(14)色々惑わされるクラスメイト

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 ルーカスの魔法の実力は既にAクラスでは周知の事実で、普段彼を避けている者たちでさえしっかりと認めている。

 ちなみにルーカスを避けているグループというのは初日に突っかかってきた貴族の子弟とその関係者たちで、今は直接の関りを持たないように立ち回っている。

 そのお陰と言っていいかは分からないが、クラス内がギスギスすることなく平穏無事な様子で日常を過ごすことができている。

 もともと三つあるグループのうち、ルーカスのいる平民グループとカロリーナ王女が纏めているグループの繋がりが強いということも影響しているかもしれない。

 もっとも初日に突っかかってきた者たちが所属している残りもう一つのグループも、明確に敵対しているわけではない。

 三つのグループの関係性はピンと張りつめた糸というよりも、時には柔軟に対応できるような緩やかさになっている。

 人が集まれば当然のように発生する『好き嫌い』はあるが、グループ内で上手く消化できているようにも見える。

 だからこそベルタのようなクラスにとっての異分子が紛れ込んできたとしても、特に大きな事態には発展することなく平常に近い空気感で事の成り行きが見守られていた。

 

 ベルタがAクラスに来たことによってもたらされたルーカスに関する情報は、良くも悪くもクラス内にいる貴族の子弟たちの行動に影響を与えることになった。

 なにしろ彼らがルーカスに対して持っていた印象は、魔法に関することはカイルをも上回り武技においてもトップを張れるほど。

 さらに王種を手に入れたあとは、彼自身が自由にできる島を開発したうえで王国にこれまでなかった利益を与えてくれる存在というものだった。

 要するにルーカスが持っている現在表に出ている情報しか知らなかったのが、ベルタとの会話で彼の過去話がもたらされることになったことで以前は注目していなかった部分に光が当たることになったわけだ。

 

 その『以前は注目していなかった部分』が何かといえば、探索者と冒険者についてのことだった。

 貴族からすれば、探索者や冒険者はごくまれに国から表彰されるような存在が出て来るものの、それ以外の多くはただの無頼者の集団でしかない――という認識しか持っていなかった。

 それがルーカスを鍛え上げるほどの実力を持った者が、それなりの数存在するとなれば話は変わって来る。

 早い話が彼らの実家に組み込んでしまって、力を得ることが出来ると考えるわけだ。

 

 良くも悪くもそれが貴族としての性質だということは、王国に暮らす者なら誰でも知っていることだ。

 そして当然ながら巻き込まれることになる探索者や冒険者もそのことは理解している。

 貴族に組み込まれること自体別に悪いことではなく、人によっては嬉々として仕えることを選ぶ者もいるはずだ。

 その逆もまた然りで、それを選べる立場にあるのが探索者や冒険者ともいえる。

 

 ルーカスとしてもそうした事情を知っているからこそ、敢えて彼らの情報を隠すつもりはない。

 知り合いの中には貴族に仕えることを目指している者もいるので、クラスメイトの誰かに聞かれればそれとなく名前を出すくらいのつもりもある。

 ただし貴族には貴族の矜持があるようで、ルーカスに直接聞いて来るクラスメイトはほとんどいなかった。

 たまにいたとしてもあくまで探索者や冒険者についての話だけを聞きたがり、個別の名前を聞き出そうとする者は皆無だった。

 

 そういうわけで、ベルタの突撃という珍事は起こったもののAクラス内は少しだけルーカスがクラスメイトから質問される時間が増えただけでいたって平穏な状態に戻った。

 ……のは間違いないのだが、それはあくまでもルーカスが主に関わっている部分であって、ここ数日クラス内では別の意味で落ち着きがない雰囲気になっていた。

 より細かく言うと、何をしていても上の空というか、別のことに気を取られているような状態がクラス内で続いているのだ。

 何故そんな状態になっているかといえば、中央の学校では全ての学年で行われることになる野営訓練が数日後に控えているためだった。

 

 この野営訓練は中央の学校の設立当初から行われている行事で、貴族や平民の区別なく全生徒が参加することになる。

 学年ごとにやることは変わるため野営を行う場所なども変わるのだが、全生徒が参加することには変わりない。

 ただし学年ごとに行われるといっても、一学年に三百人近くいるのでそれぞれの学年で三グループに分かれて行われることになる。

 それでも一グループごとに百人近い人数が一斉に動くことになるので、学校にとっても大規模イペントの一角に名を連ねている。

 

 とはいえ野営と名がついているだけあって、学校よりも離れた場所へ行ってキャンプだけしてくるわけではない。

 たとえ中空を移動する島であっても魔物が出現する世界だけあって、人が暮らしている町を離れれば何が起こるか分からない。

 ルーカスたちの一学年はこれまで実績を積んできた四学年の生徒と幾人かの護衛と同行することになるわけだが、それでも浮足立つのは仕方がない。

 平民にしても貴族にしても、多くは実戦を積む機会は無いため始めてのこの機会に平静でいることは難しいということになる。

 

「――うーん。見事に学校側の思惑に乗っているなあ……」

「学校の思惑? 俺にはルーカスの言いたいことが分からないんだが、どういうことだい?」

「どうもこうも。Aクラスであってもこれだけ落ち着きがないということは、他のクラスも同じことになっていると思わないか?」

「それはそうだろう? 何せ目前に野営訓練が迫っているんだ」


 何を言うんだと言わんばかりのアルフに対して、ルーカスは首を振りながら答えた。

 

「何故学校がわざわざ『訓練』と銘打っているのか考えると分からないか? 実際に野営をすることだけじゃなく、それまでの振る舞いも訓練のうちというわけだ」

「……つまりは、野営訓練を行うと発表されてから戻ってくるまでが訓練の一環だと?」

「俺はそう思うぞ。恐らくだが、俺たちと一緒に向かうことになっている四学年の先輩たちはそこまで浮かれてはいないんじゃないか?」

「それは……確かにありそうだ」

「だろ? 四年までの間に慣らされているということもあるだろうが……どっちにしても、初めてになる俺たち一年にとって普段通りにいられるかも重要なことだと思うな。といってもさすがに普段から一度に全生徒を見るのは無理だろうから、やっぱり重要になるのは当日の振る舞いだろうが」

「当日まではクラス全体の雰囲気を見ている……とかか?」

「そのくらいはあっても不思議ではないな」


 そもそも学校の教師たちは学生たちの普段の行いを見るのが当然なので、野営訓練だけが特別というわけではない。

 それでも普段にはない『訓練』が行われるまでの間の行動を見ているのは、恐らく間違いないだろうとルーカスは考えていた。

 

「中々に興味深い話をしているね」

 

 そんな会話をしていた二人の下に、カイルやエルッキが混ざってきたのはある意味当然だった。

 直接話に加わってきた二人ではなく、いつのまにか周りにいたクラスメイトも興味深げな視線を向けている。

 ルーカスの考察が合っているかどうかは分からないが、それでも自分たちが浮足立っているという自覚はあったのか何ともいえない空気になっていた。

 これに対してルーカスは、「野営訓練を楽しみに待つこと自体は別に悪いことじゃない」と一部言い訳をするハメになるのであった。




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