(21)厄介事
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
王都から来た藤花と話をするためルーカスはエルッキやカイルと別れて、生徒たちがいる野営地から少し離れた場所へと来ていた。
「わざわざここまで来るということは、島に何かあったのか?」
「はい。今朝連絡を受けましたが、三隻の船が島に来たそうです。勿論、許可証はないそうです」
「それはまた。予定通りに対応はしているんだよね?」
「当然です。ですが、彼らの言うには食料がないそうで、支援を要求しているとのことでした」
「支援ねえ。どうせ人道的な理由とか言って、港の使用を求めたりしているんだろう?」
「その通りです。事前に予想していた通りです。今のところは小舟で当日分だけの食料をやり取りしているので、接岸したりはしていません」
「それでいい。前例を作ってしまえば、確実に付け込んでくるからな」
遭難などを装って中継島に近づいて来る船がいるだろうということは、既に事前の話し合いで予想していたことだ。
今のところその時に作ったマニュアル通りに対応できているようで、ルーカスが出張るようなことではない。
それでもここまで藤花が来たのは、今後突発的な出来事が起こる可能性が否定できないためだ。
何かあれば藤花が持っている遠距離通信ができる魔道具で対応するため、ルーカスの近くまで来たという流れになる。
「いくら騒いだところで無駄なんだけれどなあ。……いや、ちょっと待てよ。もしかして本当に騒いだりしているのか?」
「そうですね。食料を渡すときに難癖をつけられたりしたそうですが、無理に島に近づこうとしたりはしていないようです」
「ガルドボーデン王国への連絡は?」
「勿論済ませています。見つけたのは今日の明け方らしいですから、三日後には着くでしょう」
「船の型は?」
「ガレオンだそうです。それも比較的新しいとか。接収でも狙いますか?」
質問を重ねて来たルーカスの狙いに気付いたのか、藤花は特に表情を変えることなくそう聞いてきた。
「無理に貰う必要はないかな。変に暴れたり無理やり島に近づいてきたりしたらでいい。出来れば緊急避難でも宣言してくれればいいんだけれどな」
「水と食料を小出しに与えている以上は、宣言はないと思われます」
「だよなあ。ここで出さなければ隙を与えることになるだろうから、変に無理はしなくていいや。ああ、そうだ。出来るなら所属は確認しておいたほうがいいかな」
「それは既に分かっているそうです。お聞きになりますか?」
「いや、それは帰ってからでいいや。今知ったからといって何かができるわけでもないだろうし、必要になってから聞くよ」
所属がどこであろうとこちらが出来ることは決まっているので、寮に戻ってから知った方がいいとルーカスは判断した。
藤花もそれに異論は無かったようで、特に何かを言うようなこともなく頷いていた。
「――あとは、特殊な指令なりを受けているかどうかだけれど……それも今は王国任せでいいか。こっちはあくまでも遭難者扱いということで」
「いいのですか? 場合によっては、それこそ船の接収なり破壊なりが出来ると思われますが?」
「いいよ、別に。どうせすぐに王国軍が来るから、こっちで出来ることも少ないだろうしな。軍が来るまで相手が動けば対処すべきだけれど、そうじゃないなら放っておけばいい」
「畏まりました。こちらの対応を見ているという可能性もありますが、よろしいのでしょうか?」
「構わないさ。許可がなければ島には上陸させない。それが伝わってくれることが最低限で、一番重要なことだ。それ以外はあくまでもおまけだよ。勿論、力には力で対抗するけれど」
「それでは、そのように伝えておきます」
それまで少し軽い調子で話していたルーカスが声を落して念を押すと、藤花もまたその意を汲むような顔になって同意していた。
普段の藤花は表情豊かに笑ったりするが、こういった仕事の時はあくまでも真面目を通している。
ルーカスもこういった場面で揶揄ったりすることはないので、きちんとバランスが取れているコンビ(?)といえるだろう。
「ついに来るものが来たという感じだけれど、今回は素直に引いてくれるかな」
「どうでしょう。中継島の噂だけを聞いてやってきたということも考えられますが」
「そうか。そういうこともあったな。つい裏にどこかの組織なり国がいると考えがちになってしまうけれど、ただ単におこぼれ狙いで来ることも考えられるな」
「はい。ですが、どちらにしてもやることは変わらないでしょう」
「そういうこと。むしろ個人で来てくれていた方が、接収できるチャンスは増えるんじゃないか?」
ルーカスは、そう言いながら何とも意地の悪い笑みを浮かべた。
何の後ろ盾もなしに来てもし無茶な要求をされた場合は、ルーカス側もある程度好きなことが出来る。
国が後ろにいる場合は交渉がややこしいことになるが、個人の場合は法を犯すような真似をしなければ自由に出来ることが増えるはずだ。
ルーカスの知る世界のように国際法はあって無いようなものなので、対個人になるとお互いに無茶な要求をする場合もある。
人が暮らす街から出ればある種無法地帯と考えてもおかしくないような状況に置かれるのが、探索者や冒険者という職になる。
それでもあまり無茶なことをし続けると周りから警戒されることになるし、国からは海賊や盗賊扱いされることにもなりえる。
当然のように公海上(海はないが)でのルールは存在しているが、残念ながらそんなものは見られなければどうとでもなると考える輩がいることも事実。
だからこそ探索者はお互いに情報を持ちあって、それぞれ独自に身を守る術を用意している。
中継島に近づいてきた無許可の探索者たちがどういう目的を持っているかは分からないが、もし本当に迷い込んだだけなら素直に引き返してくれるはずだ。
そう素直にことが運ばずごねるようであれば、間もなく到着することになっているガルドボーデン王国の軍に引き取られることになる。
その間に何かしてくるようであれば、今度は島に用意してある防御手段の餌食になる。
ガレオン型の船が三隻程度ならば、離れた場所に留めている場所から近づいて来る間に『処理』することが可能になっているので問題はない。
「――ま、余計な欲をかくと上手く行くはずのものも駄目になるからな。その辺りのさじ加減は現場に任せるよ。無茶はしないようにとだけ伝えておいて。どうせこれから先も増えて来るだろうしな」
「そうですね。桃李も分かっているとは思いますが、改めて伝えておきます。――――おや?」
しつこいくらいにルーカスが念を押しても、藤花は素直にその言葉を聞いて頷いていた。
初動を間違えると今後の活動に響くことは分かっているので、これくらいがちょうどいいとお互いに理解しているためだ。
そんな藤花が視線を外して別の方向を見たので、ルーカスもそちらの方を見た。
「……なんかこっちに近づいて来る奴がいるな」
「はい。ご存知の方でしょうか?」
「いや。どこかですれ違ったことはあるかも知れないが、話したことは一度もない……はずだな」
ルーカスと藤花が向けている視線の先には、三人の男子たちが近づいて来ているのが見えた。
もともと訓練をしている一年生との距離がそこまで離れているわけではないので、間もなく会話が出来る程度の場所まで来るだろう。
明らかに厄介事だと分かるような表情をして近づいて来る者たちを見て、ルーカスは思わず大きくため息を吐いていた。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます