(4)感じる友情

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 寮までの話が思った以上に盛り上がったお陰なのか、カイルから招待を受けてルーカスはそのままカイルの部屋に行くことになった。

 ただルーカスもカイルも城に呼ばれたことで、護衛役たちがそれぞれ別の場所で待機していたままのため途中でカイルの寮に行くことだけは伝えておいた。

 彼ら彼女らはそれぞれの手段を使ってカイルの寮まで向かうことになって、ルーカスとカイルはエルアルドが用意した馬車に乗って寮に向かった。

 馬車自体は『寮に向かうまで』が仕事になっていたようで、二人が寮に着いたところですぐに王城へと戻っていた。

 そして寮に入ったルーカスは、カイルに案内されるまま彼が普段済んでいる部屋へと案内された。

 

 カイルが住んでいる寮の部屋は、さすが公爵家の跡取りといえる広さを誇っている。

 それだけの広さの部屋を管理するのもかなり大変だろうとルーカスは考えていたのだが、部屋付きのメイドさん侍女がいるといるらしいのでその辺りは全く問題がないらしい。

 

「おおー。さすが公爵家だな。金があるところにはあるもんだ」

「何、その感想は? それに君だって平民と比べれば収入はあるだろう?」

「残念ながら農地からの収穫がまだだから収入はほぼゼロだな。港の利用料と商人からの税収でほぼトントンといったところだぞ」

「そうなんだ。新しい入植地の立ち上げが大変だと理解はしていたけれど、やっぱりそうそう上手い話はないというところだね」


 中学生程度の子供の言葉ではないが、さすが公爵家の教育を受けただけあって新しい土地への入植に関する話は知っているらしい。

 こうした話は学校でも学ぶことになってはいるが、それぞれの家で講義を受けていればスキップすることが出来るようになっている。

 ちなみにルーカスは前世の記憶を利用してある程度の点数を稼ぐことは出来るが、この世界と国特有の『常識』があるためきちんと学ばなければならないと考えている。

 ただその常識もあくまでガルドボーデン王国のものでしかないので、他の国ともやり取りをすることを考えれば、どこまで取り入れるかも悩むところではある。

 

「あの中継島には、まだ魔物が出てこないからまだ安心だけれどな。人が増えるとその分増えて来るという話は本当かな?」

「どうだろうね。島に人が住み着くとそこに魔物が寄って来るなんて話もあるけれど……正直本当かどうかはまだ疑わしいと私は考えているよ」

「実際人の管理がされていない漂っているだけの島にも魔物はいるからな。そう考えるは当然だと思うな」

「そうなんだ。だとするとあの説がどこから出て来たのか、気になるところではあるね」

「空を浮遊している魔物たちが種のようなモノを運んでいるという話もあるけれど……どうだろうな。なくはないけれど、そもそも魔物生態があまり分かっていない以上は答えは出ないんじゃないか?」


 魔物についてはまだまだ未知数なこともあり、様々な分野の学者が集まって日々喧々諤々の議論が行われている。

 そうした議論に口を挟むつもりがない二人ではあるが、否が応でも魔物と関わらなければならない立場になることは確定しているため情報は集めておく必要がある。

 もっともルーカス自身はまだ島の規模が小さいので、公爵家ほど島の運営には神経質になる必要がないとも考えているのだが。

 

「ふむ……そうすると、何か動物が飼育出来たりしないのかい?」

「どうだろうな。元々島自体にはいなかったし、出来たとしても数年とかだと考えているな。恐らくエサがあるとそれこそ魔物が寄ってきそうだな」

「それからの流入か。確かにそれならあり得そうだね。下手にエサを入れると逆効果ということかな」

「実際は微妙なところだと考えているな。それこそ多くの人口を養うためなら畜産を始めるのもありだとは思うけれど、今は外部から買ったほうがいいと思う。それに魔物の肉は空から手に入ると思う」

「だとすると冒険者も入っているんだね」

「いや。さすがに小さすぎて腕のいい冒険者は来ないさ。今島で魔物を狩っているのは、管理者たちだよ」

「管理者……そうか。彼女たちの仲間だね」


 もう既にクラス内では管理者の『魔族』呼ばわりはタブーになっているので、カイルも少しだけ気を使って彼女と呼んでいる。

 その様子を見て、折角の機会だとルーカスはとある提案兼確認をして見ることにした。


「そういえば管理者たちの『魔族』呼びだけれど、そもそもそう呼ばれること自体は何とも思わないそうだ。ただ今はその言葉自体に差別的な意味があるのであまり呼ばれたくはないらしいけれど」

「そうなのかい……?」

「ああ。そもそも彼女たちの種族が魔族と呼ばれていたのは、エルフたちと同じように魔力が高くて魔法の扱いが上手かったからだそうだ。そこから転じて今の扱いになったみたいだけれどね」

「その話は聞いたことがないね。そうか。魔法の扱いが上手いのか。――そうなるともしかするとその技術を危険視されたということもあるのかな?」

「どうだろうね。当時の為政者たちが何を考えていたかまでは、分からないらしい。藤花が生まれたのは最近だしね」


 一歩踏み込んだカイルの発言に驚きつつも、ルーカスは既にリチャード国王には開示している情報を話しておいた。

 この話を聞いてカイルがどう扱うかは、彼次第ということになる。

 実の父親である公爵本人に伝えるのか、あるいは彼が考えて動くのか――どちらにしても、これから恐らく長い付き合いになるであろうカイルへの見極めの一つに使えるはずだ。

 ルーカスがそう考えていることを知っているのかいないのか、カイル本人は何かを考えるような顔をしていた。

 そんなカイルに、ルーカスは助言ではないが今自分自身が考えていることを伝えることにした。

 

「まあ、過去の為政者がどう考えたかはどうでもいい――とまでは言わないけれど、大事なのは今どうするかじゃないか? どう頑張ったところで過去を変えることは出来ないだろうしな。それに、今の自分たちがどう行動するかで相手の考えも変わってくれる……といいな」

「それは……そうかも知れないね」

「問題があるとすれば、同じことを繰り返さないことだろう? 俺たちができることがあるとすれば、そういうことだと思う……ようにしているよ、俺は」

「フフッ。不思議だね。君の言葉を聞いていると本当にそれでいいと思えて来る。まだ出会ってひと月と経っていないというのに」

「それは嬉しいな。ただ公爵家の跡取りとしてはどうかと思うぞ。信用しすぎて引っかかったりしないようにな」

「自分でそれを言うかな。けれどまあ、忠告は素直に受け取っておくよ」


 今のたった数言の交わりで確かに感じたちょっとした絆。

 浮遊球の所有者と公爵家の跡取りという立場である二人ではあるが、この時は確かにそれを感じていた。

 今後立場の違いでぶつかることもあるかも知れないが、それでもこの時感じたものは二人にとっては大事なものとなる……はずだ。

 未来がどの方向に向かうかは分からないが、少なくとも今の二人はこの絆を心地いいと感じ始めていることは紛れもない事実だった。

 

 その後の話題は学校生活のことへと移り、学生らしいそれぞれの日常を話し始めた。

 立場が違う二人だけに周りにいる人物たちもちょっとした違いがあるため、出て来る話題も違っているところがある。

 その違いを話している内に時間は過ぎて行き、そろそろ門限という時間まで話し込むことになる。

 余談ではあるがついでとばかりに出された夕食は、ルーカスにとってはさすが公爵家だなと感じられるものだった。




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m(__)m

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