(15)探索者の事情

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 ルーカスの予想を聞いたお陰かは不明だが、翌日辺りからAクラス内の雰囲気は通常通りに戻っていた。

 通常通りといっても訓練を楽しみにするような雰囲気は残っているので、あくまでも浮ついた空気が収まった感じになっている。

 それとは別に、クラス内での話題が『どう野営訓練を乗り切るか』ということに中心が移っていた。

 そのことに気付いたルーカスは、さすがAクラスに入るだけのことはあると思ったりもしていた。

 ルーカスからただの遠足ではなく授業の一環だと言われてすぐに対処に移るのは、優秀な人材が集まっているからこそだろう。

 Aクラスに限らず他のクラスでもそうだが、兄姉が同じ学校に通っていたという者は多い。

 そこから情報を取得できれば、野営訓練がどういったものかを具体的に知ることが出来る。

 それをさっそく実行したクラスメイトがいたようで、テリーから事前に言われていることも含めてそれなりに情報を集めることが出来ていた。

 

「――要するに、まとめると野営訓練は現地に歩いて向かって、そこでテントを張って料理を作ったりして二晩晩すごすと」

「ものすごく簡潔にまとめるとそういうことになるね。実際は数百人単位で動くことになるからそう簡単なことじゃないと思う」

 

 何か含みを持たせて言ってきたカイルに対して、ルーカスは意味が分からずに首を傾げた。

 

「行軍訓練も兼ねているだろうから当たり前だと思うが、何か問題でもあるのか?」

「多分、ルーカスだからこそ分からないんだと思うけれど、私たち貴族が集団行動をしたことがあると思うのかい?」

「ああ~。つまりは、好き勝手に行動する奴らが出るお陰で、まともに進むことすらできないと?」

「それに加えてテント張りや料理だって当然のようにしたことがない。ルーカスにとっては『それだけ』のことかもしれないけれど、私たちにとってはまさしく訓練になるだろうね」


 考えてみればすぐに分かることだが、家の中で大事に育てられている貴族の子供たちが町の外に出て移動するなんてことはほとんど無い。

 あるとすれば、他領に向かう場合に護衛たちが用意したテントの中で過ごすくらいだが、それにしてもすべては周りにいる大人たちがやってくれることになる。

 ルーカスの感覚からすれば、そんなんで軍属になっても大丈夫なのかと思わなくもない。

 ただし親の爵位によっても変わって来るけれど、基本的に貴族の子供が軍属になった場合は何らかの役職が与えられることになるので、そうそう困ったことにはならないか――とカイルの話を聞いていたルーカスは考えた。

 

「あ~、ルーカス。ちょっといいか?」

「アルフ、どうかした?」

「多分ルーカスのことだから勘違いしていると思うが、俺たち平民もまともにテントなんか張ったことはないからな? 親の手伝いとかで料理はしたことがある奴はいるだろうが」

「えっ!? マジで?」

「マジマジ。というか、俺からすれば普段船乗りを名乗っているお前がテントを張れること自体不思議だからな? 冒険者ならともかく探索者は船での移動だからテントなんか張らないだろう」

「それはアルフの誤解……って、どうして皆もそんな顔をしているんだよ」


 周囲からの視線でクラスメイトがアルフと同じような感想を持っていると気付いたルーカスは、ここにきてようやく周囲と自分の持っている探索者のイメージの違いに気が付いた。

 彼らの反応を見て、確かに実際に探索者になってみなければ分からないことだと理解したルーカスは、さらに説明を続けた。

 

「分かってないみたいだから言うが、探索者もテントは張ったりするからな。というか、むしろそれが本職という奴もいるぞ?」

 あまりに探索者の認知が低すぎてため息交じりに言ったルーカスに対して、周囲は驚きを示していた。

「だって、そもそもを考えてみて欲しい。探索者が探索船で見つけた岩礁や島は、誰がどうやって調査すると思っているんだ?」

 ルーカスがどうしてそのことに気付かないのかという顔をして言うと、周りにいた者たちは「ああ」という顔になっていた。

 

 島の大小に関わらず、最初に調査する特権は見つけた者に与えられる。

 それは単に栄誉を与えられるという意味だけではなく、のちに国に譲渡する際に価値を誤魔化されないようにするためでもあるのだが。

 とにかく世界にあちこちに漂う資源を発見した探索者が第一に探索を行うのは、重要な要素といえる。

 その探索においてキャンプを張って調査をするということがざらにあるので、ルーカスの言う通り探索者であればテント張りは必須の技能といえる。

 

「ルーカスの言いたいことは分かったけれど、そもそもキャンプをしなければならないほど大きな浮遊物を見つけることなんて早々あるのかい?」

「それもちょっと認識が間違っているかな。むしろ小さい物ほどよく調べるんだよ」

「……何故? 見つけたものが小さかったらそれだけかかる時間が……ああ。そういうことか」

 

 最初はルーカスの言った意味に気付けなかったカイルだったが、すぐにその理由に気付いて納得したような顔になった。

 それはカイルだけではなく、数人のクラスメイトも同じような顔をしていた。

 ただし全員が気付けたわけでなく、むしろ大多数は未だに意味が分からないという顔になっている。

 

「簡単に言ってしまうと、大きな島を見つけた時はそれだけ調査に時間がかかることになる。ただもたもたと調査に時間をかけていると変な横やりが入るとも限らない」

「後から来たのに大まかな調査だけ済ませてしまって、国への報告を先に済ませてしまうということだね」

「そういうこと。勿論そんなことにはならないように、自分たち以外の船がないかとかも見ているわけ。ただそれだって完璧ではないからな」

「上陸もせずに調査を済ませたふりをして、島を発見したという報告だけをしてしまうこともあるのかな?」

「あるな。というか、今となっては昔はあったね――という話になるけれど。今だとそれなりに法も整っているから、ある程度の対策はされているかな」

「そうか。探索関連の法はやけに細かいと思っていたけれど、そういった事情があったんだね」


 特に土地持ち貴族の子供たちは、領地運営をしていくために王国の法律を学ばされることが多い。

 当たり前のように土地を持っている公爵家のカイルは、その辺りのこともぬかりなく勉強をしていた。

 カイルの言ったとおりに国外の探索に関する法律は他のものと比べると比較てき多く定められていて、何故だろうと首を傾げる者たちもそれなりの数いた。

 探索で見つける資源については、王国にとっては生命線ともなりえるので特に細かく決められているのだ。

 

「そういうこと。あと実はもう一つ事情があったりするな」

「もう一つ? 変な横やりが入らないようにする以外にかい?」

「そう。実は調査に掛ける時間は適度に小さな島ほど時間を掛けたりしているんだよ」

「……何故? 小さい島ならさほど時間はかからないんじゃないのかい?」

「本来ならそうなんだがな。実際の所、大きい島の場合に調査に時間がかかるのは国軍だって同じだ。早い話が全部の調査を終える前に、大体の見積もりを出してしまうんだよ。けれど、小さい島ほどそれが無くなるので、島を見つけた側も見落としがないか然りと調べるんだ」

「意味は分かったけれど、本末転倒な気もするね」

「見つけたのが小さな物であっても、中には希少金属があったりもするからな。生活が懸かっている分、必死にもなるさ」


 大きな島を見つけた場合はそれなりに纏まった額が入って来るので、探索者がそこまで綿密な調査をすることはない。

 逆に小さい島だとできる限りの多めの額を出してもらおうとするために、時間をかけて調査をしてから国軍に引き渡しを行うことになる。

 どれもこれも自分たちの生活の糧を得るために作り上げて来た知恵だけに、ルーカスの話を聞いていたクラスメイトは大いに納得してこの話を終えるのであった。




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m(__)m

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