(13)訪問

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 ベルタから突撃されてから数日経ったある日。

 午前にある必修科目を終えてアルフやエルッキと雑談をしていたルーカスは、何故か現れたベルタと話をすることになった。


「――んで、お前はわざわざうちのクラスまで何をしに来たんだ?」

「あ~、ひどーい。まるで私が来るのが迷惑みたいじゃない」

 まさしく迷惑なんだがと思いつつも、ルーカスは自分の机の上に乗っている猫を撫でる手は止めなかった。

「迷惑……」

「そこまで真剣に悩むようなこと!? 対面するなりパルを取っておいてそれはないんじゃない?」

「それは、俺は知らん。猫に目の前で撫でろと催促されたら、撫でてあげるのは義務だ」

「あ、やっぱりそう思う? ……じゃなくて! パルも、なんでそんなにあっさりと陥落しているの!」

 

 口ではそんな文句を言いつつもパルに向けているベルタの視線は優しいので、本気で文句を言っているわけではない。

 もっともパルはパルでベルタのそんな本心を見抜いているのか、気持ちよさそうにルーカスから撫でられたままでいる。

 

 言うまでもなくルーカスが撫でている猫は、数日前にベルタが乗っていた星獣だ。

 星獣の不思議法則はしっかりとパルにも適応されていて、ベルタが校内にいる時には小型化をして着いて来ている。

 大きい姿と小さい姿のどちらがパルにとっての正しい姿なのかは、飼い主であるベルタにも分からないらしい。

 ルーカスからすれば、大きい姿も凛々しく小さい姿はかわいらしいのでどちらでもバッチ来いなのだが。

 

 いくら睨んでもどこ吹く風のパルを見て諦めたのか、ベルタは視線をルーカスに移して言った。

「――私がここまで来たのは、先生から直接本人に聞きなさいと言われたからね」

「……それだと断片過ぎて何のことか分からないんだが? まず何を先生に聞いて、そんな答えを貰ったんだ?」

「それよ! あなた何故Aクラスなんかにいるの。先生に聞いても不正はないって言っていたのよ」

「いや。それのどこが疑問か分からないんだが? きちんとお前と同じように入試を受けて勝ち取っただけだぞ?」

 

 ルーカスの言葉を聞いて周囲にいたクラスメイトが頷いていたが、何故かベルタは信じられないという顔をしていた。

 ベルタが何故そんな表情をするのか分からずに、ルーカスは意味が分からないと首を傾げていた。

 

「俺には何故それが疑問なのかが分からないんだが?」

「だって、その……私たちが儀式を受けた神殿って、あんな地域にあるでしょう?」

「自分たちが育った地区をあんな呼ばわりするのはどうかと思うが、言いたいことはわかる」


 二人揃って育った地域を貶めるような発言をしているが、別に二人が儀式を受けた神殿がある地域はスラム街のような場所ではなかった。

 ただ単に中央の学校には多くの貴族が通っているので、相対的に見れば劣っているように見えるというだけのことだ。

 付け加えると、ベルタはあの地域で育ったのであれば学力が低くなるのではないかと言いたいのだとルーカスは察していた。

 

「俺の親父は船の船長だったからな。船に関わる知識の計算と魔法学を勉強する時間は沢山あっただけだ。船の上にいると他の子供と遊ぶことなんてできないしな」

「……そうなの?」

「ああ。だから普通に歴史とかは点数が低かったぞ?」

「実技の点は高かったと聞いたわよ?」

「それはそうだろう。船乗りといっても探索者の方だからな。周りには鍛えてくれる兄さん姉さんはいくらでもいた」

「それは……良かったと言うべき?」

「それが分かってくれる同級生がいてくれるだけでもありがたいな。クラスメイトはいまいちよくわかっていないみたいだからな」


 ベルタから微妙に同情めいた視線を向けられたルーカスは、彼女が具体的に口にしなかったことを理解して頷き返した。

 貴族が多いこのクラスでは基本的に『荒くれもの』が多い船乗りのイメージがつけずらいらしいが、ベルタにはしっかりと伝わっていた。

 この辺りはさすがに同地区出身といえるため話が早い。

 ルーカスはベルタの両親が何をしているかまでは知らないが、少なくとも船乗りになるような人種がどういうものかは即イメージできるということは理解できた。

 

「それにしても、探索者の船長ねえ……。あなたの父親の名前は聞いてもいい?」

「別に隠すつもりはないからいいが。『疾風のごとく』のエルモだな」

 

 サクッと父親の名前を告げたルーカスだったが、告げられたベルタはガタッと盛大な音を立てて椅子から立ち上がった。

 ついでに右手の人差し指で思いっきりルーカスのことを指している。


「ちょっと待って! 疾風のエルモって本気!?」

「久しぶりにそういう反応を見れたな。そんなことで嘘を言ってどうする。それに、その反応が出来るということは俺のことも知っているんじゃないか?」

「知っているわよ! 知っているけれど……ハア。まさかあなたが噂の子だとは思わなかった」


 ため息混じりにそう言うベルタは、市中に出回っている噂を確実に知っていることを示していた。

 一声かければ王都にいる全ての探索者を動かすことが出来る『疾風のエルモ』とその子供であるルーカスの話は、探索者とそれに関わる仕事をしている者たちにとっては知っていて当然というレベルにまで広がっている。

 その噂のことを知ったルーカスは、噂が独り歩きするとそうなるのかと変なところで感心していた。

 さすがにエルモが全ての探索者を従えることなどできるとは思えないし、エルモのルーカスに対する色々な意味での溺愛ぶりは……少し大人しい気もするとルーカスは思っている。

 

 噂に正直すぎる反応を示したベルタに対して、周りにいたクラスメイトは一人を除いて不思議そうな顔をしている。

 貴族の耳に探索者の噂が入ることなど滅多にないだろうし、あったとしてもわざわざ子供たちに教えるようなことでもないので彼らがエルモの噂を知る事がないのは当然のことだろう。

 ただ一人だけ違う反応をしていたアルフは、大きい商会を運営している家に生まれているだけあって市井に流れる噂も知っているようだった。

 もっともアルフが入学初日にルーカスに接触したのは、その噂の片割れだと知ってのことではなかった。

 

「噂の子……。まあ、いいけれどな。それにその噂にある神童なんて所詮噂でしかないということは、この学校に来て分かっただろう?」

「そうだけれど……いや、私はあなたがそうだって今知ったのだけれど?」

「今知れたんだったらいいじゃないか。これからは噂に振り回されずに済むな」

「うーん……そう、なのかな?」


 いまいち釈然としないという顔をするベルタ。

 そんなベルタに割り込むように、傍で話を聞いていたエルッキが混ざってきた。


「ワイは噂のことは知らないが、ルーカスが神童なのはこのクラスの誰もが認めているはずだぞ?」

「えっ……!? そうなの? どういうこと?」

 エルッキの言葉を聞いて驚くベルタに対して、ルーカスが余計なことをという顔をした。

「どうもこうも、魔法に関して俺たち貴族の間で神童と言われ続けていたカイルと堂々と渡り合うどころか、戦闘に関しては一歩も譲らないルーカスが神童ではないとでも?」

「……何よ、それは?」

「何と言われてもな。さっきも言った通り、相手には事欠かなかったから必然的に使えるようになっただけだ」


 肩をすくめながらそう答えたルーカスだったが、それで済むわけがないだろうと教室内にいる誰もがそう考えるのであった。




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