第3章

(1)突然の申し出

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 スキップ制度のテストが終わってから半月が経っていた。

 その頃になるとクラス内でのグループも大体決まってきて、大きく三つの派閥(?)に分かれることになっていた。

 一つはルーカスのような平民たちが集まっているグループで、残りの二つはカロリーナ王女が中心となっているグループともう一つは公爵家の生まれの貴族が纏めている。

 ただし三つあるグループのうちの一つである平民グループは何かあれば集まって話をしたりする程度の繋がりがあるくらいで、他の二つのグループほど纏まっているわけではない。

 そもそも平民グループを纏めている人物がいるわけではないので、何となく集まったり話をしたりしている。

 逆に他の二つのグループは将来の関係性のことも絡んでいるため、様々な思惑の下で集まっている。

 ルーカスの知る日本人的感覚からすれば中学生程度年齢でそんなことまで考えなければならないのかと思わなくもないが、学校自体が社交の訓練の場と明言している以上は将来を見据えたやり取りが行われるのはむしろ当然ともいえる。

 クラスにいる平民からすればどのグループの誰につくかで将来が変わって来る可能性もあるため、今は消極的な中立の立場を選んでいる者もいるだろう。

 

 浮遊球という特殊な存在を得ているルーカスは、そうしたやり取りからは一歩引いた立場で日々を過ごしている。

 いずれはどちらかを選ぶ必要性も出て来る場面があるかも知れないが、どっちも選ばないという立場を取ることが出来る位置にいることも確かだ。

 そうした微妙な立ち位置を理解しているのか、クラスメイトの貴族の中にはルーカスとの繋がりを得ようと会話をしてくる者もいる。

 エルッキもそうした貴族の一人なので、別にルーカスとしても頭から否定はせずにきちんとクラスメイトとして必要な会話はしている。

 

 そもそも学校全体で見ても数が少ない平民グループが実行力を持つ力を持つことはほとんどあり得ないので、どっちつかずの立ち位置にいても特に目くじらを立てられずにいる。

 それがこの学校の伝統(?)と言われればそれまでなのだが、ルーカス自身も平民たちを纏めて何かをしようなんてことは考えていない。

 クラスの中にいる他の平民たちも似たり寄ったりのことを考えているのか、敢えて強固なグループにしようとは考えていないように見える。

 これがもし平民に対する差別的な言動があればまた別なのだろうが、そんなことは起こっていないので強くまとまる必要がないともいえるかもしれない。

 

 そんな感じである程度落ち着いて日々を過ごしていたルーカスだったが、ある日色々な意味でクラス中から注目をされることになる。

「ルーカス、少しいいでしょうか?」

「カロリーナ王女、何かご用でしょうか?」

「今日の放課後、お時間はありますか? お兄様がもしよろしければ久しぶりに話がしたいと仰っておりました」


 カロリーナ王女のその言葉に、この時たまたま教室にいた他のクラスメイトがわずかに騒めきだした。

 ルーカスとカロリーナの関係は初日に起こったあの騒ぎの時くらいで、それ以外はごく普通のクラスメイトの関係でしかなかったからだ。


「今日は特に用事はありませんが……ちなみにどちらの王子がお呼びなのでしょうか?」

「フフ。すみません。確かに言われなければわかりませんね。誘いがあったのは、エルアルドお兄様です」

「エルアルド殿下でしたか。特に問題はありませんが、何かあったのでしょうか?」

「そういう感じはしませんでした。ただ単に話をしたかっただけではないでしょうか。島の件のこともあるでしょうから」

「そうですか。といっても特に変わったことは何も起こってい無いのですが、いまここでそれを言っても始まりませんね」

「その通りですね。私もお兄様が何を話したがっているかまでは分かりませんから」


 聞きようによっては何気ない会話でしかないのだが、周りで聞いているクラスメイトの内心は様々なものが渦巻いていた。

 王種を持つルーカスが中継港がある島を運営していることは、既にある程度の身分を持つ者なら周知の事実となっている。

 そのため王族との繋がりがある事自体は、あって当然と考える者は多いはずだ。

 ただエルッキが知っている事実を広めなかったといこともあるのだろうが、エルアルド王子が気軽に呼ぶような関係だとは考えていなかったのが大半だろう。

 そしてさらに続いたカロリーナ王女が発した次の言葉で、クラスメイトは今まで以上の動揺を示すことになった。


「とにかくエルアルド殿下がお呼びということはわかりました。放課後、門へ向かえばいいのでしょうか?」

「いえ。今回はわたくしも行くことになっているので、一緒の馬車で向かうことにしましょう」

「え、ご一緒の馬車ですか? それは大丈夫なのでしょうか」

「大丈夫ですよ。当然ですが、カイルも一緒に向かいますから」

 

 カロリーナが名を上げたカイルとは、二人のクラスメイトでもありカロリーナにとっての婚約者でもある。

 その婚約者が一緒だと聞いて、ルーカスも納得して頷いた。


「そういうことですか。それなら構いませんが……逆にそうなると何か特別な話があるのかと疑ってしまいますね」

「どうでしょうか。折角の機会だからと呼んでいる可能性もありますから何ともいえないと思いますよ」

「そうですね。申し訳ございません。少し邪推が過ぎました。――とにかく放課後に向かうことは了解いたしました」

「ええ。それでは、また放課後に」

 

 ルーカスとカロリーナ王女のこの時の会話は、それだけで終わった。

 ただ当然ながら周りで話を聞いていたクラスメイトとはそれだけでは終わらずに、様々な憶測の下で会話が続けられることになる。

 今回の呼び出し(?)は、それだけルーカスが王家と親しいということを公表していることにも等しい。

 それ自体にも思惑があるのは分かるが、それ以上に今回のアピールで何を狙っているのかを各貴族で考える必要がある。

 そんな裏などないとエルアルドが言ったとしても、様々なことを考えて行動するのが貴族という生き物である。

 

 周囲の反応を余所に、二人はさらに二言三言会話をしてから次の授業のために分かれていた。

 特にカロリーナ王女は話題にもあったカイルのところへ行き、いつも通りに会話をしたことで既に話をしていたのだと周囲が理解をした。

 それがごく自然な様子で、かつ誰にも今回の件が伝わっていなかったことからさらに憶測を生む結果になったが、王女とカイルの二人は特に気にした様子は見せなかった。

 一方でいきなり王女から話を聞かされたルーカスはといえば、エルアルドならこういうこともしてくるかと納得していた。

 

 そんな中で隣の席に座っているアルフが、興味深げな表情でこう聞いてきたのは自然な流れだった。

「な、なあ。大丈夫なのか?」

「何が……って、そうか。アルフは知らなかったか」

 少なくとも今回のようにエルアルド殿下から気楽に呼ばれるような繋がりがあるということをアルフが知らないと今更ながらに思い出したルーカスは、改めて説明をした。

 

 エルッキの場合は以前の騒ぎがあったことである程度関係性を知っていたので、周囲ほど動揺するということはなかった。

 それでもこうして公の下で関係性を明らかにしたことで、それなりに驚いてはいる。

 ただ今まで周囲に対して黙っていたことを秘密にしなくて良くなかった事については、内心で安心していたことも事実ではある。

 あとは周囲がどう反応するかによって対応が変わって来る可能性があるわけだが、それについてはエルッキにとってはそこまで気にするようなことでもないと割り切っていた。




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m(__)m

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