(9)カイルの方針

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 議論の参加者たちを見事に上げて落したルーカスとカイルだったが、こればかりは仕方のないことである。

 王都……どころか、各国にいる研究者たちが未だに出せていない結論を、学生であるルーカスたちが出せるはずもない。

 さらにいえば、ルーカス自身はもう一歩踏み込んだ考え方を持っていたりもするが、敢えて口にする必要性も感じていない。

 恐らくカイルも同じようなことをしているので、別に後ろめたく感じることもなかった。

 自分の持つ情報を秘匿することが当たり前の世界で生きているので、それが当然のことでもある。

 もしルーカスやカイルが、研究によって得た情報で生活をしている研究者なら出し惜しみもしないだろう。

 多くの魔法使いは大なり小なり自分なりの考え方を持って魔法を使っているので、情報の秘匿は普通に行われる。

 自分の持っているどの情報を公にするかは、あくまでもそれぞれ個人個人のさじ加減によって決められている。

 

「――細かいところで自分なりの情報を秘匿しておくことは、あっちの世界でもあったからな」

「うん? ルーカス、何か言った?」

「いや、何でもないよ。そういえば、カイルは魔法関係の講義は受けないのか?」

「魔法かあ……。別に苦手意識を持っているわけじゃないが、どうせだったら剣技を伸ばす方に時間を使いたいかな」

「ああ。そういう理由か」

「……随分あっさりとしているな。勿体ないとか言って来るかと思った」

「そう言って来るということは、周りにいる誰かに言われたのか? まあ、どっちにしても本人のやる気がなければ伸びないから無理に勧めても意味はないだろうしな」

「はあ。ルーカスらしいといえばらしいか。直接言ってきたのは兄さんだが、両親もそう思っている節はあるなあ」

「なるほどね。それなら納得かな。むしろその面子が言わないなら誰が言うのかともいえるか」


 子供の進路について色々と口を出せるのは、家族の特権といっても過言ではない。

 過剰に勧めたり強制するのはもってのほかだが、口うるさいと思われるくらいには意見を言った方がいい。……たとえ当人がウザいと考えていたとしても。

 年長者の意見がすべて正しいとは言わないが、曲がりなりにも年を経て経験したことを踏まえて助言している場合が多いので何かしらの的を得た意見を言っていることが多い。

 その上で話を聞いた本人が別の道を進むならそれはそれで構わないのだが、少しでも耳を傾ける必要はある。――というのがルーカスの考え方だ。

 

 ガルドボーデン王国内の比較的裕福な家庭になると、幼少期には剣技と魔法は両方身に着けさせることが普通になっている。

 どちらかに才能が突き抜けているなら話は別だが、子供の時に両方を教えておけば成長した時に選択の幅が広がるからという理由がある。

 その考え方に基づいてカイルもしっかりと育てられたわけで、剣技と魔法どちらも使えるようになっている。

 問題なのは、中央の学校のAクラスに入れるほどにが使えるようになっていることだ。

 

「正直なことをいうと、剣を優先するのはそっちの方がやってて面白いからという理由なんだよな」

「なるほどね。別にそれならそれでいいんじゃないか? より楽しい方を選択したほうが身につきやすいだろし」

「うん。……なんだけれど、魔法は魔法で習うのが楽しいと感じているのも確かなんだ。我ながら我がままだと思うけれどな」

「いや。我がままとは思わないぞ。何だったら両方続ければいいだろうし。どっちつかずになったらなったで、自分が選択したからと後悔は……するかもしれないけれど誰かに言われてやるよりもましだろ。俺も同じだし」


 ルーカスの場合は、魔法を主として近接防御用にショートソードを使っている。

 船乗りたちから色々と教わった結果たどり着いた道だが、端から見れば二兎を追っているように見られても仕方ないと思っている。

 当人からすれば好きなことを好きなようにやっているだけなので、他人からどういわれようと気にするつもりはない。

 ちなみに育ての親エルモは、基本的に放任主義なところがあるのでルーカスの好きなようにやらせているのが現状だ。

 

「――やりたいようにやった結果、いつかは壁にぶつかる。その壁を越えることが出来れば良し、出来なかったとしても……まあ、それはそれで自分の選んだ結果だと納得するしかないだろうな」

「ああ~。やっぱりルーカスも父さんと同じようなことを言うんだな。同じ年のはずなのに、年寄りから話を聞いているみたいだ」

「失敬な。俺はカイルと同じ年……のはずだぞ」

「そこは断言しないんだな」


 ルーカスが捨て子だったことは、既にカイルも知っていた。

 もっとも本当の意味で『捨てられた子』だったのかは、今となってはルーカス自身が疑問に思っている。

 もしかすると例の儀式で子供たちに能力を与えている『何かしらの存在』が、ルーカスという存在自体を用意したのではないかと。

 あるいは自体が、新たな浮遊島を生み出すために行っている自然現象……のようなものなのかもしれない――そういう疑念が生まれている。

 

「育ちが育ちだから仕方ない。それに恵まれたことに、カイルやエルッキは気にしないだろう?」

「それは当然。俺としては過去のことよりも今の方が大事だからな」

「そう言ってくれるからありがたいよ。なんだかんだいって、こだわり続ける奴はそれなりの数いるからな」

「そうなのか? そんなことを気にしたって……いや、そんなこと俺がどうこう言ったところで意味がないか」


 生まれや育ちを突いて来るような人種は、他人がどうこう言ったところでそうそう考えを変えることはない。

 そのことを良く知っているカイルは、無駄に怒っても仕方ないと肩をすくめていた。

 実際意味がないかどうかは人それぞれとしか言いようがないが、変に関わって時間を費やすよりも別の方向で使った方がいいというのがカイルの考え方だ。

 それはルーカスも同意できることだったので、敢えて何も言わすに頷き返していた。

 

「――まあ、俺の生い立ちはどうでもいいさ。それよりもカイルの悩みの方が今は重要だろ?」

「いや、別に悩みというほど考えんでいるわけじゃないけれど……でも、確かに少し考え直してみるかな」

「それが良いと思う。それに、実技はともかくとして理論の方は講義を取ったんだろう?」

「ああ。魔法の勉強は嫌いじゃないからな。単位として取れるかどうかは別として、講義に出ること自体は無駄にならないだろう?」

「そこまで考えているんだったらこれ以上何か言うつもりはないな。もっとも、単位がいらないということ自体は他の生徒からすれば羨ましいと思われるだろうな」

「ルーカスからそんなことを言われるとは思わなかったな。学年十位が」

「三位以内ならともかく、十位だと微妙じゃないか?」

 

 何とも言えない顔をしながらそう言ったルーカスに対して、カイルも「確かに」といって笑っていた。

 そもそもAクラスに入っている時点で学校内にいる同学年の生徒たちからすれば文字通り『トップクラス』なのだが、当人たちは冗談の種の一つでしかなかった。

 これは別にルーカスやカイルだけの考え方ではなく、Aクラスに在籍している生徒たちのほとんどが同じ考え方をしている。

 身分も学力も全てにおいて上がいると知れば、そういう考え方が根付くのも当たり前なのかもしれない。

 だからといってそれを妬むことをしたりせず、今以上に自分たちの様々な能力を伸ばして行こうと考えられるのは、やはり優秀な生徒たちだといえるだろう。




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m(__)m

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