(5)王家の話し合い

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 ルーカスとカイルが友情を深めている頃、王城では主とその息子、さらにその息子(主から見て孫)の三人が会話をしていた。


「――それで、ルーカスはこちらの提案を受け入れてくれたのだな?」

「ええ。条件は付けられましたが、想定の範囲内です。これ以上のことを要求されるかもしれませんが、それは公爵家が支払うべきものとなるはずです」

「ふむ。意外にすんなりといったな。ルーカスであれば何か他のものも要求してくると考えておったのだが」

「あくまでもまだ私的な会話と念を押したのが効いているのかと。実際に交渉が始まるとなれば彼の者が出て来るので、こうもすんなりとはいかないと思われます」

 

 エルアルドが言った言葉に、リチャード国王は納得した様子で頷いた。


「確かにな。ルーカスを動かした以上は、桃李が出て来るか。タフな交渉になりそうだ。ベニートよ。分かっておるな?」

「分かっております。決して損だけはしないように調整いたします」

「それでよい。ルーカスの知識を得ているお陰なのかは分からんが、奴らは思いもよらぬ方法で話を纏めて来るからの」


 ため息混じりにそう答えたリチャード国王だったが、その表情を見れば本音だということがわかる。

 一国を纏めている立場である以上は見せてはいけない顔ではあるのだが、国王の私室であるこの場には三人しかいないので本音を見せても問題はない。

 それにベニートやエルアルドも同じことを考えていたので、国王が弱気だと咎める気にもなっていなかった。

 

 浮遊島の扱いを巡って交渉をしてきた文官たちが、予想以上の反撃を受けて王家にまで問題を投げて来たことはいくらでもある。

 彼らとて王国を代表する文官たちであって、決して無能というわけではない。

 そんな文官たちが追いつめられて王族にまで相談を持ち込む結果となったのは、結局のところまだまだルーカスたちのことを甘く見ていたということだった。

 本来であれば狙わないような利を狙って交渉のテーブルについていたのが全ての原因だったので、文官たちが無能だと責めるのは間違いだと気付かされる結果となったわけだ。

 

「甘く見るつもりはなかったのだがな。やはり新参者だと甘えていたことは認めねばなるまい」

「確かに、仰る通りですな。しかもあちら側はこちらが認められるギリギリを狙って話を持ってくる始末。ただの小島だと侮ること自体が間違いだったということでしょう」


 父王が見せた弱気な言葉に、ベニートも素直に負けを認めるそぶりを見せていた。

 そんな二人の様子を見て、カイルだけは『この二人の会話をルーカスが聞いていたらなんて答えるだろうか』と一歩引いた気持ちで見ていた。

 学校を卒業してからまだ一年も経っていないエルアルドは、まだまだ実務を任されるところまでにはなっていない。

 そんな彼が、ルーカスに対してだけは強く関わりを持つようにと念を押されている。

 ある意味ではエルアルドもまたルーカスを相手に実践を積むように、父や祖父から試されているといっても間違いではない。

 

「ルーカスが優れているのか、あるいはもともと管理者という種族が優れているのか……とにかく油断できる相手ではないと周知できたことは良しとしよう」

「そうですね。中にはこのまま我が国として吸収せよという勢いの者もおりましたから。とはいえ完全にいなくなるとも思えませんが?」

「放っておけ。そういう者はこちらが何を言っても自らの考えを変えるまい。それに、ガス抜きも必要であろう」

「確かに。暴走しない限りは放置で構いませんか」


 祖父と父の会話を聞きながら、エルアルド自身はこうして現在のまつりごとが行われているのかと真剣に聞いている。

 ぽっと出のルーカスのことを甘く見る者については、エルアルドも思うところはあるが放置でいいという方針には概ね賛成だ。

 ただそうした輩が時に、ルーカスがどう出て来るか分からないという怖さがあるがそれは二人も理解しているはずだ。

 そもそも何も起こっていない問題に対して出来ることなどないので、今は注視しておくということくらいしかできない。

 

「いつ暴走するか分からない者たちのことは置いておくとして。父上、我が国の管理者たちとの話し合いはどうなっているのでしょう?」

「どうもなっとらんな。ルーカスのお陰で話し合いの場は作れておるが、それ以上でもそれ以下でもない。『私たちは今のままで構いません』と言われてしまえば、こちらが言えることはほとんど何もないからの」

「その言葉が今の我が国の立場そのものだといえるのでしょうか。ルーカス殿に頼り切りということも気になるところではありますが……」

「我らには連絡を取る手段がないのだから仕方あるまい。これ以上ルーカスに『借り』を作りたくないのは余とて同じだわ」


 打つ手なしと言わんばかりの顔をする二人を見て、ここでようやくエルアルドが口を出すことにした。

 

「お祖父様、父上。そもそもこちらが動かなければ管理者たちも動くことはしないのではないでしょうか。ルーカスについている藤花を見ていると、私にはそう思えてなりません」

「こちらから動くか。そう言うということは、そなたに何か考えがあるということか?」

「考えというほどのものではありませんが……まずは管理者という存在が島の維持に必要な存在であることを周知する必要はあるかと。それから『魔族』という言葉の元の意味についても」


 魔族が『魔法の種族』という意味を持っていたということは、既にリチャードやベニートにも伝えている。

 元はルーカスが言い出したことではあるが、エルアルド自身でも古い文献に詳しい研究者から話を聞くなどしてほぼ間違いないと確証を得ている。

 折角ルーカスが藤花という存在を使って魔族に対する印象を変えようとしているのだから王家がそれに乗らない手はない。

 ただしかかる手間のことを考えると王家が負う負担も大きくなるので、ベニートが躊躇する考えを持っていることもエルアルドとしては理解できていた。

 

「――確かに過去に起こしたことを考えれば、余らが何も負担を負わぬというのは道理が通らぬか。ルーカスにすべてを負わせるのも違うであろうしの」

「父上やエルアルドの仰ることは理解できます。ですが、そうそう簡単にいかぬことではあります。人の意識というのは簡単には崩せません」

「ベニートの言うことも間違ってはいないであろう。だがな。打つ手が全くないわけではない」

「時間をかけて少しずつ変えていくということでしょうか? しかしそれだと――」

「うむ。いずれルーカスに後れを取ることになりかねないので、それは出来れば避けたい手ではある。余が考えているのはそういうことではない。王家の間違いを認めて、余の引退を大々的に発表すればよい」

 

 唐突過ぎる国王の言葉に、エルアルドとベニートもさすがに驚いた表情になった。

 

「そこまで驚くとは思っていなかったぞ。そもそも余が引くことは、ルーカスが出て来る前から考えていたことではあるのだ。管理者のことを考えれば、ちょうどいい理由にもなるであろう?」

「ですが、それでは父上に汚名が残ることになりますが……」

「余が直接成した事ではない……が、それで汚名となるのであれば甘んじて引き受けるしかあるまい? いずれは過去の罪を清算せねばなるまいからの。それが余だっただけということだ」


 リチャード国王の引退と引き換えに、過去の王家が起こした魔族に対する行為を謝罪と共に全国民に知らせる。

 突拍子もないやり方ではあるが、それならば一気に人々の認識を変えることは可能だろう。

 とはいえさすがにいきなりすぎることではあるので、リチャード国王の引退に関しては考えの一つとして留めておくということでこの場での話は終わりになった。




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