(16)訓練開始

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 貴族の子供たちだけに限らず平民の子供たちもまた、ルーカスによる探索者の裏事情(?)の話は何か感じ入るものがあったらしい。

 中央の学校において法律を学ぶのは必須となっているが、どの法律にも何らかの背景があることが分かったことでそれぞれの法律の意味まで深く考えるようになっていた。

 もっとも数日後に行われることになっている野営訓練が迫っているので、終わるまではそれだけに関わるわけにはいかない。

 訓練が行われる前日までは準備期間になっているので、当日に何が必要でどう行動するかの話し合いがそこかしこで行われていた。

 もっとも持ち物に関しては学校側が最低限指定したものと持ち込み禁止リストがあるので、そこまで奇抜なものが用意されたわけではない。

 糧食類に関しても、生徒が勝手に持ち込んだもので食中毒など起こされたらたまったものではないので、厳しく制限がされている。

 その上でどういったものを持って行ったらいいのかと、ルーカスの下に相談が増えたのは当然のことだといえる。

 探索者のキャンプ事情を話してしまった手前、無下に扱うこともできずにルーカスもまたそれらの対応に追われる結果となっていた。

 

 そして訓練当日。王都にある防壁のすぐ側には、二百五十人近い人員が集まっていた。

 一学年と四学年のそれぞれ百名ずつで二百名。それ以外に教職員と護衛に着く騎士たちで五十名ほどがいる。

 この時期にこれだけの人数が集まるのは、王都の住人たちにとって風物詩となっているのでこの光景を見て慌てる者はいない。

 そもそも学校の生徒たちは外出用の制服を着ているので、何の目的で集まった集団なのかは誰もが分かるようになっている。

 

 中央の学校では制服が用意されているが、基本的には着用は自由となっている。

 今回のようなイベントごとには制服着用が義務付けられていて、軍服のように集団で行動する際の目印となっている。

 私服にあまりお金を掛けられない平民などは普段から制服を着ているが、それによるいじめなどはほとんど起こっていない。

 どちらかといえば、『平民だから』という理由でいじめのような状況は起こりえるのだが、制服はその一つの要素でしかない。

 

 もっとも国内でもっとも優秀な人材が集まる学校だけあって、いじめ自体がそこまで多く発生しているわけではない。

 ただしそれはあくまでも他の学校に比べてということであって、実際に被害にあった当事者にとっては何の慰めにもならない。

 少なくとも今のところはそうしたいじめが発生したという話は、たとえ噂話であってもルーカスたちの耳に入ってきたことはない。

 いじめなど絶対にあり得ないと否定できないところは学校関係者にとっても耳が痛いところではあるが、何がきっかけで起こるのか分からないため常に気を使っている問題でもある。

 

「――といっても、あっちの世界で聞いたことのあるほどにえぐいものは過去にも起こっていない……はず」

「うん……? ルーカス、何か言ったか?」

 移動が始まってからしばらくしてから呟いたルーカスに、隣を歩いていたアルフが不思議そうに聞いてきた。

「いや、なんでもない」

「そうか? それにしてもいくらこの時期の風物詩とはいえ、住民たちも随分とおおらかだよなあ……」

「何を言っているんだ。アルフだってそのうちの一人だっただろう?」


 アルフは王都で店を開いている商会会長の息子なのだから、毎年のように中央の学校の生徒がどこかに向かっているところは見ていたはずだ。

 ただし子供が城壁の外に出るのは珍しいので、アルフ自身がここまでの人数まとまっているところを見るのは初めてのことになる。

 

「俺が見ていたのは、現地集合する生徒たちが好き勝手に歩いているところだけだからな。これだけの大人数が一斉に歩いているところは見たことはないな」

「へえー。そうなのか」

「他人事のように言っているけれど、ルーカスだってそうじゃないのか? ……随分と見慣れているようにも見えるけれどな」

「そもそも俺は船に乗っている時間の方が多いからな。この学校行事自体見るのは初めてだ。あと探索者は集団で動くことも多いから見慣れているのは当然だろう?」


 少なく見積もっても探索船に乗る乗務員は三十人からになる。

 そんな探索船が数隻も集まればすぐに百人近くになるため、ルーカスは人が集団で行動すること自体は幾度も見たことがある。

 場合によっては十隻以上集まることもあるので、今回の人数が集団行動しているところを見るのも初めてのことではない。

 ちなみにそれだけの数の船が集まった理由は、王国の近隣にまで近寄ってきた魔物の討伐のためだった。

 

「――ふーん。俺たちには知らされていないから分からないけれど、そんなに魔物の襲撃ってあるのか?」

「そこまで集まる必要があるようなランクの魔物は、せいぜい年に一度あるかないか程度だろうな。ただこれは王都に限ってだから地方も含めると数は増えるんじゃないか?」

「他に港がある場所からも出撃するってことか」

「それはそうだろ。距離が近いところから出るのは。もっとも地方の探索者だと数を集めるのが大変だから、基本は軍が動くことになるけれどな」


 探索者は資源を探すためにあちこちに飛び回っていることが多いので、即集まれと言われても拠点にしている港町にいないことの方が多い。

 結果として王都とは距離が離れている町を守るのは、国が統括している軍ということになる。

 地方にある軍は周辺各国ににらみを利かせている部隊でもあるが、基本的に国家同士の戦争など珍しい世界のため大体が魔物に対処するために駐留している。

 あとは地方にいる探索者が見つけた資源を引き取るという仕事も行っているので、ただただ周辺監視だけを任務としているわけではない。

 

「王都と地方の違いだね。その辺りは商売と変わらないか」

「人が集まればそれだけかけられる経費も違うからな。軍なんてまさしくその一つだろう? ましてや民間でやるとなればなおさらだ」

「確かにそうだろうね。でも地方にも探索者がいるということは、儲けを出せる手段があるということだろう?」

「それはね。そうでなきゃ、わざわざ根城にしたりしないだろうさ。その辺は船を持っている船長かオーナーの腕次第だろうな」


 王都の港では探索船が多い分、それだけ競合者も多くなる。

 敢えてそれを避けたうえで、人の少ない地方で稼ぎ方を見つけるというやり方もある。

 商人だろうと探索者だろうと、どの分野でもそれは変わらない。

 あるとすれば、与えられた環境の中でどうあがいて成長していくのかということだろう。

 

「うーん。どの職業も考えなきゃならないことは色々とあるってことかな」

「だな。――おっと。そんなことよりも、遅れそうなやつらが出てきそうだぞ」

「えっ!? もうか。というか、そもそも貴族生まれのお嬢様方に長距離を歩かせるってどうなんだろうな?」

「それを今さら言っても仕方ないだろう。それを含めての訓練なんだろうな」


 演習が始まってからそろそろ一時間が経とうとした頃になって、女子学生の一部で遅れが出始めて来た。

 男子と女子の体力の違いも考慮して予定は組まれているため一応一時間ごとの休憩時間は組まれている。

 それでもなお最初の休憩に入る前に遅れが出たということで、前途多難だと顔を見合わせるルーカスとアルフなのであった。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る