(11)爆走少女
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ルーカス、エルッキ、アルフの三人は、午前の講義が全て終えて昼食を取るために食堂へ向かっていた。
四限目が終わってすぐに向かうと激混みすることは分かっているので、敢えて時間をずらしての移動をしている。
中央の学校では午後は比較的緩やかに講義が組まれているので、三人とも次まで時間の余裕がある。
ルーカスたちを含めた新入生たちもそうした時間の調整も慣れて来たころ合いなので、割と余裕を持って行動している生徒は多い。
貴族が利用することもある食堂だけに味はその辺にある町の食堂とは比べ物にならないので、ルーカスにとっては楽しみの一つとなっている。
三人で午前中までの講義のことについて話ながら向かっていると、突然ルーカスの襟元が後ろに向かって引っ張られた。
「うわっ!? ツクヨミ、いきなり後ろに引っ張るのは……って、何だあれ?」
引っ張られた張本人に注文をつけようと後ろを振り返ったルーカスだったが、視線の先に予想外のものを見つけて首を傾げることになった。
一緒にいたアルフやエルッキもつられるように後ろを確認して、同じものを発見している。
「……女子生徒がスカートのまま走っているのは珍しくはないけれど、星獣の上に乗ってというのは珍しいなあ」
「だな。というか、星獣を連れて歩く姿は珍しくないが、あれはいいのか?」
「エルッキ、良いわけがないだろう。星獣クラスは真っ先に教わっているはずだぞ。少なくとも俺が習った内容はそうだった」
「「だよなあ」」
ツクヨミがいることで星獣クラスの講義を受けているルーカスの言葉に、アルフとエルッキが当然だとばかりに頷いていた。
星獣持ちの生徒が自らの星獣を連れて歩く姿は珍しくはないのだが、大型の星獣を校内で連れ歩いていることは滅多にない。
基本的には獣舎のような星獣専用の建物が用意されているので、授業中はそこに留め置くことがほとんどだ。
ましてやその星獣に騎乗しながら校内を走り回るということは、ルーカスの言う通り普通ではありえない。
「……ん? アレ、こっちに向かってきていないか?」
「アルフもそう思うか? 俺たちというか、どう考えてもルーカスに向かってきているよな」
「言わないでくれ。考えないようにしていたんだから。というか、ツクヨミが注意を促してきている時点でほぼ間違いないんだろうな」
「星獣経由で何か知らされているのかもしれないな」
星獣同士の場合、人と違って言葉に寄らないコミュニケーションがとられているのではないかということは、一部の学者たちが学説を唱えている。
その真偽は分かっていないのだが、距離が離れていてもお互いの位置が確認できている仕草が見られてることがあるらしい。
「ん~…………。ツクヨミの様子を見る限りでは、さほど危険はなさそうな気もするけれどなあ……」
「……あれで?」
「あれはよくわからん。今の勢いだとすぐに着きそうだからここで待つか。周りにも迷惑だろうし」
「仕方ないな。というか、あの星獣の主は周りが見えていないのか?」
「どうだろうなあ。ただあんなことを堂々とするくらいだから見えていないんだろうなあ」
「ルーカスも難儀だな」
恐らく当事者であろうルーカスを余所に、アルフとエルッキが好き勝手なことを言っている。
そしてルーカス本人はといえば、二人の言う通り周りにかける迷惑を最小限にするためにその場で大人しく待つことにしていた。
どうせ降りかかってくることが確定している迷惑なら下手に先延ばしするよりもましだろうとの判断してのことだ。
ちなみに護衛も兼ねている藤花は、学業中ということでこの場にはいない。藤花がルーカスの傍に付き従うのは登下校の時くらいだ。
そうこうしているうちに非常識な相手はどんどんと近づいて来て、ついにルーカスの前で止まった。
ルーカスたちが気付いてからここまでで時間にすると数十秒といったところだった。
「――あなたがルーカスね! その星獣を見ればわかるわ!」
「ハア。いきなりの登場で……ん? どこかで見たような……?」
星獣に乗って近くまで来た少女の顔を見て、ルーカスは少しの間首を傾げて記憶を探るような顔をした。
そして数秒も経たずに、一年以内にあったことを思い出して手をポンと合わせた。
「――ああ、そうか。例の儀式のときに星獣を得た子か」
「そうよ! てか、名前くらい覚えていなさいよ! 私はしっかりと覚えていたわよ!」
「いや、無理を言うなよ。あの時、一緒に儀式を受けた子供が何人いると思っているんだ?」
ルーカスと少女の会話が予想外の方向に向かったことで、アルフとエルッキが同時に首を傾げていた。
ただその二人の会話が進んだことで、納得の表情が浮んでいた。
要するに今目の前にいる非常識な少女は、ルーカスがツクヨミを得た時に同じ神殿にいたのだと。
さらに今の様子を見れば、入学してから今までルーカスのことを探していたことは容易に想像ができる。
「あ、そういうことを言うんだ。だったらあなたのことを覚えている私はどうなるの?」
「知るか。それよりそんなことを言うためにここまで爆走してきたのか?」
「一言で終わらせないで。それから私の名前はベルタ! それに、別に爆走なんかしていないよ?」
「無自覚かよ。それよりもさっさと用件を言え」
校内で星獣を使って走り回ったことについては、問題があれば教師陣からお小言を喰らうことになるだろうと考えて、ルーカスはさっさと話を終わらせることにした。
それが不満だったのか、ベルタは少しだけ頬を膨らませて不満顔になっている。
「な~んか、体よく追い払われている? まあ、いいけれどね。――それより! 今まで探しても中々いなかったけれど、あなたどこで何をやっているの」
「……質問の意味が分からないんだが? 見ての通り学校で学生をやっているな」
「そういうことじゃない! あなたも星獣持ちなのに、何故星獣クラスにいないのよ」
「いや。ちゃんと在籍しているが? 俺たちは星獣クラスに出席するからこそ、学校に通えているんだろう」
「そうよ! なのに何故あなたは同じクラスにいないの。私、あなたが出席しているところ一度も見たことないよ」
「いや、俺はちゃんと出席して……ああ、そうか」
かみ合わない話に内心で首を傾げていたルーカスだったが、ようやく何の認識が食い違っているかに気が付いて納得した。
「多分勘違いしていると思うんだが、別に星獣クラスは同学年で一クラスだけじゃないからな。俺が知る限りでは三つはあるはずだ。お前とは別クラスなだけだろう」
「同じクラスが三つ? それ、本当?」
「そんなことで嘘をついてどうする。必修科目だってクラスごとに分かれているだろう。星獣クラスだって同じだ」
「そう言われるとそうなんだけれど……何故、あなたが同じクラスにいないのよ。同じ平民でしょ?」
「平民だろうが何だろうが、成績順で分かれているからだろう。俺とお前の成績が違うからクラスが分かれているだけだ」
「ふーん。そういうことなの」
新入生として学校に入ってからそれなりの日数が経つが、そんなこともわからないのかとルーカスは内心で疑問に考えていた。
ただ星獣を得ていることであまり成績を意識する必要がない平民の場合は、そういうこともあるかと納得できる部分もある。
話の内容はある程度まともなのに、ここに来るまでの非常識さで何となくベルタの行動様式をそう理解しつつあるルーカスなのであった。
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