(21)締め

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 ルーカスとの直接交渉を望んで学校の敷地内へと特攻してきた他国の貴族おバカさんは、のらりくらりと会話をしている内にやってきた騎士たちに連れられて無事にご退場となった。

 ちなみにそのおバカさんの取り巻きたちは、ルーカスの顔も知らずに特攻してきたためエルッキをルーカスだと思い込んで話をしていた。

 エルッキが着ていた貴族の服装からして判断したようだったが、その程度の情報でよくぞ特攻をしてきたなとルーカスは内心で呆れていた。

 折角相手が勝手に勘違いしてくれていたので、エルッキはにはわざと黙ってもらっていたうえでルーカスが使用人の振りをして適当に対応した。

 最初の一言二言でまともに対応するのも面倒だと感じたので、あとは適当にやり過ごした感じだ。

 そもそも相手の情報もまともに知らない状態で特攻してくるような輩なので、それこそまともな『交渉』になどなるはずもない。

 他国の貴族の身分だけでことを進めようとしていたことが分かった時点で、相手にすること自体無駄だと判断した。

 やってきた騎士たちにお任せして、あとのことはガルドボーデン王国に対応を丸投げすることになった。

 

 ただ対応を王国に丸投げすることになったのはいいとして、さすがに騎士にその貴族たちを引き渡して終わりとはいかなかった。

 他国の貴族を回収しに来た騎士たちが来るまでの間に何があったのかを、きちんと王国に報告しなければならない。

 そう言われて騎士たちに連れて行かれた先には、何故か頭を下げたエドアルド王子がいた。

 迷惑を被ったのはこちらなのに、わざわざ出向くのかと多少カリカリしていたエルッキの護衛たちがそれを見て唖然としていた。

 

「――アークラ子爵家のエルッキだったか。君たちを巻き込む形になって済まなかった」

「い、いえ! その謝罪は既にルーカスからも貰っているので、王子から直接いわれるようなことではありません」

 国の王子、しかも第二継承権を持つエドアルドからの直接の謝罪に、さすがのエルッキも慌てていた。

「そうはいかない。よりにもよって、中央の学校に無用な混乱を持ち込んでしまったのだ。後程子爵にも直接謝罪が行くはずだが、まずは当人に謝っておかないといけないからな」

「ハハッ。わが身にとっては過分な申し出ではありますが、その謝罪を受け入れさせていただきます」

「フフ。そう固くなるな。アークラ子爵家の出の割には、随分と礼儀作法が人寄りになっているな」

 

 ドワーフの元締めであるアークラ家は、基本的に王国の礼儀作法に明るくないというのは常識レベルで受け入れられている。

 その一族であるエルッキが、多少とはいえまともな対応をしたことで、エドアルドは少し驚いているようだった。

 

「ありがとうございます。それは完全にこいつのお陰ですが」

「俺? なんかしたっけか……?」

 いきなり指を指されたルーカスは、思い当ることがなく首を傾げた。

「何を言っているんだ。他のことはともかく、工芸に関することで負けるとは考えてもいなかったんだぞ」

「工芸? いや、どう考えたってエルッキの方が上だろ?」

「技術に関しては、な。知識は完全にお前が上回っているだろうに」

「そういうことか……」

 ルーカスとエルッキはスキップ制度を利用する際に何度か勉強を一緒にすることがあったが、その時に工芸に関する話をしたことがあった。

 その際にルーカスは前世の知識を幾つかの提案もどきをしていたのだが、どうやらそれがエルッキに突き刺さっていたようだった。

 

 ただそれが何故エルッキの言動の変化に繋がるのか分からずに首を傾げるルーカスだったが、その二人のやり取りを見てエドアルド王子が楽しそうに笑っていた。

「ハハハ。まさかとは思ったが、本当にアークラを知識で上回るか。君は本当にこちらを楽しませてくれるね」

「ちょっと思い付きを言っただけなんですが……それはともかく、わざわざ子爵家の名前を言うということはエルッキの言動の変化となにか関係があるのでしょうか?」

「ああ、君は知らなかったのかい。アークラ家はドワーフを纏めているだけあって、工芸分野で追随を許さない。それ故に言動が多少外れていてもお目こぼしされているわけだが――」

「――俺……私がエルッキの知識を上回ったことで態度が変わったと」

「別に悪い変化じゃないからいいんじゃないかな? それに君に対する態度は変わっていないのだろう?」

「それはまあ、確かに」

 今更エルッキに畏まった態度をとられても何とも微妙な気持ちになると、ルーカスは同意するように頷いていた。

 エルッキもそのことを理解しているのか、ルーカス本人ではなく周りに対する態度を変えているようだ。

 

 ひょんなところでアークラ一族の性質を知ってしまったルーカスだったが、そういうこともあるかと割と気楽に考えていた。

 そもそもヒューマンだけではなく、多種多様な種族がいる世界だ。

 それぞれの種族で独自の考え方や文化があって当たり前のことだ。

 アークラ一族の性質については別にドワーフ全体で言えるわけではないが、それもまたよくある話だったりもする。

 

「――少し話が脇道にそれてしまったね。それで話を元に戻すけれど……といってもこれ以上話すことはあまり無いか。ルーカスは、あの貴族たちへの処分は気にしないだろう?」

「そうですね……いや、他国の貴族なのに直接の処分が出来るのですか?」

「ああ、これは言い方が悪かったか。勿論できないが、相応の負担を相手国に負わせることは出来るさ。既にそのための交渉に入っている。当然中継港のことも含まれているな」

「それはいいですね。任せておけばこちらに負担もないでしょうし、お任せいたします」

「それは有難いけれど、いいのかい? 今のままだと完全に我が国の腰巾着と言われるようになると思うけれど?」

「むしろそうなってくれれば嬉しいですね。今はまだまともな外交などできないですから。そもそも島自体をガルドボーデン王国側に置くことになる以上、自然なことですから」


 今現在ガルドボーデン王国に近い場所にある王国を名乗っている島は三つあって、ガルドボーデン王国を含めると大体ダイヤ型に位置している。

 ルーカスの浮遊球が用意した中継港は、元からガルドボーデン王国側に置くことを決めているのでガルドボーデン王国が他国との折衝をしてくれるのであればそれに越したことは無い。

 

 そもそもこの世界では、領海や接続水域といった明確な区分は存在していない。

 その分、国同士でも争いが発生しやすい……かと思えば、そうでもなかったりする。

 ルーカスの知る元の世界では解散資源という問題が起こっていたが、大地がない世界なので魚介などの生物資源くらいしか取れるものがない。

 そうした生物資源すらわざわざ余所の国の近くまで出張って取りに行くという認識がないのだ。

 問題が起こるとすれば宙域を漂っている島々を得た時くらいだが、それは完全に早い者勝ちが暗黙のルールとなっているので領土領海の問題が発生しないともいえる。

 

「そうかい? ルーカスがそう考えているんだったらそれでいいんだけれどね。とにかく、このままなあなあにするつもりはないとだけは断言しておくよ」

「ええ。そうしてください」


 今回の件でルーカスは実害らしい実害はほとんど受けることがなかったので、はっきり言ってしまえばどうでもいいともいえる。

 勿論ルーカスはそんなことをわざわざ口にするつもりはないので、この件に関しては本当にこれで終わりとなった。




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大晦日です。今年最後の一日をどうお過ごしでしょうか。

たまたま章の終わりが一年の最後になりましたが、明日からはまた新しい章になります。

今後とも「漂う島々」をよろしくお願いいたします。



是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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