(7)模擬戦の合間に

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 ルーカスとカイルが他の生徒たちの模擬戦を見守っていると、時間が経つにつれて戦いを止めるものがぽつぽつと出て来た。

 体力と魔力の限界を迎えたのだろうが、量も質も先ほどの二人の戦いとは比べ物にならない。

 それでも戦った生徒たちはそれぞれに満足のいくものだったのか、笑顔がこぼれている者も多かった。

 ただし一部には納得のいかない顔をしている者もいたので、全員が全員実力を発揮できたというわけではなさそうだ。

 もっとも生死がかかっている魔物との戦闘において実力を発揮できなかったという言い訳は通用しないので、常に実力を出せるようにしておくことこそが大事だというのがルーカスの考えだったりする。

 勿論そんなことを言ってわざわざ煽るつもりはないので、黙ったまま見ているだけだったが。

 

 そんな中でもまだ模擬戦を続けている生徒もいたのだが、既にルーカスとカイルの話題は魔法理論へと移っていた。

「――ルーカスは魔法の属性の相性についてどう考えているのかな?」

「相性? どうだろうな。それこそ時と場合によるとしか言いようがないけれど、カイルが聞きたいのはそういうことじゃないんだろ?」

「確かにね。いや、この場合は色んな意味で『確かに』だね。そもそも相性問題はお互いの実力が拮抗している場合という限定された条件に限っての話だからだろう?」

「そういうこと。実力が一緒だったとしても得意不得意な属性があるからな。そんな状態で戦った時に相性がどうのと気にする方が間違っているからな」

「本当にそうだね。そう考えると、理論としては正しかったとしても実戦ではあまり意味がないともいえるのかな」


 この世界でも、火が水に弱かったりと属性によって強い弱いは存在している。

 ただ得意不得意はあっても使えない属性はないとされているので、相性を考えて敢えて不得意な属性を訓練することもある。

 それが良いか悪いかも議論の的になったりするのだが、これも答えの出ない設問として過去から今に至るまで専門家が喧々諤々の議論を繰り広げている。

 ルーカスの考えとしては、結局は本人の性格次第ではないかと思っている。

 

「――本人のやる気が続けば苦手属性も訓練する意味があるなあ……。でも数か月結果が出ずに諦めてしまうような性格なら、その時間を使って得意属性を伸ばしたほうがいいんじゃないか?」

「なるほどね。私なんかは、色々使えるようになった方が面白いと考えるから苦手属性の訓練も苦にならないからな」

「俺も同じ。俺は長いこと訓練をしてようやく使えるようになった時に得られる達成感が好きだな。もっともこんなことを言えるのは、それだけ魔法の訓練に時間をかけることが出来ていたともいえるか」

「今後は色々と時間をやりくりして行かないと駄目だろうねえ……」


 ひょんなことで現実に引き戻された二人は、同時に小さなため息を吐いていた。

 学校を卒業すれば忙しくなることが確定している二人は、気軽に魔法の勉強や研究をする時間などなくなってしまう。

 ルーカスに関してはすべてを管理者に任せてしまう手も無くはないのだが、当人にそんな無責任な真似をするつもりがない。

 今のところ表向きには中継島の運営で忙しいということを理由にしてあまり派手には動いていないのも、先のことを色々と考えているためでもある。

 

「まあ、いいか。どんな業界に入るにせよ、社会に出れば時間が無くなるのは同じだろうしな」

「確かにそれもそうだね。――っと。あれは……エルッキが近づいて来るね」

「来るねえ。何やら楽しそうな顔になっているけれど……あれは、何か面白い物でも見つけた顔かな?」


 ルーカスが知る世界では中学生になったばかりの子供二人がやや年よりくさい会話をしていると、先ほど評価をしていたエルッキが何人かの知り合いを引き連れて近づいて来ていた。

 示し合わせてきたわけではないことは、中にカイルの知り合いが混じっていることから察することが出来た。

 

「おーいおい。注目の二人が揃って何の悪だくみをしているんだ?」

「悪だくみとは人聞きの悪い。ちょっとばかり仲間たちクラスメイトの魔法を見ていただけだ」

「ほーう。ワイはてっきり俺たちをダシにして、品定めをしていると思ったんだがな」

「うむ。それも間違ってはいないな」

「『うむ』じゃねーよ。しかもルーカスだけじゃなく、カイルもはっきり頷くな! 隠すつもりがないのか!?」

「隠す意味がないだろう? そもそも私……というよりも公爵家に引き立ててもらおうと張り切っているのは、見れば分かる事だからね」


 結局の所どっちもどっちだと主張するカイルに、エルッキは大げさに肩をすくめるだけで留めていた。

 生徒の中にはカイルと同じように貴族家は家業の跡取りとなる者もいるので全員が全員そうだとは限らないのだが、否定できる材料もないだけに反論しても意味がないと分かっている。

 

「……まあ、いいか。それよりも魔法理論でも優等生な二人に聞きたかったことがあるんだが、いいか?」

「おや。工芸系では右に出る者がないほどの知識が誇る君が、何を聞きたいんだい?」

「止めようや。カイルにそんなことを言われると、むず痒くなってくる。そんなことよりも、ちょっと付与系の話が聞きたくってな」

「付与系か。エルッキらしいといえばらしいが……加工段階での付与はお前の方が詳しいんじゃないか?」

「良く言うぜ。ワイはルーカスの知識が突き抜けていることを知っているから、そんなことを言われても無意味だぞ」


 エルッキの言葉にカイルが『そうなのかい?』という感じの表情になったていたが、ルーカス当人は曖昧な笑みを浮かべるだけで誤魔化していた。

 スキップテストの時にエルッキにはばれているので隠すつもりなどないが、何となく流れでそんな気分になっただけの行動だ。

 エルッキの周りで話を聞いてた生徒たちも、興味津々で二人のやり取りを見ている。


「俺は知りません、なんて顔をしても無意味だからな? ……ったく。それよりも属性の相性に関する話をしていたと聞いたんだが?」

「属性の相性? 確かに少しだけ話はしていたけれど、あくまでも戦闘に限った話だよ?」

「ああ。それは知っている。だがカイルだって付与のことを全く知らないわけじゃないだろう? 折角だから話を聞いてみたかったんだよ」

「それはいいけれど……ルーカスの話は聞かなくてもいいのかい?」

「勿論聞くぞ。こら、ルーカス。お前もいつまでそっぽを向いているんだ。無駄だって分かっているだろう?」

「はいはい。わかったよ。ただその話はあとにしような。先生がこっちを向いて何かを言いたそうにしているから、そろそろちゃんと模擬戦に戻ろうな」

「……仕方ない。確かに授業と関係のない話はいつまでもできないか」


 そう言葉を残したエルッキは、先ほどの場所まで戻って模擬戦を行うための相手を探し始めた。


「やれやれ。私が言うのもなんだけれど、彼も中々個性的だね。アークラ家のことは噂に聞いていたけれど、技術に関わる話には敏感なようだね」

「あれを敏感と言って簡単に済ませて良いかは意見が分かれるだろうが……まあ、引き際は心得ているはずだから後で話に付き合ってやればいいだろうな」

「そうかい? 彼のことについては私よりも詳しいだろうから、君の言うとおりにしておくよ」

「言われるほど詳しいわけではないけれどな。この学校で出会ったのはカイルと同じなんだから、あまり変わらないと思うぞ?」


 そんなことを答えつつも、何だかんだでエルッキとの付き合いが深くなりつつあることを自覚しているルーカスであった。




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