何か不測の事態が起こったということに他ならない。

 それを一瞬で理解したルーカスは、折角の野営訓練の最中に厄介事かと内心で盛大にため息を吐くのであった。




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m(__)m

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