(19)スキップテスト

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 各国への対応は桃李がメインとなって動いてもらえているので、ルーカスの今の仕事はできる限り納得のいく形で各教科のスキップ制度を勝ち取ることだ。

 数学系に関してはそれこそ前世の記憶が生きているので、ある程度復習をしただけで学校卒業分までスキップできそうな感触を得ている。

 こちらの世界では数学といってもちょっとした物理系も入って来ているので、純粋に計算だけできればいいというわけではない。

 ややこしいのが物理や化学に関しては、魔法理論とも絡んでくるというところだろうか。

 どちらかといえば魔法理論にこそ化学や物理が関係しているともいえるため、ルーカスとしては混乱する元ともなっている。

 何故数学に物理系が入って来るかは不明だが、学問を体系化していくうちにそうなっていったとしか言いようがない。

 それにやっている内容はごくごく簡単な内容なので、で思い出す感じで対応するしかないとルーカスは考えている。

 もしかすると初代の時代から数学や理科を混ぜて考えられたいたものが、時代と共に魔法理論の方に移って行ったのではないかというのがルーカスの勝手な推測だ。

 

「よし。ここまで来たらあとはテストを受けるだけ!」

 気合十分でようやくスキップテストを受ける気になっているルーカスに対して、アルフはやや気弱な表情を浮かべていた。

「俺はまだまだ不安だらけだぞ……。ルーカスは何故そんなに元気でいられるんだ?」

「テストまであと数時間も無いんだから、今更あがいたって仕方ないだろ? あとは来たテストに向き合うだけだ」

 

 それはまさしく季節ごとどころではない数のテストを毎年受けて、受験戦争を乗り越えて来た記憶を持つが故の心構えだったが、アルフにはそんな余裕は持てなかった。

 そもそも彼らが今いる学校自体、受験で入って来ているはずなのだが、アルフにとってはまた別の緊張感があるようだった。

 特にAクラスにいる以上、成績優秀者と見られるためここで一つもスキップが出来ないとなると、何故いるのかという目で見られることになるらしい。

 それは何人もの先輩たちが経験していることであるらしく、それもまたアルフを緊張させている原因の一つになっているようだ。

 

「ハッハッハ。さすがルーカスは余裕だな。ワイは出来るところまでと諦めがついているがな!」

「エルッキはいい意味で開き直っているな」

「うむ。ワイの学力だと、どうせ全学年分のスキップは無理だからな。出来れば二年分までは飛ばしておきたい」

「それはそれで開き直りが良すぎる気もするけれど……まあ、変に緊張しすぎて失敗するよりもましか」


 何ともエルッキらしい良いようだったが、ある意味では彼らしいともいえるのでルーカスは苦笑するだけで済ませていた。

 これから行われるのは数学のスキップ試験で、全学年分のテストが一気に配られる。

 どの学年のテストを受けるかは、各自が受け取った時点で判断して試験をすればいい。

 これが数学のスキップ試験のやり方で、同じようなやり方をする教科もあれば違ったやり方をしている教科もある。

 

 ここでルーカスが教室内を見渡してみれば、クラスメイトたちがガヤガヤと何とも言えない緊張感の元で話し合っていた。

 ルーカスにとっては懐かしいとも感じられるテスト前の雰囲気に、どこの世界でもこういう時は変わらないんだなと妙な感情を抱いていた。

 元が優秀なクラスだけに剣呑な様子になっている人はいないが、それでもアルフのように落ち着けずに何かを見直している人も多数いる。

 ちなみにテスト直前のルーカスは『なるようにしかならない』と考える派だが、別に悪あがき派を否定しているわけではない。

 

 そうこうしているうちに、担任のテリーが紙の束を持って教室に入ってきた。

 テストの強化は数学だが、この日のこの時間は全教室で同じテストが行われるので担任教師がそれぞれの教室で様子を見ることになっている。

 生徒たちもそのことを事前に聞いていたので驚くことは、しなかった。

 

「よーし。それじゃあ、始めるからなー。一応言っておくけれど、こっちが開始を告げるまでは中を見たりしないように」


 そう一言いい置いてからテリーはテストを配り始めた。

 一学年であるルーカスたちには全学年分のテストが配られるためそれなりの量になるわけだが、時間的にはまだ余裕があるので配っている間に時間が来るということにはならなかった。

 どうやって大量の同じ問題を用意しているのかが気になるルーカスだったが、そこはとある個人の魔法でカバーできる範囲なので強引に用意していたりする。

 

 生徒全員にテスト用紙が配られてから数分と経たずに、実際にテストが始まった。

 ルーカスはとりあえず最終学年のテストをぱらぱらとめくって見て、これなら行けると判断してすぐにその問題から取り掛かった。

 少しでも難しい問題がありそうだという感触があればまずは三年次からやろうと考えていたのだが、その必要はなさそうだった。

 結果としてその判断は間違っておらず無事に全ての問題に取り掛かることが出来たので、あとは結果待ちという状態で数学のテストを終えることが出来た。

 

 そしてテスト終了後、生徒たちが思い思いの表情をしているところも絶世界と全く変わらない反応だ。

 中には暗い表情をしているクラスメイトもいるが元から数学が得意じゃなかったり、あるいは狙っていた学年までのスキップができなかったりした者だろう。

 最初から諦めてスキップテストを受けない生徒もいるのだが、さすがにAクラスだけあってほとんどの生徒がいるのはさすがの結果ではある。

 そしてテスト結果が出た後は改めて教科によって、授業を受けるクラスが再編されることになる。

 

「だー! 終わった終わった。ルーカスはどうだった?」

 テストが終わってすぐにアルフがルーカスに話しかけて来た。

「まあ、たぶん大丈夫じゃないかな? 余程のことが無い限りは失敗しないと思うぞ」

「ほー。それはそれは。あれを狙って取れるとはさすがとしか言いようがないな。俺はどうあがいても三年次までのスキップになりそうだ」

「そういう言い方をするってことは、二学年分受けたってことか」

「四年次が心配だったからな。一応念の駄目だ。お陰で時間がギリギリになったけれど……あとは計算ミスとかが無ければ大丈夫のはずだ」


 数学で一番怖いのは計算ミスではと思ったルーカスだったが、敢えてそれを言うことは無かった。

 きちんとした結果が出るまで、わざわざ不安にさせる必要はないだろうと考えてのことだ。

 

 そうこうしているうちにエルッキまで混ざってテスト談議に花が開いた。

 ただこの日は数学のテストだけではないので、中には既に次のテストに向けて勉強をしようとしてる生徒も出始めて来た。

 そんな彼らの邪魔にならないように、次第にクラス内の声も静かになってきた。

 それに合わせてルーカスたちも自然と解散となり、次のテストに向けての勉強を始めた。

 

 ――そんな流れでスキップ制度のテストを受けて行ったルーカスは、結果として必須教科五科目のうち三科目はスキップ制度を勝ち取ることが出来た。

 その中でも数学だけは終了までの資格を得ることが出来て、今後は完全に授業を受けなくても済むようになった。

 ただこれは別にルーカスだけに限った話ではなく、片手で数えるほどの生徒が同じように終了資格を得ることが出来ている。

 それ以外の教科に関しては、完全に得意科目不得意科目が分かれることになったわけで、ルーカスも納得したうえで今後の授業の組み立てをどうするかを考え始めることになった。




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