(20)急報
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いくら前世の記憶があるとはいっても、そうそう簡単に元々の学力が上がるはずがない。
それを実感できたスキップテストの結果だったが、ルーカスとしてはかなり満足のいく出来だった。
そもそもスキップを狙っていたのは取りたい選択科目があったからで、そのための時間確保は出来たからだ。
ちなみにクラスメイトの中には必須科目でスキップを勝ち取れなくても選択科目ではしっかりとスキップを勝ち取った者もいる。
選択科目まで含めるとAクラスの中ではスキップしなかった者は一人もいなかったので、さすがの結果だったともいえる。
もっとも選択科目は基本的に剣術などの戦闘系や魔法系、音楽や美術などの芸術系なので、趣味の分野といわれてしまうような面もある。
それらの技術が実用的を超えて金銭を得られるレベルにまで達していればスキップできる可能性が高かったりする。
必須科目に関しては、後々のために無理にスキップせず敢えて通年の授業を受けるという選択した生徒もいるはずなので、落としたからといって出来が悪いというわけでもない。
それぞれの事情はともかくとして、ルーカスは折角得た空き時間を使ってどの選択科目を選ぶかを悩み始めていた。
取りたい科目があるからこそスキップ制度を活用して時間を空けたわけだが、結局時間が重なってしまって取れない科目がある。
そんな悩みに少し呆れた様子で助言してくれたのは、すでに友人といってもいいであろう付き合いになってきているエルッキだった。
「――今年取れないなら来年取ればいいじゃないか。応用科目なら前の年から基礎を取っておかないといけないが、そういうわけではないのだろう?」
「そ、そうか! その手があった!」
どうしても取りたいという考えに囚われてしまっていたルーカスにとっては、その助言は目から鱗だった。
そのルーカスの反応を見て、エルッキは益々呆れた様子で首を左右に振っていた。
「やれやれ。スキップ制度の結果だと優秀なはずなんだがな。ルーカスは妙なところで抜けているな」
「うぐっ! ……何も言い訳が出来ない」
「らしいといえば、らしいがな。むしろ何をそんなに焦っているのかは知りたいところだが」
「別に焦っているわけじゃないさ。ただ単に授業が面白そうだったから出来るだけ早く受けたいと考えていただけだ」
取りたい授業があったからこそ、ルーカスが盲目的になっていたことは紛れもなく事実だ。
そもそも元は考えてもいなかったスキップ制度を利用したことも、そのためだった。
だからこそどうにか全ての授業をどうにか入れ込みたいと考えていたことが、今回やらかした原因の一つとなっていた。
勿論、ルーカスの元々の性格がそうさせたということもあるのだが。
そんな他愛もない会話をしながら寮のある場所へと向かっていると、それまで黙って後ろから着いて来ていた藤花がルーカスの元へと近寄ってきて耳元で囁いた。
「――マスター、少々厄介事です」
「何があった? エルッキに聞かせても大丈夫?」
「大丈夫以前の前に、彼の護衛にも話を聞いてもらったほうがいいかも知れません」
普段一緒に過ごしていると忘れがちになるが、貴族家の生まれであるエルッキにはきちんとした護衛が付けられている。
今着いているのは二人だが、交代制でついているので全てを含めるとかなりの人数になるだろう。
もっとも各貴族は独自に騎士団を抱えているので、そこから出されている人員だと考えれば人数はあまり気にしなくもいいのかもしれない。
そもそもエルッキの実家はドワーフを纏めている一族だけあって、子爵の中でも裕福な貴族家に分類されているので貴族家の中でもしっかりとした騎士団が作られているためだ。
「エルッキ、ごめん。ちょっと問題が出たみたいだから護衛を呼んでもらっていいか?」
「問題? ここの学校内でか? ……ちょっと待ってろ」
少し疑問を感じて首を傾げたエルッキだったが、これまでの付き合いでルーカスが無駄なことはしないと分かっているのですぐに手招きをして護衛を呼んだ。
「二人とも申し訳ございません。ちょっと私の方で問題が起こったようで、来てもらいました。それで藤花、問題ってなに?」
「外交交渉の件です。あれで少し暴走した国外貴族が出たようです」
「あ~。なるほど」
藤花が言った少しの言葉だけで、何が起こったのか理解したルーカスはげんなりとした表情を浮かべた。
それから藤花が手早くエルッキと護衛二人に説明したのは、ルーカスが開発している中継港に関して交渉している他国の貴族が無駄な行動力を発揮してこの場所まで向かっているという情報だった。
それを聞いたエルッキは勿論のこと、護衛の二人も呆れたような信じられないという表情を浮かべた。
「中央の学校は我が国の貴族家の子供が集まっている学校だというのに、そんな無茶を通したのか!?」
「ありえませんね。いくら他国の貴族とはいえ、申請をした時点で即座に却下されるはず」
「お二人の言う通りですね。実際、その貴族が行った申請は却下される方向で調整されているようです。……が、書類を出した時点で申請が通ると『思い込むことにした』ようです」
何とも言い難い様子で説明を加えた藤花に、その場にいた全員が『その貴族は、馬鹿なのか』という表情になった。
いくら他国の貴族とはいえ、そんな暴論が通じるはずがない。
……ないはずなのだが、逆にその考えが今回の件のあだとなっていた。
要はあるはずがないことが起こったために、折角いる警備隊を含めたあらゆる箇所で隙が生じた。
結果として、藤花に連絡が来て対処せざるを得ない状況に陥ったわけだ。
「護衛のお二方は、そこまで緊張せずともいいですよ。相手の目的はあくまでも私でしょうから。万が一のことを考える必要はありますが、必要以上に気を張る必要はありません」
「ルーカス、それはいいがお前は大丈夫なのか?」
「どうかな。こればかりは相手の出方を見ないとわからないよ。いくら何でも暴力に訴えてくるとは思わないけれど、そもそもこんなことをしてくる時点で馬鹿な真似をする可能性もあるから」
何とも言えない顔でルーカスがそう言葉にすると、子爵家側の三人が揃って「ああ」という顔をしていた。
「突拍子もないことをする相手だけに、出方が分からないというわけか」
「そうだな。といってもある程度の予想は出来るからどうにでもできる……と思いたい」
「おいおい。そこで気弱になるなよな」
「仕方ないさ。はっきり言ってしまうけれど、馬鹿なのに無駄に爵位を持っているほどやりずらい相手はいないからな」
王国に暮らしている以上は貴族とはうまく付き合っていかなければならないわけで、時にはどうしたって『馬鹿』な相手をする必要が出て来る。
いや。ルーカスの知る元の世界であっても、時にはそういう相手に商売をしなければならない場面も出ていたのだから貴族云々は関係ないともいえる。
とにかく自らの思惑だけで動いてごり押しをしようとして来る相手には、躱すか無視するか力技を使うかなどをして対処しなくてはならない。
もっとも今回の場合は、そこまで面倒なことをしなくてもいいとルーカスは考えている。
そもそも彼らがいる場所は国が運営している学校であって、いくら他国の貴族だからといって無理がきく場所ではない。
何を言われても適当に凌いでしまえば、あとは王国が対処をしてくれるはずだ。
場合によっては、王国側が相手国に対して強気に出られる材料を得ることが出来たと喜ぶことになる可能性もある。
そのためにもまずはその『馬鹿』の相手をして、どうにか時間が稼げればこちらの勝ちだとルーカスは考えていた。
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※年末&お正月!!
ということで、今日(30日)から1月3日までは毎日投稿をします。
少しでも皆様の正月休みのお供になりますように。。。
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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