(6)魔法の講義(戦闘)
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中央の学校にある練武場は、名前こそ練「武」場となっているが魔法の訓練ができるように結界で覆われている。
その練武場に、魔法を利用した戦闘訓練をするためにルーカスと同学年の生徒たちが五十人ほど集まっていた。
魔法を得意とする者だけが集まって受ける講義のため半数ほどのクラスメイトの顔が見えず、その代わりにBクラス以下の生徒が来ている。
入試の時の実力を参考にしてクラスわけがされているため、実質このグループが一学年ではトップクラスの実力者が集まっているといえる。
基本的に魔法を戦闘で使える実力になるにはそれなりの訓練期間が必要になるため、多くは家庭教師などが付けられる貴族の子供たちが集まっている。
そんな中にルーカスがいるのは不思議とも思える光景だが、小さい時から船に乗りながら魔法を学んできたのでむしろこの場にいる誰よりも真摯に魔法を学んできたともいえる。
少なくともルーカスの魔法の実力に関しては、しっかりと一から学んできた結果なのでそれ自体をチートとは言えないだろう。
ただ大人として生きて来た記憶があるので、チートではなく普通の子供たちと違うとはいえるかもしれない。
魔法に関しては男女の違いはないとされているので、グループ分けも大きな偏りはない。
ただ少しだけ女子の方が多くいるが、それは単に上から振り分けた結果多くなっただけだ。
それにやはり武器を使った戦闘は男子が多くなるので、その反動で魔法は女子が多く傾向はある。
ただ武器も魔法も両方学びたいという生徒もそれなりの数いるので、結果として女子のほうが少しだけ多くなっているようだ。
そんな学生たちは今、一つの試合場で行われている魔法模擬戦に注目していた。
その模擬戦を行っているのは、先日ひょんなことから縁ができたルーカスとカイルだった。
講義が始まるなり教師の呼びかけで、このグループのトップ2だと紹介された二人が模擬戦を行うことになったのだ。
そしてその二人の戦いぶりを見て、集まった生徒たちは確かにルーカスとカイルには実力があると認めざるを得ないと実感していた。
「――いやいや。君が実力者だということは聞いていたけれど、本当に平民なのかい? いや、決して平民を馬鹿にするつもりはないんだが」
「普通の平民の子供は、親の手伝いをするのが当たり前で魔法の勉強をする機会なんてないからなあ。そう言いたくなるのも分かる。俺の場合は例外中の例外だな。船にいるときが長かったから時間だけはたっぷりあったんだ」
「普通は揺れる船の中で勉強なんて無理だと思うんだけれどねっ!?」
「何を言っているんだ。そんなことを言ったら、そもそも探索者や冒険者に魔法使いなんていないということになるぞ」
会話の内容だけを聞いていればルーカスの実力に感心するカイルという構図だけが見えるが、実際はこれらの会話を行いながら魔法を打ち合っているため他の生徒たちは呆れたり息を飲んだりと忙しく状況を見守っていた。
魔法を打ち合っている当人たちは、既にお互いが本気を出していないと理解しつつも今のこの場が講義の最中ということでそれなりの魔法を使いあっていた。
そのことに気づいている教師は呆れの視線を二人に送っていたが、周りにいる生徒たちの中でそれに気づいているのは数人程度しかいなかった。
そもそも二人が使っているのは中級魔法が中心で上級魔法は十数回に一回程度なので、それだけ取ってみても二人にとっては実力を発揮していないといえる。
ただ多くの生徒は戦闘中に上級魔法を自在に扱えるような実力はないので、二人のやっていることは文字通りけた違いだということがわかる。
生徒の中には地元で「天才」と呼ばれて多少自惚れている者もいたが、この光景を見て自信が木端微塵になっていたりする。
「――ところで、ルーカスはオリジナルの魔法が使えるらしいと聞いているけれど、本当のことかい?」
「本当のことだな。今は『授業』で使う意味がないから使っていないけれど」
「なるほどね。先生、そういうことです。これ以上続けても意味はないと考えますが、いかがでしょうか?」
「あ、ああ。確かにそうだな。この辺りで止めておこうか」
ピタリと魔法を打つのをやめて聞いてきたカイルに、若干慌てた様子で魔法教師も同意してきた。
教師の目的としては上には上がいると集まった生徒たちに見せることだったので、確かにこれ以上見せる意味はない。
思っていた以上に盛り上がっていたので教師自身も熱中して見てしまって、ついつい止めるのを忘れてしまっただけのことだ。
「――おう、お前ら。このまま適当に相手を見つけて魔法の打ち合いでもするように。一応言っておくが、相手に怪我をさせるのは駄目だからな。もしくだらない真似をするようなことがあれば……どうなるかは分かっているだろう?」
若干脅しが入っている言葉も飛び出してきたが、それだけ魔法が危険ということでもある。
それなら対人戦の訓練などするなと言われそうではあるが、そもそも魔法が戦いの道具の一つでもある以上は仕方のことではある。
ちなみに教師が気楽に戦闘訓練を促しているのは、生徒たちが使える魔法がそこまでの大けがをさせるようなものではないと分かっているからだ。
ルーカスやカイルが例外中の例外という扱いになっていることも、これだけで分かることだ。
そんな教師は、生徒たちが散り散りに散って魔法を使い始めるのを確認してからルーカスとカイルを見て言った。
「さて。問題はお前たちだが……どうする? はっきりいえば、このままこのクラスに居続けてもお前らには意味がないぞ? 何だったら上のクラスに移動してもらってもいいが……そのつもりがあればスキップを使っているだろうしな」
「そうですね。先生が仰る通り、スキップするつもりがあるならそうしていました。私は見るべきものがあるのでこのまま居続けようと思います」
カイルがそう言うとルーカスも同意するように頷いた。
「私も同意見です。それにこの授業は戦闘訓練だけを続けるわけではないですよね?」
「あ~、まあ、そうだな。とはいえそれも意味があるかと言われれば違う気もするが……お前らが納得しているならそれでいい。それならお前たちの出席は自由にしておく。単位は……適当に時期を見計らって出しておこう」
「「ありがとうございます」」
何ともおざなりな対応に聞こえるが、そもそも授業の内容に合わないと分かっていて出席している二人にも問題がある。
むしろ教師の方が柔軟に対応してくれているともいえるだろう。
ルーカスにしてもカイルにしても講義を受ける以外の目的があるので、この教師の対応に感謝こそすれ怒るようなことはない。
教師もその目的には気付いているだろうが、黙っている時点で特に問題はないということになる。
そして二人の目的が何かといえば。
「おお? エルッキは見た目に反して繊細な魔法の使い方をするなあ」
「どれ? ああ。彼か。確かに細かい魔法を綺麗に使っているね。戦闘魔法向きかはともかくとして、細かい操作は得意そうだ」
「もともと魔力操作には自信があるのかな。考えてみれば、魔道具関係に強いから当然か」
「そう言われるとそうだね。それなら魔道具系のクラスに参加したほうがいいと思うけれどね」
「そっちも参加しているぞ。戦闘クラスにいるのは、家の人から言われているかららしいな」
建前や名誉を気にする貴族だけに、そうした思惑を持って講義に参加している生徒はいくらでもいるだろう。
そんな話をしているルーカスやカイルでさえ、こうして生徒たちの品定めをしているのだから文句を言えるような立場にはないのである。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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