(8)環境

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「――それで? この状況は何なんだ?」

 とある教室に集まっている面々を見て、ルーカスが思わずエルッキを半眼で見た。

「ワイに文句をいうな。ちょっと工芸クラスで魔法のトップ二人が話をするって口を滑らせただけだ」

「うん。完全にエルッキの仕業だな」

 エルッキの答えを聞いたルーカスが、ため息混じりにそう応じた。

 ルーカスと一緒に借りた教室に来ていたアルフは、完全に面白がって声を上げて笑っている。

 

 教室内にはルーカスたち三人のほかに、今回のもう一人の主役(?)であるカイルとカロリーナ、その二人が連れて来た護衛兼近習役の二人がいる。

 そこまではいいのだが、それ以外にも同学年らしき生徒たちがいて総勢二十名ほどが教室内に集まっていたのだ。

 他の誰かが来ることは想定していたルーカスだったが、さすがにこの人数は予想外だった。

 カイルはこの光景を見た瞬間に少し驚いてから苦笑いをしていたので、カイルと同じようなことを考えていたようだ。

 

「まあ、いいじゃねーか。別に人がたくさんいるからって喋れない内容じゃないだろう?」

「それはそうだけれど。――カイルはいいのか?」

「別に構わないよ。というか、ここで追い返したら完全にこっちが悪者だろう。隠すつもりもないからいいよ」

「カイルが良いんならこのままでも別にいいか。折角だから皆の意見も聞いてみたいしな」


 別に独占するつもりのある情報を話すわけでもないので、参加者が多くなったからといっても問題はないとルーカスは判断した。

 むしろ色々な角度から意見が聞けるようになるかも知れないと期待できることもある。

 ただこの場に集まっているのはあくまでも一学年生のため、そこまで突っ込んだ意見が聞けるかどうかは未知数なところがある。

 それはそれで別に構わないので、どうせだったらそのつもりで議論を深めようと折角なので、先ほどの講義でカイルと話をした内容を前提に話を進めることにした。

 

「――というわけで、魔法戦の講義ではカイルとこんな話をしたわけだが、付与の場合はどうなるのかという話だな。カイル」

「そうだね。ただ付与といっても『物』と『人のように動いているもの』だったり、『戦闘中』や『作業中』でも違いがあるかな」

「俺もそう思う。というわけで、結論を言ってしまえばそんなものは一概に決めつけることなんかできない。……ということになってしまうわけだ」


 さすがに今話した内容は集まった生徒たちも理解しているのか、一様に頷いていた。

 一言で付与といっても、その種類には様々なものがある。

 状況によっても掛ける付与は変わって来るので、何が正解かなど決めつけることなどできないということになる。

 とはいえそこで終わってしまうとこの場に集まった意味が無くなってしまうので、ルーカスはちょっとした条件を付けて話すことにした。

 

「こんなことは偉い学者さんたちも言っているわけで、ここで話す意味はない。――というわけで、折角だから条件付けをして話してようと思う」

「条件付け? どういうことだ?」

「エルッキ。お前が集めて来た彼らは、将来色んな工房で作業することになる奴らだろう?」

「……なるほど。室内で作業している場合にと条件を限って考えるわけか」

  

 ルーカスの言いたいことがすぐに理解できたのか、エルッキが納得した顔で頷いていた。

 周りにいた工芸クラスの生徒たちも、そういうことならと何やら色々と考え始めているようだった。

 

「フフフ。やっぱりルーカスは面白いね。どうやったらそんな発想が出来るんだい? そんなことを考えている学者はいないんじゃないかな」

「カイル、さすがにそれはほめ過ぎだ。この程度のことを考えている人はいくらでもいるだろう。それに船という狭く限定された空間にいれば、誰でも思いつけると思うぞ」

「なるほどね。それがルーカスの発想の源になっているわけだね。研究室とか工房だって狭い空間だと考えれば似たような条件だといえるわけか」

「そういうこと。そういうわけだから、そこから話を進めてみようか」


 工房に限らず戦闘中のように激しく動き回らないという前提条件を付ければ、かなり限られた条件になるため話もしやすくなる。

 何人かの生徒は既に何かを思いついているような顔になっているため、ルーカスは彼らに話をするように振ってみた。

 すると以前から考えていたことがあるのかは分からないが、ルーカスに答えるように次々と思い付きや考えが話題に上がって行く。

 呼びかけ人であるエルッキもこの状況を面白いと考えているのか、積極的に話に参加していた。

 

「――うん。この辺で一回区切ってみようか。なんだかんだそれぞれ個人で考えを持っていて、話に収拾がつかなくなりそうだからな」

「そうだね。個人的に付与をしてモノづくりをしている人から話を聞けたのはかなり貴重だと思うよ」

「カイルもそう思うよね。やっぱり直接関わっている人の意見を聞けるのはいいことだな。――それはいいとして、簡潔にまとめてみようか」

「ルーカスよ。『簡潔に』といっても、結構言いたい放題だったからまとめるのは大変じゃないか?」


 エルッキの言葉に周囲も同意する様子を見せたが、ルーカスは首を左右に振った。

 

「そんなことはないさ。自分自身の経験からそれぞれに意見が出て来るということは、それだけで一つのまとめになる」

「それだともう既に答えは出ているじゃないか」

「『結局個人の能力に左右される』って? それもありだとは思うけれど、もうちょっと踏み込んでみたいな。――というわけでカイル、よろしく」

「ここで私に振るのか。別にいいけれどね。個人の能力によるというのは、付与に限らず魔法……だけじゃなくて剣なんかの全ての技術に言えることなのでまとめているとは言えないよね」


 そう前置きをしたカイルは、それぞれの生徒たちが上げていた意見を一つ一つ上げて次のようにまとめて行った。

 まず前提として個々の育った環境などによって、得意不得意の属性が分かれているということ。

 その得意不得意な属性というのは、相対的に見て相性が悪いとされている属性で分かれてしまっていることが多い。

 その結果として素材や道具そのものに付与をする際に『相性の悪さ』が作用するのではないか――そういうことだった。

 

 それらのまとめを聞いたエルッキが腕を組みながら唸っていた。

「――なるほど。結局は作り手側の『思い込み』で相性が発生しているといいたいわけだな」

「いや。思い込みというよりも利き手ならぬ利き属性みたいなものじゃないか? とにかく、これは画期的だぞ!」

 一人の生徒がそう声を上げると、周りの生徒たちは少し興奮気味に盛り上がった。

 ……のだが、その盛り上げをルーカスが苦笑しながら手を上げて止めた。

 

「うん、まあ。皆が盛り上がっているところ悪いけれどな。カイルは分かって言っていると思うが、これだと結局『付与に相性は存在するのか』という問いには答えてないんだよな」

「まあね。理由がどうあれ得意不得意があることは紛れもない事実だ。だったら得意な属性を伸ばすのに時間を使うのか、敢えて不得意な属性を使えるようにするのか。これって結局のところ環境と作り手の能力に作用されるという結論と違いがなにと言えるよね?」


 二人が模擬戦の時に出した結論と似たようなことを言い出したカイルに、周囲の熱気は一気に冷めて行った。

 要するに肝心なことは分からないという結論になっただけに、そうなってしまうのも仕方がない。

 それを一歩引いたところから見ていたアルフやカロリーナは、見事に踊らされた生徒たちを見てルーカスとカイルに魔法の議論を吹っ掛けるのは止めておこうと改めて決意するのであった。




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