(10)浮遊球の運営

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 一日の様々なことを終えたルーカスは、ソファの上に横たわってツクヨミと戯れていた。

 こうして一日の最後にツクヨミと戯れるのは日課のようになっていて、既にどちらにとっても必要な時間となっている。

 特に何か変わったことをしているわけではないが、触れ合っているだけでも『繋がっている』という感覚があるのでルーカスはこの時間を大切にしていた。

 余談だがルーカスとツクヨミの日々の戯れを見ることは、藤花の楽しみの一つとなっていたりする。

 端から見ていると子犬や子猫とじゃれ合っているようにも見えるので、気分的に和めるというのが理由だ。

 

 そんな藤花の癒しとなっていることなどつゆ知らず、ルーカスはツクヨミを撫でたりしていたがその途中でふといつもとは違う反応が起きたことに気がついた。

「――うん? これは……もしかして来るかな?」

「ツクヨミがどうかされましたか?」

「多分だけれど、浮遊石ができる……かな? いつもながらに唐突だね」

 二人は、そんな会話をしながらジッとツクヨミを見ていた。

 

 やがて細かくプルプルと震え出したツクヨミ。

 以前ならここで慌てていたルーカスだったが、今は落ち着いて見ている。

 ツクヨミの震えは時間にして数秒のことで、終わった次の一瞬だけライトをつけた時のようにパッと光った。

 そして、その光が出てからコンマ数秒後にはツクヨミの目の前に上下の長さが五センチほどの八面体の半透明な結晶が出来ていた。

 

「うん。問題はない……おや?」

「マスター、どうかされましたか?」

「いつもよりも色が濃い気がするな」

「見せてもらっても――確かに言われてみれば、そんな気もしますね」

 

 ツクヨミが作り出した浮遊石は、いつも何かしらの色がついている。

 何色がつくのかはその時々で変わっているので今のところさほど問題ではないのだが、その色自体が今回ほど濃くなっていることは無かった。

 ルーカスから浮遊石を受け取って確認していた藤花も同意したので間違いない。

 

「――思いつくことがあるとすれば、濃度が変わっているとかかな?」

「どうでしょう。詳しくは浮遊球に戻って確認しないと分かりませんが、それが事実だとありがたいですね」

「一個の浮遊石から得られるエネルギーが増えるとその分やれることが増えるからな。――と、過度に期待するのは止めておこうか。あとでガッカリしても仕方ないし」

「確かに。その通りですね」


 ツクヨミの浮遊石作成能力については、未だに分からないことが多々ある。

 下手に期待しすぎて『捕らぬ狸の皮算用』になっても仕方ないので、多少の余裕を持って浮遊球の運用に回している。

 

 浮遊球は浮遊石から得られるエネルギーで動いているが、当然ながら内部にあるエネルギーの量によって出来ることが変わって来る。

 ルーカスは適当に『レベルアップ』と呼んでいるが、エネルギーの量が一定数を超えると使える技術や武装が大きく変わる。

 浮遊球自体の装備が増えるということは、扱える島の大きさも変わって来るのでいいこと尽くめであることには間違いない。

 ただしレベルを上げると定期的に外部から与えるエネルギーも必要になって来るので、今のところは見送っているのが現状だったりする。

 

「浮遊球自体の拡大か」

「どうかなさいましたか?」

「いや。正直にいえば、あまり必要ないかなとも思っているかな。……藤花たちのことを考えなければ、だけれど」

「確かにその通りですね。中継島自体も始まったばかりですので、安定するまで不必要に拡大する理由がありません」

「なんだ。そこは否定せずに同意するんだな」

「ここで無理強いをしても意味がありませんから。それに私たち自身も焦って仲間を増やしていくつもりはありません。増えていればいいと考えているだけです」

「それが問題といえば問題なんだろうけれどね。拡大に見合った増やし方をしていかないと、どこかから隙を突かれそうだ」

「ええ。それは間違いないでしょう。私たちも同類ではありますが、お友達というわけでもありません。人と同じで時と場合によっては争うこともありますよ」

「そこが一番の課題なんだよなあ……。適度に実るのを待ってから刈り取られるなんてことも普通にあるだろうし」


 浮遊球同士の戦いは滅多にないこと――とされているが、実際にはそんなことはない。

 以前からルーカスたちが警戒していたように、生まれたばかりの浮遊球が昔ながらの浮遊球に喰われるということは良く起こる。

 その際に管理者たちがどうなるかといえば、ルーカスのようなマスターの考え方次第ということになる。

 そっくりそのまま吸収されればそれでいいのだが、実際には必要なエネルギーだけ回収して管理者たちはお払い箱なんてこともあり得る。

 

 ルーカスは勿論のこと管理者たちもそのことを理解しているので、安易に他の浮遊球に近づこうとすることはしない。

 唯一の例外は『親』の浮遊球となるガルドボーデンの浮遊球だが、あちらは管理者と王家の繋がりが切れているのでそこまで警戒する必要はない。

 というよりも、ルーカスたちが仲立ちする形で繋ぎを取っているのが現状なので、下手に手出しすることが出来ないといったところだ。

 少なくともあちらの管理者たちと王家の繋がりが強くならない限りは、ルーカスたちにとっては脅威とはならないと考えている。

 

「少なくともリチャード国王がトップにいる限りは心配ないと思う。問題は次代に変わった時だけれど……どうかな?」

「どうでしょうか。意図してかはわかりませんが、こちらとの接触はあまりありませんから。敢えて次々代と接触させているようにも見えます」

「ああ。それは間違いないな。俺と年が近いからということもあるんだろうな。今と次の代でいきなり方針が変わるなんてことはないと思うけれど、周辺がなあ」

「周辺からの献策によって王の意見が変わるとお考えですか?」

「こればっかりは分からないとしか言いようがないなあ……。特に代替わりしたばかりの時は、政情が不安定になるだろうからな。周辺に対して強気に出て来ることもあり得る」

「そうですね。注意しておきます」

 

 ガルドボーデン王国は、今のところ国全体として中継島に対して強硬策は取って来ていない。

 とはいえ国家という様々な意見がある集団であるために、一部で力で従えるという意見を持っている者たちも存在している。

 そのこと自体は、あって当然だとルーカスや管理者たちも考えている。

 ルーカスたちにとって重要なのは、その強硬派たちが勢力を巻き返してきた時に浮遊島としてどう対処していくかということになる。

 

「リチャード国王も健康に不安があるというわけじゃないから、すぐに代替わりがあるとも思えないけれどな。……そういえば、以前も意図的に代替わりしたことがあったな」

「そのようなことが……言われてみれば有りましたね」

「政治的にとか当代の王の我がままとか、理由は様々だけれど全くなかったわけじゃない。となると今代も絶対にありえないとは言えないよな」

「……すぐに検討させます」

「その方がいいな。とはいえ今は島を落ち着かせることの方が優先だな」

「それは承知しております。忙しい外務はともかく、内務には余裕がありそうなのでそちらに検討してもらうくらいは出来るでしょう」

「そう。そういうことなら任せるよ」


 ルーカスが決めるのは島の運営の大枠だけで、細かいことは管理者たちがやっている。

 交渉なんかはともかくとして政治関係はド素人と分かっているので、大枠だけを決めて細かいことは丸投げしているのであった。




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m(__)m

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