(19)まったり出来ない時間

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 二日目の朝食は、持ち込んだ調味料を使って無難な味になった。

 無難といってもそもそもの素材の質が良い訳ではないので、変わった味もたかが知れている。

 ただし昨晩の味を知った貴族組は、まともな味になったと喜んで食べていた。

 それを見ていた平民組は、良い感じに騙されていると分かっていたもののそれを口に出すことはしなかった。

 見事に学校側の思惑に乗せられているわけだが、決して悪いことではないと理解しているためだ。

 ルーカス自身はこれがずっと続くのであれば反対の一つや二つしただろうが、一食が犠牲になった程度で貴族組の意識が変わるのであれば是非とも続けて欲しいと考えている。

 百の言葉よりも一つの実戦というと少し大げさになってしまうけれど、実体験で得た経験ほど身になるものはないだろうと。

 いくら口で言われようが、本当の意味で理解できる実戦に勝るものはない。

 

 ちなみに調味料を持ち込んでいたのはルーカスのグループだけではなく、Aクラスの残り二つのグループも同じだった。

 平民組には平民組のまとまりがあるので、少しだけルーカスが助言をすると納得した様子でそれぞれの手分けして持っていくことになっていた。

 それぞれのグループにいる貴族が調味料を持ち込んだ平民に感謝したのは言うまでもない。

 それほどまでに、昨夜の料理の味が貴族組にとっては衝撃的だったようだ。

 

 そして二日目の朝食が終わって少ししてから始まったのは、座学だった。

「――であるからして、キャンプというものは~~~」

 これがまた聞きずらい。教室のように壁や天井で囲われているわけでもなくただの青空教室なので、教師の声が反射することなく通過していってしまう。

 教え役の教師の声自体も、敢えて狙っているとしか思えない声の小さな教師だった。

 

 慣れない外での宿泊による寝不足に加えて、お経のようにしか聞こえてこない先生の話。

 この二つが揃えば何が起こるのかは、わざわざ言葉にしなくとも分かることだ。

 

「うん。見事に落ちてきているな。あとでシバかれなきゃいいが」

「笑い事じゃないと思うぞ、ルーカス。実際このあとは軽い運動をするんだろう?」

「間違いなく厳しくされるだろうなあ。アルフよ。お主も気を付けるのだぞ」


 誰がお主かとアルフは軽く突っ込みを入れて来た。

 ルーカスとアルフのこのやり取りは小声で行われているので、周りにいるクラスメイト以外には気付かれてはいない。

 

「いや、何だよ。その話し方。――それはいいとして、確かにこの雰囲気だと次が危なさそうだな」

「普通にぐるぐると同じところを周回するだけだから大丈夫とは思うが、下手をすると怪我しそうだな」

「それな。……逆に目が覚めるということも考えられる?」

「あるだろうなあ。午後の予定は今のところ聞いていないが、何をするのか心配になって……その前に昼食の問題もあるか」


 四年生が着いて来ていることからも分かる通り、魔物が来た場合の対処はルーカスたち一学年ではなく四学年で対処することになる。

 そもそも四年生だけではなく、王都に詰めている騎士団の騎士たちも来ているのでよほどのことが無い限りは一年生が魔物と戦うことはない。

 もし四年生や騎士団が対処できないような事態になった場合は、国家存亡の危機……とまでは行かないまでも王都にまで被害が出る可能性が高い。

 そんな高ランクの魔物や集団がいきなり出現してくる可能性は限りなくゼロに近いので、二人ともそこまでの心配はしていない。

 

 当然ながら多くの学生が滞在するということで、訓練前には入念に調査が行われている。

 これには騎士団の訓練も含まれているので、ある意味で国の威信をかけているといっても過言ではない。

 一つの学校のためにそこまでするのかという批判もないわけではないのだが、初代国王の頃から続けられていることだからと今も変わらずに続いている。

 そんな状態だからこそ、一学年の生徒たちは自分たちのことだけを心配していればいいという環境にいることになっている。

 

「昼食か。やっぱりルーカスは、あれが続くと考えているんだ」

「むしろ今になって変える理由がないからなあ。うちのクラスだけではなくて、他のグループも似たような状況らしいからそこまで大きな変更はないと思うぞ」

「そうなるかあ……。さすがに『訓練』と銘打っているだけのことはあるということかな。これは帰るまで気が抜けないな」

「ここが魔物が出る領域である以上はどうしようもないからな。あとは本当に予測不可能な自体が起きないことを祈るだけだな」


 限りなくゼロに近いとはいえ百パーセントあり得ないと断言することは出来ない。

 それは、魔物がいる世界で生きている人々であれば常に考えておかなければならないこと。

 絶対の安全などあり得ない。その覚悟を持って生きているからこそ、自分たちの身を守ってくれている国と王を支持しているのである。

 ――ということを実感させるためにも、この野営訓練が実施されているとルーカスは考えていた。

 

「それはまあ、四年生たちに任せるとして……そろそろ真面目に話を聞こうか」

「そうだな。相変わらず何を言っているのか、聞き取りずらいけれど」


 周囲を見ればルーカスやアルフと同じように何組の生徒が小声で話をしていた。

 生徒たちの周囲で様子をうかがっている他の教師たちが何かをする様子はないが、あまり長時間話し続けて目立つのは避けたい。

 そんな思惑で話を区切るように提案したルーカスに、アルフもすぐに同意して来た。

 

 二日目一発目の講義は、いつもよりも時間が長い一時間半ほどで終わった。

 青空教室の下で行われた講義であるため地べたの上に直接座って行われたわけで、中には文句を言う生徒も少なからず存在していた。

 当たり前のようにその筆頭は貴族の子供であったが、一番身分が高いカロリーナ王女が何も言わなかったことで教師たちや他の生徒から黙殺される結果になっていた。

 むしろ教師から「黙って座っていろ」とか「これ以上騒ぐと単位なし」と言われてすごすごと引き下がっていたという話を、ルーカスたちは後から聞くことになる。

 

 そんな講義が終わったあとは、事前の予定通りに長距離走が始まった。

 長距離走といっても精々五キロ程度の距離を走ることになったわけだが、体力がない貴族の子供(特に女子)が多く含まれているためすんなりと終わるわけもなく。

 貴族の女性だけではなく、昨日の長距離移動とまともにとれなかった夕食のせいでいつもは走れる距離が走れないという生徒も続出していた。

 将来騎士を目指している生徒もいるので全ての生徒がそうだったわけではないが、全体で動いている以上は全ての生徒が走り終わるまで続けられることになった。

 

「えーと、王女様。大丈夫でしょうか?」

「ル、ルーカス、ですか。ダイジョウブと、言いたいところ、ですが――」

「あ~。無理して話す必要はないですよ。本当ならここではカイルが話すべきなのでしょうが、あいつも向こうでへばっていましてね」

「彼は、魔法使いですから、体力は、あまり……。それよりも、ルーカスが、元気、なのが不思議です」

「私は戦いもできるように訓練していますからね。当然のように体力はつけていますよ。昨日も言ったように粗食にも慣れていますから」


 カイルがへばっているところを知っているルーカスは、同じグループの中で比較的元気なままでいる自分しかいないだろうということで王女と話をしていた。

 話を振り過ぎても息切れするだけなので注意をしつつ、王女が退屈をしないよう適度に話を振ることを心掛けながら。

 その考えに気付いている王女も、心の中でルーカスに感謝しつつ適当に話を合わせるのであった。




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m(__)m

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